・「出典」西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/shoku/rensai/
・食卓の向こう側 第10部・海と魚と私たち<1>プロローグ 一世代で激変した魚食
バタバタバタ…。口を半開きにした小学生が、養護教諭に付き添われて病院に駆けつけた。
「のどが痛いー」。
給食でサバの煮付けを食べ、骨をのどに引っ掛けたのだ。
「魚を出した日は必ずと言っていいほど、病院行きの子どもが出る」と、福岡市内の学校給食栄養士。煮付けでもフライでも、まるでハンバーグでも食べるようにほおばり、よくかまないまま飲み込んでしまうらしいのだ。
脳を活性化させるドコサヘキサエン酸(DHA)やカルシウム…。
魚には、成長期に必要な栄養が豊富だ。
「本当はもっと食べさせたい。でも最近、魚を出すには少し“勇気”がいる」
目刺しを手に、「どこ食べるの」と尋ねる子もいる。
魚の日は残食も多い。
魚食の機会が減っているのだろうか。
農林水産省の食料需給表によると、国民1人当たりに年間供給された魚介類の量は、1965年が28.1キロなのに対し、75年は34.9キロ、2005年が34.4キロ(概算値)と、ここ30年はほぼ横ばい。
問題なのは、「食べ方」ではないか。
「あーおなかすいた。そろそろお昼にしません?」
福岡市・天神で勤める40代の会社員2人。行きつけの定食は、海鮮丼に貝汁付きで680円。
ほっとする味だし、脂っこい料理より生活習慣病の予防によさそう。つい足が向く。
関東や関西からの出張者を案内すると、「安くてうまい」と喜ばれる。
豊かな海の幸は、博多の自慢だ。
あるとき、1人が言った。
「うちの息子、魚をあんまり食べないんだよね」。
夫婦は割と魚好き。食卓にもよく魚料理が上るが、中学3年の長男は、先日もタチウオの塩焼きを半分残した。
「食べなさい」とたしなめると、「塾の宿題するから、ささっと食べられないと嫌」。
晩ご飯はたいてい、塾帰りの夜10時。
食事中は、1日のうちで唯一好きなテレビ番組を見られる時間でもあるから、魚の骨を取る“ゆとり”はない、というわけだ。
しかし、「魚嫌い」ではない。
一口で食べられる“ファストフード”のすしや刺し身は好物だ。
「だから、はし使いが上達しなくて」。
親としては、その点も気になる。
子ども時代、「こんなうまいものがあるのか」と、ブリの照り焼きに感激してから約40年。
当時見たこともなかったマグロやサーモンの刺し身に、わが子が飛び付く。
「食べ方」は、一世代でがらりと変わった。