「命の入り口」である口まわり、それも歯の病気だから、軽視するつもりはない。
しかし、多くの罹患(りかん)者が気付かなかったり、「悪化したら治療すればいい」と放置しているケースが多い歯周病。
「甘く見てはいけません。歯周病は実は全身とかかわる深刻な病気なんです」。
坂上はそう警告する。
歯周ポケットにすみ着いた歯周病菌は、歯の周囲にある毛細血管を通じ、それ自身が持つ内毒素を全身にまき散らす。
それとともに、免疫機能との戦いの中で発生する物質が、体の機能を狂わせる。
その代表的な物質の一つサイトカインは、血糖値を下げるため分泌されるホルモン「インスリン」の出を阻害。糖尿病の症状を悪化させることが知られている。
「肺炎、心臓疾患、腎炎…。歯周病は直接の原因にならなくても、症状を悪くするリスク要因になる」と坂上は言う。
飽食ニッポンで起きている奇妙な現象がある。
それは、体重2500グラム未満で生まれる低出生体重児の増加だ。
2004年の発生率は9・4%で、統計のある1990年に比べ約5割増。
1500グラム未満の極低出生体重児は、出生後に亡くなったり、障害を負うリスクが大きいとされる。
歯周病は、低出生体重児を招く早産の引き金の一つとみられている。
熊本大学大学院生命科学研究部准教授・大場隆(49)は、「妊婦の歯周病は、早産で低体重児を産むリスクが2・8倍高くなる」と言う。
特に妊娠期の女性は、ホルモンバランスが崩れるため、歯周病になりやすい。
2006年、大場は熊本県、県歯科医師会と共同で、同県天草地区の妊婦720人を対象に早産予防に取り組んだ。
44の歯科医院で検診を行い、歯磨き指導や口腔(こうくう)ケアを実施。
産科では早産を招く子宮内の感染症「絨毛(じゅうもう)膜羊膜炎」対策として、発症する可能性がある妊婦に抗菌剤を飲んでもらった結果、極出生体重児の発生率が、過去5年平均の3割まで減少した。
大場は言う。
「歯周病が即、早産につながるわけではない。だが、自分の口の中のことが、次世代の命にもかかわることを知ってほしいのです」 (敬称略)
昨年11月に連載した食卓の向こう側シリーズ第13部「命の入り口、心の出口」。
続編では口と全身とのかかわりを中心に、私たちの健康と望ましい未来のための方策を考えます。
=2010/01/31付 西日本新聞朝刊=
■食卓の向こう側第13部 命の入り口 心の出口
偽装表示や残留農薬問題、激化する食料品の価格競争などによって「食品」に対する私たちの関心は高まってきました。
でも、食べ物を口の中に入れた後のことは、考えてきたでしょうか。
また、口は健康のシグナルであり、全身の病気とつながっていることが分かってきたのに、他の病気に比べて歯科の優先順位が低いのはなぜでしょうか。
本書は、そんな疑問を提示することからスタートした連載「命の入り口 心の出口」(2009年11月22日~12月1日、2010年 1月31日~2月15日)を中心に、連載内容を基調としたシンポジウム、取材班に寄せられた読者の声や関連資料を添えて構成しました。口と咀嚼をテーマに、私たちの健康や医療のあり方などを考えます。
108ページ/A5判ブックレット/500円
runより:このシリーズはこれで終了です。
色々考えさせられる事があったように思えます。
特に我々化学物質過敏症患者は安全な食べ物に苦労します。
こういう話でも化学物質過敏症、電磁波過敏症へとつながりはあるのです。