・●群馬県知事の空散自粛は英断
編集部 有機リンは神経毒ですね。
青山 今年5月、初めて国も有機リンの神経毒性の存在を認めました。
参議院予算委員会で公明党の加藤修一議員の質問に答え、厚生労働省の健康局長が、「有機リンは脳機能に関係するさまざまな酵素の働きを低下させ、慢性の障害を引き起こす恐れがある」、と答弁しました。
政府が有機リン化合物の神経毒性を認めない限り、有機リン系農薬の規制強化は一歩も進まない、と思っていましたので、これは、百歩前進です。
業界団体の農薬工業会は、1研究者の報告に過ぎない、と反発しているようですが、報告された研究は、厚生労働省が多額の補助金を出し、有機リンの研究で世界的に著名な北里研究所病院の石川哲先生らのグループに委託した公的なものです。
報告には、有機リンには精神が侵される慢性中毒があり、うつや記憶力・知力の低下、言葉が話せなくなる統合失調症になる、と書かれています。
群馬県の環境衛生研究所でも、「有機リン農薬と化学物質過敏症の病態解明に関する研究」が2004年から3年間行われ、その結果も踏まえ、小寺弘之群馬県知事は、「有機リン系農薬の空散(ラジコンヘリによる農薬の空中散布)」の自粛要請を出しました。
本当にすばらしい決断だったと思います。
編集部 ポジティブリスト導入という追い風もあったでしょうね。
青山 今が、有機リン農薬の怖さをアピールしていくチャンスととらえています。
有機リンは、松くい虫防除や農地に空中散布されているほか、電車内やバス、病院など、身の回りで使用されています。
●うつ、不眠症、多動障害の原因にも
編集部 有機リン系農薬の神経毒性はどんな症状が出るのでしょうか。
青山 これまで、大量の有機リン化合物にさらされた場合、急性の毒性があることは確認されていました。
石川先生の報告は、微量の有機リンに長期間さらされ続けた場合も、徐々に神経症状が現れる慢性中毒があることを明らかにしました。
有機リンの慢性中毒は、リソホスホリパーゼ(NTE)という酵素に直接ダメージを与えて引き起こされることがわかりました。
この酵素の働きが侵されると、狭心症や心筋梗塞の原因になったり、記憶障害や子どもの多動障害の原因になることも指摘されました。
そのほか、さまざまな酵素の働きを阻害して、人間の心身に悪影響を及ぼすこともわかってきています。
特に重要なのは、脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)の阻害です。
この酵素が有機リンに侵されると、記憶を失ったり、食欲がなくなったり、うつに陥ったり、睡眠障害になることが、最近の研究で明らかになってきています。
●ネオニコチノイドで新たな不安
編集部 そのほか、先生が危惧されていることは。
青山 有機リンに代わって使用が増えている、ネオニコチノイド系農薬も神経毒性が強いので心配です。
松食い虫防除用のマツグリーン(ネオニコチノイド系)が散布されたら、心電図に著しい不整脈を示す患者が急増しました。
まだ、研究論文は少ないのですが、人間の行動を抑制する神経に悪影響を与える可能性があります。
犯罪につながり得る精神毒性なので、早く対策を取るべきです。
2006年9月1日発行 No.209