・吉田 旭川が医療構想で選ばれ、ここにこの住宅ができました。クリーンルームの中をきれいにすることはたいへんお金のかかることです。
そういう施設がすべて患者さんのためにあるならいいのですが、それは非常に高くつくことです。
しかし自然の環境がよければ、それだけでもある程度回復する可能性があるわけです。
その上そこにクリーンルームをつくることができれば、東京の真ん中にあるよりはお金も安く環境がつくれるわけです。
環境に関して、先程のお話にもありました鋭敏な感覚を持つということを、すべての地域の方々に持っていただいて、環境に対する意識を高めていただけたらよろしいのではないかと思います。
転地療養にはもう一つ大事なポイントがありまして、転地のためには回りの環境が良くて、回復能力が高まるのと同時に、まわりの住民の方々の受け入れ体制や思いがかなり影響しますので、住宅ができたということを皆さん心にとめご理解をいただいて、これから行われるプロジェクトに対して、皆さんもご協力していただければ、非常に効果も上がるのではないかと思います。
よろしくお願いいたします。
小池 多くの患者さんが旭川あるいはこの周辺に転地療養に来られることによって得られるメリットから考えますと、一つには単に家だけの問題ではないことは先程お話させていただきましたが、日常生活のありとあらゆる分野に関わる問題ということになると思います。
そういう立場で考えますと、旭川は家具の町でもあります。
家具にもさまざまな化学物質が使われています。
環境にやさしい無害な家具をどう作っていくかという点でも、旭川にはそのための基礎的な技術が当然あるわけです。
ムク材を使った健康な家具をどう作るかというようなこととか、あるいは北海道農業全般に言えますが、冷涼な気候のもとで極力農薬の使用などを抑えたクリーンな農産物がつくられている。
さらに有機農法を生かしてもっと安全な農産物を作る。
そういうことに取り組むことによって、化学物質過敏症の患者さんというレベルの問題ではなく、地域の産業という問題にも大いに結びついてくるだろう、と考えております。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、旭川は縫製業も盛んです。
全国のウェディングドレスの60パーセントは旭川から出しております。
こういった衣類についても、オーガニックな素材を使って、デザイン的な機能も高めて新しい産業起こしの可能性だってないとはいえません。
さまざまなことを考えていけば、明らかに市民の健康、いま病んでいる方の転地療養。そういうものからさらに大きく発展する課題であろうと思います。
これから少子高齢化がますます進む中、健康を害する人の数はますます増えると思います。
滞在しながら自然の中で、日常のストレスを解消するケースも増えてくるでしょう。
そういう問題の切り口として、今回の化学物質過敏症患者の家というものを考えることも、これからの行政全体の問題として大事なことであると考えますので、市民の皆さんも関係者の皆さんも、それぞれお持ちの領域の中でどういうアプローチができるか、ぜひ考え、ご支援いただきたいと思います。
柳沢 今朝、テレビでCNNのニュースを見ておりましたら、アメリカで、未熟児であるとか出産時にトラブルを伴って生まれた子供の割合が最近非常に増えているという報告がされていました。そのようにわれわれは実にいろいろなところで化学物質を使っているわけです。
使ったものは分解されない限りどこかへ行っているわけです。
なくなる筈がないのです。
もしかすると大昔に撒いた農薬が残っているかもしれない。
有機塩素系の農薬は非常に長持ちしますから。
人間には記憶がなくても、土には記憶が残っています。
鋭敏な人たちが地域に共に暮らすことによって、何か悪影響が出る前に予防できるような、そういう体制というものが、鋭敏な人たちが集まる地域である旭川を中心とした2市8町に出来上がっていくのではないか。
そんな気がします。そういう意味からもこの新しい施設は、地域の環境の予防のために非常に役立つと考えられます。
化学物質過敏症、あるいは患者さんに話を戻しまして、予防と治療という観点から考えてみたいと思います。
会場に花粉症の方、または化学物質過敏症の方はいらっしゃいますか?。
または、自分はもしかしたら、化学物質過敏症にこれからなるかもしれないなというような不安をお持ちの方はいらつしゃいませんか?。(挙手を確認して)
かなりいらっしゃいますね。
これだけいるのですから、やはり予防ということを考えていかないといけません。
秋野先生、いろいろ化学物質過敏症の問題を扱われている中で、こういう注意をしていればここまでつらくならなかったのに……という印象を持たれたことはないでしょうか?
秋野 私のところへおいでになる被害者の方々に多いのは、まず化学物質過敏症とか、シックハウスという言葉を知らない方が多いんです。
したがって体調が悪くなっても、家が原因だとぜったい考えていないんです。
自分の夢の実現だったわけですから。
高いローンを組んで建てた家が、まさか自分の体をおかしくするとは想像さえできないんです。
予防という観点でまずいちばん大事なのは、化学物質過敏症という病気があること。
それが家が原因であることを知識として知っておき、もし体調が悪くなった時には、自分の選択肢の一つにすることが大事だと思います。
私のところへ来る被害者の中に、防腐材であるクレオソートを床下に塗布され、5ヵ月間何も知らずに生活していたために、社会生活が不可能になってしまった方がいます。
こういう施設が設置されることによって生まれる大きな意義は、多くの人たちの間にこういう意識が芽生えてくることだと思います。
法律家の立場として重要と考えているのは、このシックハウスの問題にこそトップランナー方式を採用すべきであるということです。
トップランナー方式というのは、省エネ法が改訂された改訂省エネ法というものがありますが、省エネ性でもっとも優れたトップランナーが走るところを基準として設け、一定の猶予期間を与えるからその基準になんとか追い付いてほしい。
それを無視して省エネなんか関係ないというところに対しては規制をかけよう、というのがトップランナー方式です。
これが今回の共同研究にピタリと当てはまるのではないかと思います。
どうすればこういう悩みはなくなるのだろうかという意識を持つことが、最終的には行政につながっていくのではないかと思いますので、今回の施設設立を基点に、ぜひ旭川市がトップランナー方式を採用した第一の行政体となりますように、皆様の意識の高揚を期待しております。