・隣家の農薬で化学物質過敏症―千葉地裁判決。
過敏症を真正面から認定した初の判決
2005年11月21日、千葉地裁は、隣家の農薬誤使用により化学物質過敏症になったとして原告6人に総額約530万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
農薬中毒による損害賠償を認めた判決はこれまでもありましたが、化学物質過敏症を真正面から認定したのはこの判決が初めてだと思います。
このケースは、その後控訴審で円満に和解が成立しました。隣家は農薬の定められた使用方法を遵守すること、一審勝訴の農協も今後組合員に使用法の指導を徹底し、使用方法の周知に努めるという条項も入りました。
この農薬は、クロルピクリン35%、ジクロロプロペン60%含有の土壌消毒剤で、農地に注入して使います。
注入後はなるべく厚いポリエチレンシートで地表面を被覆し、使用後の缶は逆さにして周囲に影響のない場所で臭いが抜けるまで立てておく、一定期間被覆したまま薫くんを行い終了後にシートを除去する、などという使用方法が定められています。
しかし被告の農家はこの農薬の使用方法を読まず、注入後すぐ被覆しなかったため、隣家の住人がガスを吸入して化学物質過敏症を発症したのです。
化学物質過敏症を被害と認定し損害賠償を命じた最初の判決ですが、残念ながら、発症には個人差があるという点を素因減額として3割差し引いてしまいました。
判決によると、「本件農薬によって化学物質過敏症を発症するに至ったのは、原告らの有していた素因もその原因の一つであり、損害の拡大に寄与したことは否定し難い」として、過失相殺の規定を類推適用したのです。
過失相殺とは交通事故などで被害者にも赤信号で渡ったとか、急に飛び出したなどの過失がある場合、この過失分を加害者の賠償額から減額する考え方です。
電気ストーブ事件ではこうした素因減額はありませんが、今後過敏症発症の個人差について研究が進むと、かならず争点になると思われるので要注意です。