・2 公害紛争処理制度のこれまでの運用経過
1)公調委は、制度の発足以来、これら手続の特色を生かして、様々な事案で紛争解決の実績を上げてきた。
主なものを挙げてみると、制度発足の当初から水俣病の認定患者からの調停申立てが相次ぎ、平成21年までに、合計1,551人からの調停申請があった。
また、戦前からの公害問題である渡瀬川沿岸における鉱毒被害事件については、昭和47年に1,000名を越える被害者から調停申立てがあり、昭和49年に補償金の支払を認める調停を成立させた。
次いで、大阪空港騒音問題については、昭和48年に付近住民約2万人から損害賠償等を求める調停申立があり、昭和50年に一部調停を成立させた。
その他にも、スパイクタイヤ粉じん被害事件、新幹線騒音被害事件、豊島の産業廃棄物水質汚濁事件など、多くの公害紛争を解決に導いた。
2)しかし、公調委に提起される新件の受理件数は、昭和50年代までは年間に数十件はあったものの、昭和60年代から次第に減少し、平成3、4年以降は年間10件に満たない年もあるようになった。
これは、かつて深刻であった産業型公害による被害が、政府や企業などの努力によって大きく減少しつつあることを示している。
しかしながら、市町村の公害苦情相談窓口に寄せられる公害苦情の件数は、年々増加し、平成15年度には年間10万件にも達している。
問題とされる公害の原因は、公調委で受理している事件の内容に照らして考えると、近年では、廃棄物に関する問題、低周波音に関する問題、比較的小規模な生活騒音の問題など、以前とは異なる態様の公害紛争が問題とされている。
すなわち、公害の態様が、産業型公害から都市型・生活型の公害に大きく変化しているのである。
3)このような都市型・生活型の公害に対しては、重大事件や広域事件を主に担当する公調委より
は、都道府県における公害審査会等がその役割を果たすべき事態であるようにも思われる。
しかし、都道府県の公害審査会等における事件の受理状況は、年間の全国合計で平成2年に最多の57件を記録したものの、その他の年は年間30件ないし40件余にとどまっている。
一方で、平成20年度における全国の公害苦情相談約9万件のうち、処理期間が1年を越えるもの(多くは紛争性がある事案と思われる。)が1,500件余に達している。
この実状を見ると、今後、都道府県の公害審査会等の果たすべき役割は大きいものがあると思われる。
しかし、各地の実状を見ると、審査会委員の選任にご苦労をし、審査会を支える事務局のスタッフが必ずしも専任化されておらず、地方財政が逼迫している事情から予算措置が不十分であり、都道府県の公害審査会等の活性化は、いまだ道半ばという状態である。
4)公調委は、このような実状にかんがみ、近年、「身近で利用しやすい公害紛争処理制度」という呼びかけで、都市型・生活型の公害に対処し、規模の比較的小さい事件であっても積極的に対応することを目指している。
そのために、まず制度の周知を図るよう、広報活動に努めてきた。
さらに、地方の在住者が公調委の手続を利用する際の負担の軽減を図るため、被害発生地などの現地で審問期日を開催する取組を実施してきた。
また、職権による事件調査を充実させ、制度の特色をより発揮できるように努めてきた。
このような取組により、公調委の新規事件の年間受付数は、平成19年度は6件であったところ、平成20年度は12件に、平成21年度は24件に達しており、近時の取組が一定の成果を上げつつある。