・)実験結果の考察
室内空気汚染が直接関係する疾患として、アレルギー性疾患と化学物質過敏症を中心とするシックビルディング症候群が注目を集めてきている。
特にホルムアルデヒドはその汚染濃度の高さで室内のホルムアルデヒド濃度の基準値はWHO および厚生省により80ppb と定められているが、今回の実験では80ppb ではなお不充分であり、16ppb が安全であることを示していると考えられた。
臨床的にもGallettは小児喘息が室内ホルムアルデヒド濃度が16ppb で発症が少ないこと,40ppbでは発症数が多いこと(図9)、さらに皮膚のスクラッチテストで各種の抗原に反応を示しやすいのも40ppb 以上の室内空気汚染住宅居住児童であること報告している。今回の結果は、Garrett の報告を実験的に支持するものと考えられた。
将来的には室内ホルムアルデヒド濃度の基準値は16ppbとすべきと考えられた。
化学物質汚染の総量が増加している際には、二つの可能性が考えられる。その総負荷量による症状の重症化と、その汚染物質による解毒機能の亢進、すなわち適応の化学的清浄室飼育により、ホルムアルデヒドおよび有機リン殺虫剤トリクロロフォンの増悪作用が抑制された。
北里大学周辺の大気はメタン換算で100 200μg/m3であり、室内空気はさらに高濃度の負荷が加わっていると思われる。
一般飼育室内での実験では化学物質の総負荷量が、清浄室より多いために、増悪作用が顕著に現れたと思われた。
これまでも、マイクログラム以下の実験では、例えばフェニトロチオンの実験的アレルギー性結膜炎の増悪作用に関して意見が分かれることが認められている。
このような微量な濃度の実験を行うためには、今後このような厳密な施設が必要と思われた。またアレルギー疾患の治療に清浄な大気が経験的に利用
されていることの実験的な裏づけが得られたと考えられた。
室内空気の基準値には、各個の物質の基準値と同時に、総量の基準値を必要とすると考えられた。