・3)全白血病および全脳腫瘍について
全白血病および全脳腫瘍に関する論文は6本抽出した。その研究方法別内訳(文献番号)では、後ろ向きコホート研究が2本(1,2)、症例対照研究が3本(5,6,11)、レビューが1本(16)であった。以下に抽出した文献を列挙する。なお、以下の文中の引用文献番号は(表3.1)の記載に対応している。(省略)
3)-1 全白血病についての研究
○ Harrington JMら(1)は、イングランドおよびウェールズの前中央電力庁の従業員83,997名を対象にした後ろ向きコホート研究を行い、全白血病のリスクと磁界の職業性曝露との関連性を調べた。
その結果、全白血病の標準化死亡比は84、全死因による標準化死亡比は83となり、全白血病のリスクと磁界との関連性はみられなかった。
また白血病のサブタイプ(慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病)別のリスクと、生涯における累積磁界曝露、または最近5年間に限定した磁界曝露との間においても、いずれも関連性はみられなかった。
この研究では、労働経歴から判明した職種に基づいて曝露を評価しているが、同じ職種においても磁界曝露の実態は異なる場合も考えられ、曝露評価の誤分類の可能性が考えられる。また全死因での標準化死亡比が83と有意に低く、ヘルシーワーカーズイフェクトの存在を考慮する必要がある。
○ Minder CEら(2)は、スイスの鉄道従業員18,070名を対象にして270,155人年におよぶ後ろ向きコホート研究を行い、全白血病のリスクと磁界の曝露との関連性を調べた。曝露評価については、磁界の累積曝露(μT-year)と、10μT以上の磁界に曝露された期間(year)の、2種類を用いて全白血病の相対危険度を算出した。その結果、曝露が低い職種(駅員)の対象者と比較した、曝露が高い職種(運転士)の対象者における全白血病の相対危険度は2.4(95%信頼区間1.0~6.1)であり、リスクの増加が認められた。
また磁界の累積曝露が1μT増加する毎に白血病の死亡率が0.9%(95%信頼区間0.2~1.7)有意に増加、10μT以上の磁界曝露の期間が1年間長くなる毎に白血病の死亡率が62%(95%信頼区間15~129)有意に増加する量反応関係を認めた。
この研究では磁界曝露の実測方法よりその正確性は評価できる。しかし曝露期間については対象者の記憶によるため、バイアスが生じて過小評価される可能性が考えられる。
また職場以外における曝露の影響等についての考察が十分にされていない。