・ 症状 [編集]
パーキンソン病の症状には大別して運動症状と非運動症状がある。
非運動症状のなかには、精神症状、自律神経症状などが含まれる。
運動症状 [編集]
主要症状は以下の4つである。振戦、無動、固縮が特に3主徴として知られている。
これらの神経学的症候をパーキンソニズムと呼ぶ。
安静時振戦(ふるえ resting tremor)
指にみられることが多いが、上肢全体や下肢、顎などにもみられる。
安静にしているときにふるえが起こることが本症の特徴である。
精神的な緊張で増強する。
動かそうとすると、少なくとも一瞬は止まる。書字困難もみられる。
指先のふるえは親指が他の指に対してリズミカルに動くのが特徴的であり、薬を包んだ紙を丸める動作に似ていることからpill rolling signとも呼ばれる。
筋強剛(筋固縮) (rigidity)
力を抜いた状態で関節を他動させた際に抵抗がみられる現象。強剛(固縮)には一定の抵抗が持続する鉛管様強剛(鉛管様固縮、lead pipe rigidity)と抵抗が断続する歯車様強剛(歯車様固縮、cogwheel rigidity)があるが、本疾患では歯車様強剛が特徴的に現れ、とくに手関節(手首)で認めやすい。
純粋なパーキンソン病では錐体路障害がないことが特徴である。すなわち四肢の麻痺やバビンスキー反射などは認められないのが普通である。
パーキンソン病をはじめパーキンソン症候群に特徴的な、いわゆる仮面様顔貌(目を大きく見開きまばたきが少ない、上唇が突き出ている、これらの表情に変化が乏しい)は、顔面筋の筋強剛によるものとされる[19]。
無動、寡動(akinesia, bradykinesia)
動作の開始が困難となる。
また動作が全体にゆっくりとして、小さくなる。仮面様顔貌(瞬目(まばたき)が少なく大きく見開いた眼や、表情に乏しい顔貌)、すくみ足(歩行開始時に第一歩を踏み出せない)、小刻み歩行、前傾姿勢、小字症、小声症などが特徴的である。ただし床に目印となる線などを引き、それを目標にして歩かせたり、障害物をまたがせたりすると、普通に大またで歩くことが可能である(kinésie paradoxale、逆説性歩行、矛盾性運動)。
姿勢保持反射障害(postural instability)
バランスを崩しそうになったときに倒れないようにするための反射が弱くなる。加速歩行など。
進行すると起き上がることもできなくなる。
多くの症例で、特に病初期に症状の左右差がみられる。
進行すると両側性に症状が現れ、左右差はなくなることが多い。マイヤーソン徴候(Myerson symptom)なども診断の参考になる。またL-ドーパ剤投与が奏効する(症状が顕著に改善する)ことが特徴であり、これは他のパーキンソン症候群と本疾患を鑑別する上で重要な事実である。
非運動症状 [編集]
自律神経症状として便秘、垂涎などの消化器症状、起立性低血圧、食後性低血圧、発汗過多、あぶら顔、排尿障害、勃起不全などがある。
精神症状としては、感情鈍麻 (apathy)、快感喪失 (anhedonia)、不安、うつ症状、精神症候(特に幻視)、認知障害を合併する場合が多い[20]。
感情鈍麻はパーキンソン病のうつ症状に合併することが多い[21]が、単独でも現れる[22]。
うつ症状はパーキンソン病の精神症候の中で最も頻度の高い症候とされてきたが、実際の頻度については定説がない[20]。
最も用いられている数値は約40%である[23]。
幻視も頻度の高い精神症候である。この症候は抗パーキンソン薬による副作用と考えられてきたが、近年ではそれだけでなく、内因性・外因性の様々な要素によって引き起こされるとする考え方が有力になっている[24]。以前は特殊な例を除き認知障害は合併しないといわれていたが、近年では後述のように認知障害を伴うパーキンソン病の例が多いとみなされるようになっている。
無動のため言動が鈍くなるため、一見して認知症またはその他の精神疾患のようにみえることもあるが、実際に痴呆やうつ病を合併する疾患もあるため鑑別を要する。
また、病的賭博、性欲亢進、強迫的買い物、強迫的過食、反復常同行動、薬剤の強迫的使用などのいわゆる衝動制御障害がパーキンソン病やむずむず脚症候群に合併することが知られるようになっている[25]。
認知症を伴うパーキンソン病・疫学 [編集]
パーキンソン病は、高率に認知症を合併する。27の研究のメタアナリシスによると、パーキンソン病の約40%に認知症が合併していた[23]。約30%というメタ解析データもあり[26]、その研究では全認知症症例の3.6%がパーキンソン病であった。
パーキンソン病患者は、認知症を発症するリスクは、健常者の約5-6倍と見積もられており、パーキンソン病患者を8年間追跡調査した研究では、78%が認知症を発症した。