・カナダ ポリカーボネート製ほ乳瓶の販売禁止
アメリカはリスク評価にとどまっているので、その結果がどのように行政の施策に反映されるのかは未確定な部分が大きい。
食品医薬品局(FDA)に対策の見直しを迫る意見もあるが、今のところ不明だ。
一方カナダでは、2006年12月の化学物質管理計画に基づき、約200種類の化学物質を優先的にレビューすることを決定。ビスフェノールAもその一つに入った。
科学的レビューだけでなく、産業界などの利害関係者との協議も行って、以下のような対策を発表した。
1)ポリカーボネート製ほ乳瓶の輸入・販売・宣伝の禁止
2)乳児用ミルク缶の溶出規制を厳しくする。企業と共同で代替素材の容器を促進する
これらの施策は、4月18日に保健大臣と環境大臣の連名で発表されたものだ。
カナダ政府の評価書をみると、アメリカ同様に一般の大人にとっては心配ないが、妊娠中の胎児、新生児、乳児への影響を懸念している。
神経発達および行動への影響が、実際の乳児の摂取量と同程度で起きている点や、化学物質の体内動態のデータに基づいて、妊娠女性と胎児や乳児は感受性が高い可能性があることを重視している。
実験結果には科学的不確実性が高いことを認めつつも、予防的アプローチの採用が適当だと指摘している。
カナダの施策は、環境ホルモンの低用量影響の可能性を考慮した世界でも初めての対策といえる。
EU 低用量影響は評価できないと基準を緩和
低用量影響を重視するアメリカ、カナダと対照的なのが、EUの対応だ。EUの食品安全機関(EFSA)は、アメリカに先駆けて、2007年1月にビスフェノールAのリスク評価を発表。
様々な低用量影響の研究結果については、確実性、再現性で問題があるとして評価の対象としないと判断。
また体内動態のデータでは、アメリカやカナダでの評価とは逆に、マウスやラットに比べてヒトはビスフェノールAをはるかに早く代謝排泄できるという点や、マウスが特に女性ホルモンに感受性が高いという点を重視した。
その結果、それまでのTDI(10μg/kg/日)から5倍の50μg/kg/日へと改定した。
日本 これまでにない低い用量で影響を確認
一方日本では、厚生労働省の科研費による研究で、0.5μg/kgという低用量で影響が確認された。
リスク評価だけを委託されている食品安全委員会は、販売禁止措置などを行う権限はない。
現在、ビスフェノールAに関する規制は、食品容器の溶出基準があるが、そうした基準値を定めているのは厚生労働省である。
しかし基準値作成の元になっているのが、EUと同じ50μg/kg/日というTDIだ。食品安全委員会が、国内や海外での低用量影響のデータを考慮すれば、ADIの見直しが必要となるかもしれない。
そうなると、リスク管理を担っている厚生労働省も溶出基準の見直しをせざるを得ないということになる。
ただ実際にほ乳瓶売り場を見てみると分かることだが、ポリカーボネート製ほ乳瓶はほぼ姿を消している。
それは90年代の空騒ぎといわれた環境ホルモン騒動の成果だ。赤ちゃん用品販売の大手「アカチャンホンポ」は、ポリカーボネートほ乳瓶は扱わないことを公表している。
赤ちゃん用品製造の大手「ピジョン」では、ポリカーボネート製の扱いは維持しながらも、「ご不安をお持ちのお客様には、ビスフェーノールAを原料に用いていないPPSU製、または、ガラス製のほ乳びんのご使用をお勧めいたしております」と代替プラスチックの製品も準備している。
その結果日本の乳児の曝露量は、すでにかなり減少していると思われる。ただ日本の新たな低用量影響のデータを重視するとしたら、粉ミルク缶のエポキシ樹脂の対策も見逃すわけに行かなくなるだろう。