・四十年前の一九六五年、大牟田の母・喜香(77)が、この助産院を開業した。大牟田は、約二十年前の新米助産師のころ、母のやり方を懸命に覚えようとした。
しかし、「母の世代に倣うだけでは、今の女性の体や生活に合わなくなっている」と気づいた。
例えば、母乳育児。以前は、しっかり食べさせ、飲ませ方を教えればよかった。
でも今は、乳腺(せん)に脂肪などが詰まり、胸がガチガチに張る産婦が目立つ。
搾乳して時間がたつと、脂の層が浮く母乳もある。
母乳の苦味や甘みが強くて赤ちゃんが飲まなかったり、飲んでも湿疹(しつしん)や便秘になったりし、母子の心身トラブルにつながることもある。
「今、母乳育児をサポートするには、『乳のもとは血』ということから伝える必要がある」と大牟田。食生活を整え、それをおいしいと感じる体をつくれば、悩みも少しずつ改善していくという。
「お産は自然そのもの。向き合うと、現代人の生活がいかに不自然かを感じます」
■助産院
助産師の国家資格を持つ人が運営。
自宅分娩(ぶんべん)専門や、母乳育児のサポートのみの助産院もある。
厚生労働省によると、総数は1970年、15731カ所だったが、2003年には1409カ所に減った。
(2005/07/25付,西日本新聞朝刊)
■食卓の向こう側(6)
お産を通して現代人の食や体を見つめた連載「食卓の向こう側 第6部 産む力、生まれる力」(2005年7月25日から31日掲載)と連載で紹介した助産師や専門家に加え、新たな産院のあり方を模索する医師らが参加した座談会、読者の感想、取材班の記者が自然料理教室に通いながらレシピを執筆、本紙で連載した「美穂の『めざせ!半歩先』自然食をつくろう」などに関連資料を添え、再構成しました。
妊産婦が「産み育てる体づくり」を意識して、できることから食を見直していけば、それはそのまま、胎児を含む子どもたちの「ふるさとの味」が見直されることになり、家族みんなの食が整っていくきっかけにもなります。
お産は、現代人の心と体をよりよい方向に導くための大きなチャンスと言ってもよいでしょう。命の始まりと向き合う「お産」を通して、現代人の食生活や生き方、体の動き、社会の在りようを見つめ直します。
A5判ブックレット/500円