・■朝日6月25日 汚染牧草 苦しむ酪農家
東京電力福島第一原発事故によって牧草から放射性セシウムが検出された問題で、東北、関東の4県の一部地域では、今も牧草の使用自粛が続いている。
酪農家たちは、代替飼料を確保するための費用負担に加え、行き場を失った牧草の処分に苦しんでいる。
「廃業しかねえべ」
現場から 大震災と経済
「そろそろ駄目だ。食わせる草がなけれは、廃業しかねえべ」。福島県伊達市霊山町の菅野忠信さん(74)は、ため息をついた。
乳牛50頭と繁殖牛15頭を飼い、約15ヘクタールの牧草地から刈り取って餌にしてきた。
福島県は3月19日、原発事故後に収穫した牧章の使用自粛を求めた。会津地方では自粛が解除されたが、中通りと浜通りでは見通しが立っていない。
原発事故前に刈り取っていた牧草は既に尽きた。
全村避難で廃業した隣の飯舘村の酪農家から残った牧草を買って食いつなぐ。
宮城県栗原市金成で約100頭の乳牛を飼う熊谷照夫さん(61)の自宅近くには、使えない約400キログラムの牧草のロールが300個も積み上がっている。牧草は刈り取りの後も成長し、年3~4回は収穫できる。
春の牧草は二番草」と言われ、栄養価が高く収量も多い。
「一番草を使えないのは経営的にも大きな痛手だ」
福島県の各地域では、原発事故で3月21日から原乳の出荷制限が始まり、酪農家は搾った原乳を廃棄した。
そこに、牧草の放射能問題の追い打ち。
福島県の試算では、乳牛に与える牧草の当面の不足分は約1万トンに上る。福島県二本松市大関の阿部敏寛さん(57)は、原乳を捨て続けた日々を「35年の酪農家生活で一番悲しかった」と振り返る。
「見えない放射能にいつまで苦しむんだ」
処分方法妙案なく
農林水産省は、牧草に関する放射性セシウムの暫定許容値を、乳牛・肥育牛で一キロあたり300ベクレルと定めている。
自粛解除の目安を「3回の連続検査でいずれも許容値を下回ること」とし、5月に関東、東北の8県に及んだ自粛要請は段階的に解除されてきた。しかし、使用を自粛してきた牧草の処分が新たな課題になる。
繁殖牛などに対する許容値は5千ベクレル。乳用牛には使えなかった牧草を繁殖牛に融通できるが、それでも大量に余る。
今月16日、約3ヵ月ぶりに県内最後の自粛地域を解除した茨城県。
県などが融通の調整に乗り出したが、担当者は「2万トン以上が余りそうだ」と言う。
農水省は、福島県の一部地域を除き、余剰牧草を一般廃棄物として牧草地などにすき込むことも認めているが、酪農家は更に経済的負担を強いられる。そもそも、一番草を取った後の牧草地では、すぐにはすき込めない。
引き続き牧草を育てたり、飼料用トウモロコシを作ったりするからだ。
「焼却揚に運ぷにしても、大きなロールを焼却炉に入れられるかどうか。
当分は牧草地の隅に置いておくしかないだろう」。茨城県の担当者は嘆いた。
(荒海謙一、波戸健一)