平成21年における公害紛争事件の終結事例について2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・任裁定申請事件
1 事案の概要
埼玉県さいたま市の住民である申請人が、不動産会社及び借家所有者を被申請人として、申請人が居住する借家の周辺において、被申請人らが行った家屋の取壊し等の工事による騒音・低周波音のため、耳鳴り、感音難聴、
頭痛などの健康被害を被ったとして、慰謝料等合計310万420円の支払を求めたものです。
申請人の主張の概要は、申請人は本件工事に伴う騒音又は低周波音に暴露したことが原因で健康被害を受けたものであり、かかる被害が受忍限度を超えていることは明らかである。被申請人らは、一方的な通告によって本件工事を開始し、申請人からの苦情等により、一旦、工事を中断したものの、問題解決まで工事を凍結するといった申請人との間の合意に反して工事を再開し、かつ、これらの工事実施期間における騒音及び低周波音の低減措置も不十分だったといったものでした。
これに対し、被申請人らの主張の概要は、申請人の主張する健康被害については裏付ける証拠はなく本件工事との因果関係は認められない。

被申請人らは、工事の実施に当たっては騒音防止に心がけ、申請人の意向を尊重して一旦工事を中断したものの、申請人が納得するまで工事を再開しないという合意はしていない。

また、工事再開に向けて申請人と交渉したが、申請人には本件工事に協力して円満に解決しようという姿勢がうかがわれなかったこと、既に明渡しが完了して無人の状態になった建物が多数あり、防犯上問題があったことから、可能な限りの被害防止措置を採った上で本件工事を再開したといったものでした。
2 事件の処理経過
公害等調整委員会は、本申請受付後、直ちに裁定委員会を設け、5回の審問期日を開催するとともに、事務局職員による現地調査、申請人本人及び参考人の尋問を実施するなど手続を進め、平成21年3月30日に本件裁定申請を棄却する旨の裁定を行いました。
3 裁定の概要
(1)本件工事に伴う騒音又は低周波音により、申請人が被害を受けたか否かについて申請人が健康被害を受けたことを裏付けるとして提出した医師の意見書の作成経緯や判断過程(医師は、申請人を直接問診するなどの診察をしておらず申請人の健康状況を適切に把握していたとは言い難い、また、意見書の結論は申請人の生活環境の具体的事実に基づいて導き出された判断と見ることはできない。)に加え、低周波音への暴露が身体に与える影響については今後の研究によってさらに解明されるべき部分が大きいと言わざるを得
ないことをも考慮すれば、当該意見書の結論は直ちには採用できない。
もっとも、申請人は、証拠及び審問の全趣旨により、いらだちや不快感といった精神的苦痛を受けたことが認められる。
(2)本件工事に伴う騒音又は低周波音と申請人の被害が、一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものであるか否かについて
・騒音等の程度についてみると、(1)に示した精神的苦痛を与える程度のものとして証拠上認定できるのは、工事期間中の6日間に限られること
・一旦中断した工事が再開した経緯において、被申請人らが申請人と継続的に話し合うことが困難であると判断したことについて無理からぬ状況であったと解するのが相当であることまた、明渡しが完了して無人の状態となった既存建物が多数あり、これらをそのまま放置しておくことは防犯上問題が
あったとする被申請人らの主張には、社会通念上一定の合理性があると認められること
・被申請人らは本件工事に伴う騒音等の発生について一定の配慮をしていたと認められることなどの事情を考慮すれば、申請人に生じた被害は、一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものであったとまでは認められない。
(3)よってその余の争点を判断するまでもなく、申請人の本件裁定請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。


runより:これは残念なケースです。低周波過敏症には不利な判例となりました。