過敏性を示す群としては、Cullen の1987 年の本態性多種化学物質過敏状態に適応する患者(MCS)、慢性疲労症候群や化学物質過敏症を示す湾岸戦争症候群(CFS/CS)、ガソリン中のメチルテトラブチルエーテルニ特異的に反応している患者(MTBE)が含まれる。
すべての研究で、性、年齢をマッチさせた健常者を置いた。
嗅覚検査では、MCS 患者で嗅覚閾値が低下しているとされてきた過敏性は示されなかった。
しかし、用量依存性に閾値以上の濃度でのフェニールエチルアルコールによる症状の出現が認められた。
盲検で、清浄空気、ガソリン、11%MTBE 混入ガソリン、および15%MTB 混入ガソリン試験で、MTBE 感受性群では、閾値の効果が認められ、ガソリン15%MTBE 混入暴露で症状が有意に増加した。
化学物質混合物の臭いに対する反応を自律神経機能(心拍数、呼吸数、正常呼吸時の終末呼気のCO2 濃度)を測定した。
一般の多種類化学物質に反応する患者では症状に変動を与える傾向があったが、特定の物質にのみ反応を示す患者では変動を示さなかった。
例えば、CFS/CS の湾岸戦争症候群退役軍人群では、ジーゼル排気ガス負荷に対して終末呼気CO2 が減少したが、MTBE 過敏性群では精神身体的な変化を示さなかった。
対照を置いた嗅覚試験では、特にマスキング除去のための脱順応を行わなくても、化学物質に過敏性を示す患者では有意に反応を示すことが明らかにあなった。
とはいえ、これらの研究は、症状が必ずしも身体的な所見とは一致しないことを示していた。結果には患者個々人の特性が決定的な役割を果たしていた。
化学物質不耐性患者の過敏性獲得の研究:個人差の関わりの研究
化学物質不耐性は個人差を特徴とするが、化学構造的に無関係な環境微量化学物質に反応する多彩な症状を示す疾患である。
本論文では最初の化学物質暴露後に生じる微量化学物質に反応し多彩な症状を示し、症状が進行、増大して行く傾向を示す神経系の過敏性獲得について考察を加える。
過敏性獲得のモデルは、環境化学物質、身体的ストレッサー、および精神的ストレッサーの負荷を受けている一群の人達の化学物質不耐性の始まりや、その症状の発症の種々な仮設を提供する。
われわれの研究室での最近の成果では、化学物質不耐性患者では脳波や拡張期血圧のような関連する因子の経過を追って過敏性獲得を供覧してきた。精神病的な不調のみではこのような所見を説明することは不可能である。
化学物質不耐性患者や、過敏性を容易に獲得する人には一定の傾向がある。
例えば、女性、ある種の遺伝的背景(アルコール好きの両親からの出生)、砂糖の取り過ぎや炭水化物取り過ぎなどである。
全体的にみると、高度に化学物質不耐性となっている人々の15~30%は非常に過敏性を獲得しやすい。
過敏性を獲得しやすいことは、不良環境に対して、情報処理が適正に行われてはいないが、適応や警戒に役立っていると思われる。
とはいえ、過敏性獲得は徐々に外部状況に適正に反応する点からずれてしまうために、この反応は慢性の、多症状の不健康状態を生み出し、その例としては多種類化学物質過敏症、線維筋痛症などを上げることが出来る。
原因物質の種類によるのではなく、個人の反応性の特性や常同症のような繰り返し刺激が、中枢神経、自律神経、および末梢神経系の機能障害の症状の出現をむしろ規制しているように思われ、その機能障害も臨床症状を示したり、それ以下の軽微な症状を示したりする。