・極端な「安さ」は、モラル低下にもつながりかねない。
「国内産と台湾産のシジミを混ぜてもってこいと、ある生協に言われた」
鮮魚店から転身し、自分たちの目で確かめた商品だけを扱う「京北スーパー」(千葉県)の石戸孝行相談役(69)は、知り合いの業者の告白に耳を疑った。
国産シジミの価格は台湾産の約3倍。
そこで安く売りたい生協担当者は、ブレンドして売ろうと考えたのだ。
良心がとがめた業者は、自分では混ぜず、別々に納めたという。
石戸さんは「安さ」と「効率性」に取りつかれたこの国の病を見た思いがした。
「『粉の先生』って、みんな呼んでたなあ」
東京・築地市場の仲卸で働く女性は数年前の出来事を振り返る。
「先生」が持ってきた白い粉は、水に溶かして使うと魚の鮮度が保たれる食品添加物。
仲卸の社長は“魔法の薬”に大乗り気だったが、女性は「そんなのおかしい。使っちゃだめ」と、反対した。
女性は、「先生」と職場の従業員を連れ、料理店で魚を食べ比べた。
「舌がしゅわしゅわする」。
白い粉を使った方を食べた従業員の言葉が決め手になり、「先生」は去った。
食品衛生法は、魚などの生鮮品に、消費者が鮮度を誤認するような食品添加物の使用を認めていない。
「でも、現実には、一晩水に漬けておくと、赤貝の身がさらに赤くなる粉や、魚の血合いが変色しない薬など、魚屋を誘惑するグレーゾーンのものはたくさんある」。かつて食品添加物のトップセールスマンだった食品ジャーナリスト、安部司さん(55)=北九州市=は言う。
「地ものであろうとなかろうと、仕入れの上限価格はキロ500円。
大きさもトレーに収まるサイズで」(量販店のバイヤー)
「宴会では、みんな同じ種類、同じ大きさじゃないと、お客さまは納得しない。欲しいときに、欲しいだけ数がそろうかだ」(外食関係者)
価格、形、数…。工業製品ではないのに、仕入れ側の力(バイイングパワー)という陸(おか)の都合が優先する現実。
それは、「安さ」や「見た目」を求める、私たち消費者の行動が引き起こしていることかもしれない。