・6. この病気ではどのような症状がおきますか
体が酸素不足になることと、心臓が血液を肺の血管へ送る際に大きな負担が生じるため、すべての患者さんで何らかの労作時の息切れを感じるようになります。
階段や坂道を昇るときの息切れに始まり、次第に平らな道でも息切れを感ずるようになります。
また、呼吸や脈が普通の人よりも早くなります。
胸の痛みや胸を圧迫されるような感じなど、狭心症などの心臓の発作と似たような症状もおこるため、こうした疾患と間違えられることも多いようです。
胸部レントゲン写真で異常がないことも多いので、原因がはっきりしない息切れが続くときには、専門医を受診する必要があります。
また以前に足の腫れや痛みがあって、その後息切れを感じる患者さんや、胸の痛みや圧迫感を感じる発作を繰り返す人もみられます。
なかには失神や血痰、発熱、咳などを訴える患者さんもいます。
進行するとほんの少し歩いただけでも息切れを感じ、足のむくみ、おなかの張る感じ、全身のむくみによる体重増加、尿量の減少といった右心不全の徴候もみられてきます。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
1.薬による治療(抗凝固療法・血栓溶解療法)
息切れ、胸の痛みや足の腫れを感じてからおおよそ2ヶ月以内で、肺の血管に詰まった血栓が比較的新しい患者さんでは、ヘパリンやワルファリンという血液を固まりにくくする薬(抗凝固療法)や、ウロキナーゼ、t-PAという血栓を溶かす薬(血栓溶解療法)を使うことで、徐々に血栓が溶けて息切れが良くなることもみられます。
血液を固まりにくくする薬としては、最初にヘパリンを点滴で5日から7日間程度使い、その後ワルファリンの内服に切り替えます。
ワルファリンはこの病気の患者さんではすべてに、後でのべる手術を受けた患者さんでも必ず飲まなくてはなりません。
人によって内服する量が異なりますが、1錠から5錠程度毎日服用し、生涯飲み続けることとなります。
納豆やブロッコリーなどで薬の効果が弱まったり、様々な他の薬との併用により影響を受けるので、他の薬を内服している患者さんは、よく主治医の先生と相談する必要があります。
ヘパリン、ワルファリンともに副作用として出血があり、月に最低1回は凝固系の血液検査を行い、薬の量を適正に調節する必要があります。
ウロキナーゼやt-PAといった血栓を溶かす薬は、より効果が強く、特にt-PAはやや時間が経ってしまった血栓を溶かすことができるといわれています。
しかしながら、反面副作用としての出血の程度も強いので、出血している胃潰瘍や脳の血管の病気を持った人、出産間近や直後の人、大手術の直後ではその使用は危険とされています。
しかし患者さんの中には、非常に症状がよくなる人がいるため、息切れ、胸痛、足の腫れから2ヶ月程度しかたっていない患者さんや、検査上最近悪化したことが明らかな患者さんでは、外科的治療に踏み切る前に試みる価値のある治療と思われます。
2.在宅酸素療法
血液中の酸素不足がある患者さんや肺動脈圧が高い患者さんでは、酸素を吸うことによって息切れが良くなることや、さらに延命も期待できることが知られています。
現在では自宅で酸素を吸う在宅酸素療法が普及してきており、さらに携帯用ボンベも開発されているため、酸素を吸いながらの外出も可能となっています。酸素は副作用もなく極めて安全な治療法であり、肺高血圧のある患者さんでは保険適応となりますので、積極的に行うことが望まれます。
3.肺血管拡張薬による治療
現在、肺動脈が収縮したり、血管壁が厚く固くなったりする肺動脈性肺高血圧症という病気に対して、肺血管を拡げたり、肺血管壁が厚くなるのを防ぐ薬であるプロスタサイクリンの点滴(フローラン)、内服薬(ドルナー、プロサイリン)、バイアグラなどが有効であることが報告されてきています。
手術の適応とならない慢性肺血栓塞栓症の患者さんでも、肺動脈の圧が下がったり、運動能力が改善したという報告がされてきているため、同じく使用する場合がありますが、有効性に関しての一定の見解はまだでていません。なお、バイアグラは自費負担となります。
4.下大静脈フィルター
肺の血栓性塞栓の原因として、足の静脈にできた血栓が飛んでくることが多いことから、足の静脈から心臓へ通じる太い静脈(下大静脈)に、こうもり傘の骨のような形をしたフィルターを入れて剥がれた血栓が肺へ流れて行くのを途中で捕捉することが試みられることがあります。
特にワルファリンが副作用のため使えない症例や、治療中にもかかわらず発作を繰り返す患者さんでは挿入した方が良いと考えられています。
欧米では、後述する手術療法を行う、肺高血圧を伴う慢性肺血栓塞栓症の患者さんでは、全例で下大静脈フィルターを入れることになっています。
日本では、足の静脈血栓との因果関係がはっきりしないため、症例を選んでフィルターの留置が行われています。
留置方法は、首や足の付け根の血管から細いカテーテルという管を使って入れるため、管を入れる場所の局所麻酔だけですみ、比較的安全な治療法といえます。