化学物質による乗用車室内空気の汚染
シックハウス症候群や化学物質過敏症が近年社会的な問題となっていますが、室内空気中の化学物質がその発症原因の一つとされています。
厚生労働省では、生活衛生上問題となる各化学物質の室内濃度指針値の策定を順次進め、現在、ホルムアルデヒドとトルエンやキシレンなどの揮発性有機化合物 (VOC) の合計13物質の指針値が設定されています。
また、これとは別に室内空気中VOCの総濃度 (T-VOC濃度) の目標値も設けられています。
指針値は、一般住宅のほか、学校、事務所、図書館、車両など、化学物質を製造・使用する工場等の産業現場を除く大部分の室内に適用されます。
乗用車の室内は現代のクルマ社会において、生活環境の一部として位置づけられます。新車購入直後や気温の高い時期、車内の特異な臭いを経験された方は多いのではないでしょうか。
しかし、その臭いの化学成分や濃度に関することは、これまでほとんど知られていません。
私たちは、1台の新車を対象として納車後の車内空気中化学物質濃度の経年的な推移を調べるとともに、多種類の乗用車を対象として車内空気汚染の実態を調査したので紹介します。
1.新車納車後の化学物質濃度の推移 化学物質濃度の経年的推移の調査では、1999年7月に新車として納車された1台の国産車を対象としました。
納車後通常の使用下において定期的に車内空気を測定し、約3年間の化学物質濃度の推移を調べました。
測定は、車内に持ち込んで使用している物品をあらかじめ全て車外に出し、窓、ドア、ベンチレーターを閉め、エンジンを停止した状態で行いました。
その結果、納車翌日の車内空気中より合計162種の化学物質が検出され、そのうちホルムアルデヒドおよび153種のVOCを継続的に定量しました。
各VOC合計濃度 (T-VOC153濃度)の推移を図1に示しました。
納車翌日におけるT-VOC153は約14,000μg/m3であり、厚生労働省目標値の35倍の濃度でした。T-VOC153濃度は納車後半年間で急速に減少しますが、冬季から夏季にかけて上昇し、1年後には納車翌日の濃度の約1/10になりました。2年目以降も冬季に低値、夏季に高値のパターンを繰り返し、納車3年後の夏季においてもT-VOC153濃度は目標値を上回っていました。
この調査結果より、車内空気中には内装材から放散される多種類の化学物質が存在し、納車直後や車内温度の高い夏季では車内空気の汚染が著しいことが明らかとなりました。
図1 車内空気中T-VOC153濃度の推移
(μg/m3)