一般的に、水系伝染病を引き起こすような微生物は水中で単独に浮遊していることは少なく、原水中の濁り物質などに吸着されていることが多い。
したがって、濁りの除去は消毒作用も同時に起こっていることもある。
このことは古い記録があり、「ハンブルグ事件」として有名である。
1892年8月17日エルベ川に面したハンブルグで突如コレラの流行が始まった。
数週間の間に8,500名が死亡した。
しかし、エルベ川下流側に隣接するアルトナではほとんどコレラ患者は発生しなかった。
上水道の原水はともにエルベ川だった。
常識的には下流側のアルトナでこそコレラが流行しそうなのに事実はあべこべだった。
アルトナでは都市の前を流れるエルベ川を上水道の原水にしていたが、1859年以来給水前にすべての原水を緩速ろ過していた。
これに対してハンブルグ市水道の取水口は4.5Kmほど上流のローテンブルグスオルトだったが、原水を短時間沈殿させるだけで給水していた。
緩速ろ過が単に原水から濁りを除去するだけでなく、細菌除去作用のあることはこれ以前にも報告されている。
ハンブルグ市で多数のコレラ患者が発生したとき、エルベ川はコレラ菌に汚染されており、アルトナの上水道原水も同じだった。
それにもかかわらず、緩速ろ過のアルトナの上水道からはコレラ菌が検出されなかった。
濁りの除去に消毒作用があることは他にも報告がある。1890年代、アメリカのMillsとドイツのReinckeは原水をろ過すると一般死亡率が減少することから、これは腸チフス死亡者の減少の寄与が大きいことを発表した。
これをMills-Reinckeの現象という。
近年では、オランダ、アムステルダム市の水道でオゾン、生物活性炭処理後、緩速濾過をして給水している。最終的に、塩素剤などの消毒剤を注入していないことから、緩速濾過が消毒の役割を担っている。
緩速ろ過の処理機構は微生物による好気的酸化である。この処理は水温が高いほど処理性が向上する。
APEC機構の国々は水温が高い地域が多いので、原水濁度を考慮して導入を検討すると良い。
他の濁りの除去方法で、一般的に用いられる技術は凝集沈殿である。原水の濁度が高い場合に行われる浄水処理方法である。
緩速ろ過または凝集沈殿を行う急速ろ過により濁りを除去した後、塩素剤などにより消毒を行う。
この企画では、浄水技術の基礎である濁りの除去と消毒及びマンガン、ヒ素などの特別な物質の除去技術を紹介する。