国際シンポジウムの報告 | 化学物質過敏症 runのブログ

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。ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議より
http://www.kokumin-kaigi.org/kokumin03_53_07.html

・ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議創立10周年記念
国際シンポジウムの報告

 2008年9月27日、東京の国際協力事業団総合研修センター会議場において、4名の多彩な講師を迎え、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の10周年記念国際シンポジウム「子どもの環境と健康」が開催されました。

おかげさまで午前午後とも約200名の会場は聴衆で満員になり、盛会のうちに終了いたしました。ご協力ありがとうござい
ました。以下に講演の概要を紹介します。

へその緒が語る体内汚染 ―未来世代を守るために―
講師:森 千里氏
(千葉大学大学院教授・医学博士・国民会議副代表)

1.化学物質と疾患の関係
 1980年代後半から、私たちの生活の中の化学物質は急激に増加している。

かつて日本では、高濃度の化学物質曝露による公害が社会問題となったが、近年では中・低濃度の化学物質曝露による環境ホルモンやシックハウス症候群、化学物質過敏症が大きな問題となっている。

一般的に疾患の原因には、遺伝要因と環境要因があるが、これらの疾患の原因は、環境要因だといえる。10数年来で遺伝要因が変化するとは考えられないからである。

そして、これらの疾患については、環境要因のうち化学的要因が大きく寄与していると指摘されている。環境要因による健康障害には予防医学の考えが重要であり、特に、未来世代を守るためには、化学物質の影響を強く受けやすい胎児を基準にした対策が必要である。

2.ヒト胎児の複合汚染
 では、胎児の化学物質曝露状況はどうなっているのだろうか。
 へその緒(臍帯)には、ダイオキシン、PCB類、DDE等の残留性化学物質や水銀がほぼ100%の確立で含まれている。これらの物質は、臍帯を通じて胎児に移行し、胎児の体内に蓄積されている。PCBを例にとると、母親が高齢であるほど母体内にPCBを多く蓄積しているため、第一子出産年齢が高くなるのにつれて、臍帯中のPCB濃度も高くなっている。

また、第一子、第二子、第三子の順に臍帯中のPCB濃度が低下傾向にあるが、これは、出産の度に母体のPCBが胎児に移行し、母体のPCB濃度が低下していることを示している。
 臍帯中の化学物質濃度は、最大で10倍近くの個人差がある。

平均すれば低濃度であっても、高濃度の集団(ハイリスク・グループ)には何らかの対応が必要だ。また、胎児期の環境は、身体の発達に重大な影響を持つとされており、胎児期はライフステージにおいて最もリスクが高い段階(ハイリスク・ライフステージ)にある。よって、胎児の化学物質曝露を可及的に低減することが重要といえる。

3.ヒト胎児の複合曝露への対策と実践
(1)対策:予防医学
 ヒト胎児の複合汚染は明らだが、胎児に将来疾患が生じるかどうか、何が原因でどのような機序で発症するか等、未解明な部分は多い。

それでも、未来世代の健康を守るためには、戦略的・予防的に、対策を講じる必要がある。ここで重要なのが、

①リスクの問題を知り(認知)、

②自己の状態に関心を持ち(関心)、

③行動に移す(行動・対応)という予防医学に基づく対策である。
(2)実践:次世代環境健康学プロジェクト
 ヒト胎児の複合曝露対策の実践として、森先生は、予防医学に基づき、2003年、次世代環境健康学プロジェクトという大学発NPOを立案された。
①認知
 化学物質の人体への影響を防ぐには、まず、化学物質が人体にどのように影響するかといった情報を、一般市民が知ることから始まる。そこで、次世代環境健康学プロジェクトでは、化学物質に関する情報を正確にわかりやすく伝達するトランスレーターを養成し、資格を付与している。資格を得たトランスレーターは、一般市民に集団教育を行っている。
②関心
 次に、化学物質の健康診断を行い、自分がどのくらい汚染されているのかを知る必要があり、次世代環境健康学プロジェクトでも、化学物質の健康診断を実施している。また、体内濃度測定法の確立や疫学調査、化学物質の複合曝露の影響のメカニズム解明等の研究も行っている。
③行動・対応
 健康診断の結果、汚染濃度が高い人には、生活習慣の改善で体内濃度を下げるためのアドバイスや、投薬による濃度低減治療を行う。

未来世代を化学物質から守るためには、特に、生殖世代にある若い世代に対して、適切な対策をとることが重要である。

例えば、母乳には母体血よりも高濃度のPCBが移行するので、母親のPCB濃度が高い場合、子どもを母乳で育てる場合と人工乳で育てる場合とのリスク情報を提供している。
(3)ケミレスタウンプロジェクト
 2007年、次世代環境健康学プロジェクトに、ケミレスタウンプロジェクトが追加された。
 ケミレスタウンプロジェクトは、シックハウス症候群の根本的対策の実践である。

シックハウス症候群に関しては、膨大な化学物質の中から一つずつ疾患との因果関係を検証し、原因を明らかにするという対応をとることは不可能で、環境を変えることが根本的対策となる。

ケミレスタウンプロジェクトは、大学キャンパス内に化学物質を低減したモデルタウンを建設し、最も感受性の高い胎児を基準とした環境改善型予防医学研究を行い、環境ユニバーサルデザインによる街づくりを確立することを目指す実証実験なのだ。
 ケミレスタウンプロジェクトにおいても、①認知、②関心、③行動・対応の3方向からシックハウス症候群対策を講じている。すなわち、①ケミレスタウンを創設することで、情報を発信し、②モデルタウン内の診療科でケミレス必要度テストを行い、③シックハウス症候群の疑いのある子どもと家族はモデルハウスに居住し、症状改善を検証する。

また、環境改善型予防医学や、環境ユニバーサルデザインという価値観の普及に努めている。

4.未来世代のために
 化学物質なしの生活は不可能である。しかし、これを削減し、現代及び未来世代の健康を守ることは可能である。次世代環境健康学プロジェクトは、胎児を基準にした環境予防医学を日本全体へ、そして世界へ普及する拠点として活動を続けている。

              【報告:和久井智子】