・「弁当作りを体験すれば、食や家族を大切にする時代がくる。“弁当の日”で日本は変わる」
今年4月、福岡市で開かれた「食卓の向こう側シンポジウム」。
基調講演をした竹下校長の言葉は、北九州市立飛幡中学校(戸畑区)で家庭科を教える古閑(こが)明子教諭(42)の心を揺さぶった。
学校の備品が壊されるのはざら。全国各地でいじめや自殺が相次ぎ、荒れる教育現場の現実に、「一人の力ではどうにもならない」とあきらめかけていた。
だが、「学校から変える」という竹下校長の話に勇気づけられた。
「受け身では駄目」。
古閑教諭は柿木勝義校長(55)に相談。
家庭科の授業を活用し、10月から“弁当の日”を取り入れることを決めた。
「なんの評価になるん」「弁当作って何かいいことあるんか?」。そんな生徒の声も聞こえたが、ふたを開けてみると、みな、早起きして弁当を作ってきた。
それだけでなく、友だちの弁当に刺激され、「次は買い出しから一人でやる」「冷凍食品は使わないで自分で作る」などと、意欲を示す生徒も出てきた。
「母の苦労が分かった」という生徒や、「何も教えていないことに反省した」という保護者の感想が寄せられた。
受験科目ではないと軽んじられがちな家庭科だが、古閑教諭は思う。「暮らしの力を高める家庭科は、学習意欲も高める大事な科目なのです」
北九州市には、ほかにも今春から“弁当の日”をスタートさせた西南女学院短期大学部(小倉北区)がある。
「小学生時代に経験できていたら、こんなに苦労しないのに…」。
連載で“弁当の日”を読んだ一人暮らしの学生が、自らの自炊生活を語った言葉に、同大学部の池田博子教授が始めた。
「うちの学生ってこんなレベルと思われないかしら」。
そんな不安もあった。
ところが、学生らの反応は「いい機会をありがとうございました」。
出した課題を感謝されるという初めての体験をした。
学生らの料理の腕前は上がり、「これまで上げ膳(ぜん)据え膳では、見えていなかったものが見えるようになりました」という意見も。
今、池田教授は、小学、中学、高校とも連携した取り組みができないかと考えている。
全国で本年度中に“弁当の日”に取り組むのは、8道県の37校。
九州では、福岡県がそのうち21校を占めるなど、「ご本家」のお株を奪う広がりをみせている。