・2.BPAについて
BPAは、1936年に女性ホルモンであるエストロゲン類似物質開発のために合成された化学物質で、後にプラスチック原料として多くの用途に使用されてきた。
BPAについては、近年内分泌系や生殖器系だけでなく、神経系への影響(行動を含む)に関するデータも蓄積され、さらにヒトの尿、血清、羊水、胎盤、母乳などで検出され、胎齢15-18週では羊水中濃度が母体血清より高いという報告もあることから、胎児期曝露による脳形成・発達への影響を懸念して研究を開始した。
3.BPAの発達期脳への影響
BPAを、妊娠マウスに妊娠直後から連日、体重1kg当たり20μgと低用量皮下投与し、妊娠経過を追って、胎仔脳の発生過程を組織学的ならびに遺伝子発現の面から解析した。
その結果、大脳皮質の形成過程である妊娠12.5日~16.5日の間で、 BPA投与群では神経細胞の分化や細胞移動が、非投与群に比べ促進していた。
この時期の大脳皮質における遺伝子の転写活性(遺伝子発現)を調べると、神経細胞分化に関わる転写因子(遺伝子発現を調節する因子)の遺伝子や甲状腺ホルモンの影響を受ける遺伝子の転写活性が大きく変化しており、組織学的変化同様に、発生をより促進する方向に働いていることがわかった。
BPAは、神経細胞分化に関わる活性型転写因子の作用を高める一方、抑制型転写因子を抑え、さらに脳の発達に重要な甲状腺ホルモンの作用を攪乱して、妊娠中の脳形成過程に影響を及ぼしていた。
4.BPAの脳形成期への影響は成熟してからも永続するか?
胎生期にBPA曝露したマウスの成長後の影響を知るため、生後3週の大脳皮質を調べると、正常では神経細胞が6層の秩序ある配列をとるが、BPA曝露群では・IV層にあるべき神経細胞が上下の層に広がって分布し、神経細胞の配置に明らかな異常が観察された。
さらに大脳皮質と脊髄を結ぶ重要な経路となる、大脳皮質と視床を連絡する視床皮質路を調べたところ、正常では神経回路の線維が収束しているのに対し、BPA投与群では神経線維が広く分散していた。
これらの結果から、BPAは胎児期の脳形成段階で影響を及ぼすだけでなく、成長後の大脳皮質神経細胞の配置異常や、視床皮質路における神経回路形成異常など、永続的な影響をもたらすことが明らかとなった。