・遺伝子異常 [編集]
近年、少なからぬ数の特定遺伝子の突然変異がパーキンソン病の原因となることが発見されている。
この中には相当数の患者が存在する地域(イタリア、コントゥルシ・テルメ)もある。
遺伝子の変異で、パーキンソン病患者のごくわずかについては説明がつく。
患者の中には、血縁者の中にやはりパーキンソン病患者がいることがある。がそのことだけでは、この疾患が遺伝的に伝わることにはならない。
現在アンジェスMGがHGF遺伝子治療薬の特許を複数取得して研究をリードしている。
今までに同定されている遺伝子には以下のものがある(外部リンクはヒトのメンデル遺伝データベース (OMIM) へのリンクである)。
タイプ OMIM 遺伝子座 備考
PARK1 OMIM #168601 4q21 α-シヌクレインタンパクをコードしているSNCA遺伝子の突然変異によって起こる。
PARK1は常染色体優性のパーキンソン病を発症させる。PARK4といわれた遺伝子 (OMIM #605543) はおそらくSNCA遺伝子の三重重複 (triplication) によって起こる[8]。
PARK2 OMIM *602544 6q25.2-q27 パーキン (Parkin) タンパクをコードする遺伝子の突然変異によって起こる。
この変異は現在わかっている若年性パーキンソン病の最も一般的な原因のひとつになっている。
ある研究では、40歳未満で発症したパーキンソン病患者(全患者の約10%)のうち、18%にパーキンの変異が見られ、また5%は変異体のホモ接合型であった[9]。常染色体劣性遺伝の家系では、20歳未満で発症する患者の場合はるかに高い割合でパーキンの突然変異が見られた(約80%、40歳以上の発症者では28%)[10]。
パーキン突然変異 (PARK2) を持つ患者では、病理所見でレビー小体が見られない。孤発性パーキンソン病患者と極めて似た症状を示すが、ずっと若年で発症する傾向がある。
PARK3 OMIM %602404 2p13 常染色体優性であり、ごくわずかの家系だけに見られる。
PARK5 OMIM +191342 4p14 ユビキチンC末端水解酵素 (Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1) をコードする遺伝子UCHL1の突然変異による。
PARK6 OMIM #605909 1p36 PTEN誘導性推定キナーゼ1タンパクをコードするPINK1遺伝子 (OMIM *608309) の突然変異による。
PINK1タンパクはミトコンドリアに局在する基質不明のキナーゼであり、その変異は常染色体劣性遺伝型若年発症パーキンソン病のまれな原因となる[11]。
PARK7 OMIM #606324 1p36 DJ-1遺伝子 (OMIM 602533) の突然変異による。
PARK8 OMIM #607060 12q12 dardarinタンパク (Leucine rich repeat kinase 2) をコードするLRRK2遺伝子の突然変異による。In vitroでは、変異したLRRK2はおそらくパーキンタンパクとの相互作用によって、タンパクの凝集と細胞死を引き起こす[12]。
この遺伝子を持つ家系では常染色体優性のパーキンソン病を発症し、また発症が平均50歳代であり、レボドパ治療に反応する典型的なパーキンソン病である[13]。 LRRK2の突然変異はG2019Sにおけるものが最も多いが、この変異では80歳までの浸透度はほぼ100%である[14]。
G2019Sにおける突然変異は米国およびヨーロッパの遺伝性パーキンソン病患者の1-6%に見られ、もっとも多い[15]。ことにアシュケナージ系ユダヤ人では一般的であり、家族性パーキンソン病患者で29.7%の有病率、孤発性患者でも13.3%である[16]。
一方この変異では浸透度が低いという報告もあり[13]、80歳での浸透度を32%とし、孤発性患者でこれほど変異が高頻度に見られることの原因を浸透度の低さに帰する評価もある[17]。
PARK9 OMIM #606693 1p36 ATP13A2遺伝子の突然変異によって起こり、Kufor-Rakeb症候群としても知られる[18]。PARK9はおそらくPARK6の対立遺伝子である。
PARK10 OMIM %606852 1p -
PARK11 OMIM %607688 2q36-37 遺伝子座については矛盾するデータがあるが、重要性はないであろう。
PARK12 OMIM %300557 Xq21-q25 -
PARK13 OMIM #610297 2p12 HTRA2(HtrAセリンペプチダーゼ2)遺伝子の突然変異による。
ミトコンドリア機能障害仮説 [編集]
MPTPやロテノンといったミトコンドリアに機能障害を起こす薬物により、ヒトや実験動物においてパーキンソン病様の病態が起こること、孤発性のパーキンソン病においてミトコンドリアの呼吸鎖の機能障害が観察されることから、パーキンソン病原因の1つの仮説としてミトコンドリアの機能障害が想定されている。
病理 [編集]
肉眼的には黒質・青斑核の色素脱失がみられ、組織学的には、黒質や青斑、迷走神経背側核、視床下部、交感神経節などの神経細胞脱落が生じていて、典型的には残存神経細胞やその突起の一部にレビー小体(Lewy body)という特徴的な封入体が認められる。
近年ではレビー小体は自律神経節など末梢レベルでも蓄積していることが明らかになってきた。
レビー小体には、リン酸化α-シヌクレインの異常な蓄積が認められる。
病態 [編集]
正常(左図)およびパーキンソン病(右図)でのドーパミン作動性経路の流れ。青の矢印は標的への刺激、赤の矢印は標的への抑制を示す。
中脳黒質のドーパミン神経細胞減少により、これが投射する線条体(被殻と尾状核)においてドーパミン不足と相対的なアセチルコリンの増加がおこり、機能がアンバランスとなることが原因と考えられている。しかしその原因は解明に至っていない。
このため、パーキンソン病は本態性パーキンソニズムとして、症状の原因が明らかでないパーキンソニズムに分類される。また腸管におけるアウエルバッハ神経叢(Auerbach plexas)の変性も病初期から認められており、本疾患が全身性疾患であるとの再認識をされるようになっている