・「出典」西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/shoku/rensai/
・食卓の向こう側 第11部 安全漂流<1>期限表示
誰のための鮮度ですか
■シリーズ 食くらし■
福岡市のデパ地下にある有名総菜店。
「ただいま出来たてでーす」。
店員がショーケースに運んできた総菜は、彩り鮮やかで食欲をそそる。
「店内で調理するものと思ったら、業務用の食材パックを開封して盛り付けるだけだったから驚いた」
この店で一年半前まで働いていた女性(48)は、そう言って失笑した。
キュウリやタマネギの千切りまで、いつ作られたのか知らないまま食材パックを移し替え、出来たてと宣伝する。
「客をだますような意味では、(表示を改ざんした)船場吉兆や赤福と同類だと思う」と語る。
「日本の消費者は特に鮮度にこだわるから、企業は期限表示を『販売戦略』に利用する」。食品業界に詳しい男性は、こう指摘する。
例えば、本当は七日後まで食べられる総菜を、「本日中」との消費期限で販売する。
売れ残れば翌日また、「本日中」の期限に書き換える、という手法だ。
「最初から一週間持つと書くより、新鮮に見えるでしょ。法的にも、衛生上も問題ないし、実際その方が売れる」
本来、食べる人の健康を守るものであるはずの期限表示が、商売の“道具”になっている。
偽装が相次いだ背景に、そんな構図が見える。
表示を道具に売り上げを競うとどうなるか。牛乳業界に教訓が残る。
いわゆる「D-0(ディーゼロ)問題」。
DはDAYの略で、製造からゼロ日、つまり製造当日を意味する業界用語だ。
スーパーが急増した約三十年前から、「新鮮な品ぞろえ」の競争が激化。
集客の目玉商品である牛乳は格好のターゲットとなり、乳業メーカーはD-2からD-1、D-0へと、パック詰めから納品までの時間短縮に躍起となった。
ところが、牛乳は通常、大腸菌群検査だけでも結果が出るまでに約十八時間かかる。
つまり、日付が変わる午前零時から詰めても、開店までの納品は無理。
結局、「十分検査しないで出荷した」(日本乳業協会職員)。
もし、何か問題が見つかっても、すでに販売されて回収できない。
暴走した企業が切り捨てたのは、「消費者の安全」だった。
表示が、製造年月日から賞味期限になっても続いた過度な鮮度志向。
それが、二〇〇〇年に起きた雪印乳業食中毒事件の一因と指摘される。