・Ⅱ.重点的取組事項
<環境基本計画における記述>
4 重点的取組事項
(1)各主体に期待される役割
主体毎に次のような役割が期待されます。
ア 事業者
化学物質の製造、輸入、販売、使用、廃棄等を行う際に、関係法令を遵守するだけでなく、自主的な化学物質の環境リスクの評価・管理、情報提供、地域住民との対話等に取り組むことが期待されます。
特に、化学物質や製品を安全に使用するために必要な健康及び環境への影響などに関する情報が、関係者に入手可能となるよう、積極的に取り組むことが期待されます。
イ 国民
化学物質の環境リスクに関する的確な情報の入手と理解に努め、自らの生活で使用する化学物質に関する環境への負荷の低減に取り組むことが期待されます。
ウ 国及び地方公共団体
人材育成、社会資本整備や各種の支援策を通じて事業者・国民の取組の基盤を整備するとともに、環境リスク低減のための制度の構築・運用に取り組みます。
(2)科学的な環境リスク評価の推進 (→Ⅱ(1)参照)
(3)効果的・効率的なリスク管理の推進 (→Ⅱ(2)参照)
(4)リスクコミュニケーションの推進 (→Ⅱ(3)参照)
(5)国際的な協調の下での国際的責務の履行と積極的対応 (→Ⅱ(4)参照)
5 取組推進に向けた指標及び具体的な目標
いくつかの有害化学物質については、環境基準や、環境保全の上で参考となる指針値が設定されています。
これらの基準・指針値の達成は、化学物質による環境汚染を防止する上で基礎的な目標です。
本計画でも、例えば大気環境と水環境の両方で環境基準・指針値が設定されている物質に着目し、これらすべてに係る達成状況を指標の一つとして各種取組の進行管理を図ります。
また、化学物質の有害性情報の収集及びリスク評価の実施は、情報の収集・評価済み物質数等で取組の進捗状況を測ることができます。
既存化学物質については、安全性点検実施状況を把握して、取組の進行管理を図ります。
リスク評価については、製造・使用・廃棄の流れの把握を含め、リスク評価の取組が進行し、又は終了している物質数を取組の進捗を測る指標として活用します。
さらに、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量登録)データ等を用いた化学物質の環境への排出状況は、環境リスク低減のための指標として有意義に活用することができます。
現状では、PRTR 制度によりすべての排出源からの排出量や排出経路が正確に把握できているとは言えない状況にあり、また多種類の物質の排出量を総合化する手法等、指標化の手法も確立されていません。
PRTR 対象物質のうち、環境基準・指針値が設定されている物質等の環境への排出量を指標とするとともに、今後、PRTR データ等を用いた排出インベントリの構及び総合的な政策指標の検討に取り組みます。
(1)科学的な環境リスク評価の推進
<環境基本計画における記述>
平成20 年(2008 年)の目標年度に向けて、既存化学物質の安全性情報を収集・発信する官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(通称JAPAN チャレンジプログラム)を推進します。
平成20 年4 月以降に進捗状況及び成果を踏まえ、同プログラムの中間評価を行います。
また持続可能な開発に関する世界首脳会議における目標を踏まえ、平成32 年(2020 年)までに有害化学物質によるリスクの最小化を図るべく、構造活性相関等の簡易・迅速な化学物質の安全性評価手法を開発し、人の健康及び生態系に与える影響について科学的知見に基づき評価を行い、適切な管理を促進します。
規制や事業者による自主管理等の対策の有効性評価に資するため、大気、水質、底質、土壌及び生物のモニタリングを進めます。その際、代表的な地点での測定によるスクリーニングから、一般環境や発生源周辺等の濃度分布を経時的に把握するための環境監視等、多段階のモニタリングを必要に応じて計画的に進めます。
また、個人情報の保護、試料提供に係る倫理面等に十分配慮しながら、生体試料中の化学物質残留状況を調査します。
遡及的な環境分析ができるよう、試料の長期保存を進めます。
ばく露の把握に必要な製造量、使用量、用途等に関する情報は、現状では一部の物質について収集されているのみですが、ばく露量が多いと見込まれる物質の環境リスク評価に必要な情報を把握することができる方策を検討します。
化学物質の製造・使用から、リサイクル、廃棄後の環境への排出、土壌や底質への蓄積も含め、人や動植物へのばく露を引き起こす過程(ばく露シナリオ)に応じたばく露量の推計手法を整備し、上記の環境モニタリング結果と合わせて、ばく露評価を進めます。
重要な環境への排出源、排出経路が見落とされないよう、2020 年までに、主要な化学物質の製造・輸入から使用・消費・廃棄に至るまでのトータルな流れを把握します。
有害性及びばく露に関する情報を、秘密情報の保護に留意しながら関係者間で幅広く共有し、環境リスクの評価に役立てます。
環境リスク評価は、不確実な部分も念頭においたスクリーニング評価に始まり、必要に応じ、リスク管理を視野に入れつつ詳細なリスク評価を行います。
リスク評価を進めるための手法の開発を行います。
まず、化学物質による生態系への影響について、水域のみならず、陸域等も含めた生態系の望ましい保全の在り方について検討を進め、天然由来の化学物質も考慮して、評価方法を開発します。
また、生態系への影響を早期に発見するため、野生生物の観察等の取組を進めます。
化学物質による人の健康への影響について、評価手法が確立していない免疫系や神経系への影響、内分泌かく乱作用を通じた影響等の様々な有害性を評価するための手法の開発を進めます。
また、複数の化学物質による低濃度ばく露の総合的な影響、同一化学物質の多媒体経由のばく露による影響、妊婦や胎児等の感受性の高い集団への影響、発生源周辺等のばく露量の高い集団への影響等、評価手法が確立していない分野について、評価手法の開発のための研究を進めます。
中長期的には、評価手法が確立した分野についての評価をリスク評価・管理に統合します。
現在の有害性評価手法・測定技術では十分把握できないリスクを特定し解明するための調査研究、トキシコゲノミクス(化学物質による遺伝子レベルでの毒性発現メカニズムの解明や毒性予測を行う方法)等の新たな手法を用いた効率的な有害性評価手法の開発を推進します。
第1回化学物質環境対策小委員会では、上記について以下の意見があった。
○化学物質のリスク評価の情報が無く、不安を感じている国民がいる。
化学物質のリスクを明らかにしていくことが重要である。
○ 既存化学物質の情報収集が体系的に行われていない。Japan チャレンジプログラムでスポンサー企業がつかなかった化学物質についての取扱いを検討すべきである。その際、既に情報収集に手を挙げたスポンサーとの公平性に配慮しつつ、基本ルールを決める必要がある。
○ リスク評価・管理のために収集する情報は、国際的な観点からGHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)やOECDガイドラインに準拠したものとすべきである。
○ 安全性試験の対象範囲は、化学物質の生産量や用途に応じて異なることとすべきである。安全性試験は、生産量に応じて課すべきである。
○ 毒性データの他に、生産量や用途に関しても国に届け出る制度とすべきである。
○ 届出データについては、原則公開とすべきである。
○ 子供などのハイリスクグループや、生態系に留意する必要がある。
○ 化学物質過敏症などの知見を確立するための調査・研究の推進が必要である。
○ 人健康影響のハザードを評価できる人材が少ない。リスク評価のための人材育成が重要である。
○ ナノ粒子の影響については、既存化学物質の中にも不明な点が多い。
今後の研究次第では、化学物質審査規制法の評価項目を変える必要が出てくるかもしれない。
製品が市場に出る前に、技術の安全性や社会経済的合理性について、総合的な評価制度を確立する必要がある。