10 おわりに
これまで述べてきたように、化学物質による遺伝子発現の異常:「環境エピゲノム異常」を「毒性学」の基盤となる「基盤毒性」としてとらえ、「毒性学」全般に、これまで以上に発生・生殖毒性の手法や考え方を導入することが必要であると考えられます。
そして、「毒性学」は、胎児期の始原生殖細胞(PGC)への投与を基盤とする、新しいエピジェネティク毒性学(PGC-based Epigenetic Toxicology)として再構築し直すことが緊急の課題であると考えられます(図3)。
また、生殖・発生毒性学の研究分野において、多くの化学物質についての、催奇形性や行動奇形に関する膨大な蓄積されたデータを、「環境エピゲノム異常」の観点から再検討することも重要なことです。
今後、「環境エピゲノミクス異常」という概念によって、前臨床試験としての「毒性試験」、ヒトを用いた「臨床試験」、さらには「臨床医学」までをも、強固に連携された研究分野として包括できる大きな可能性があります。
「環境エピゲノミクス」を基盤とする「エピジェネティクス毒性学」は、成人・老人における臨床医学や小児などの精神・神経や行動などの社会行動学の分野にまでも大きな影響を与え、将来の世代にわたるヒトの健康・福祉に大きな役割を果たすことが期待されています。
最後に、「迷惑な進化」(原題 "Survival of the Sickest、 S.Moalem著、矢野真千子訳)の最後の文章を転記させていただきます。
「エピゲネティクスはひょっとすると、人間の健康管理の概念をまったく新しいものに書き換えてしまうかも知れないのだ。DNAは運命だが、修正可能な運命だ。」
runより:参考文献は省略しています。