経過 [編集]
本症にはびまん性全身性強皮症Diffuse systemic sclerodermaと限局型全身性強皮症Limited systemic sclerodermaの二つの亜型がある。前出の限局性と名前が似ているがまったく別物である。
びまん性全身性強皮症は皮膚硬化が肘・膝より近位(体の中央に近い側)に広がるものである。急性かつ重症の経過をたどり、肺・腎臓・心筋への障害も進みやすい。発症から3年~5年で症状のピークを迎えるが、それを過ぎると自然経過でも治癒の方向に進む。抗Scl-70抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体が主要な自己抗体である。肺線維症を合併することがある。
一方、限局型全身性強皮症は皮膚硬化が肘・膝より遠位(先の方)のみに見られるものである。びまん性と異なり症状の明確なピークは存在しない。抗セントロメア抗体・抗U1RNP抗体といった自己抗体が見られることがある。予後は比較的良好であるが、肺高血圧症を合併しやすいので注意が必要である。
症状 [編集]
レイノー現象
冷たいところに出ると、突然手が紫色になり、数分後逆に真っ赤になってしまうことで、他の膠原病(混合性結合組織病・SLE)などでもみられるが本症にもっとも特徴的である。
皮膚硬化
文字通り、皮膚が硬くなるのである。病変は、手の指の先端からはじまり次第に体の中心に向かってゆく。ここで、皮膚の硬化が体幹にまで至らないのが限局型である。最初はまず皮膚は浮腫状にはれあがり、「ソーセージ状の指」などと呼ばれる。次第にやわらかさが消え、硬くなり、逆に萎縮がみられてゆく。最終的にはカチカチに硬い皮膚となって満足に関節も曲げられなくなる。
皮膚石灰化
これは限局型のほうに顕著であり、皮下にカルシウムアパタイトの沈着が見られ、手のレントゲン撮影で容易にわかる。
肺
全身性強皮症においてもっともおかされやすい内臓臓器が肺である。ほとんどの患者に軽症から重症までさまざまな程度の間質性肺炎がみられるほか、肺高血圧症もおこりやすい。主な死因であり、肺病変が、本疾患の予後を規定する。
消化管
皮膚のみならず、消化管上皮も硬くなる。下部食道の硬化のためアカラシアを起こしたり、胃酸をうまく胃にとどめておけなくなって胸焼け(逆流性食道炎)をうったえたり、腸の動きが悪くなって便秘を訴えたりすることが多いが、重篤な場合、腸管嚢腫様気腫症を発症することがある。
心臓
心病変は前面に出ることはないが、心筋はゆるやかに線維化を起こし、ときに左室拡張不全の原因となる。
腎臓
特に「強皮症腎」と呼ばれる有名な症状で、腎機能障害、高血圧の原因であるほか、いったん腎機能の悪化が始まると加速度的に腎不全に陥っていく(強皮症腎クリーゼ)。本質的には腎血管の線維化であり、それにともなうレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)の異常な活性化である。ACE阻害薬が、高血圧の有効な治療薬であり、腎クリーゼの予防効果もある。
検査 [編集]
CRP,血沈,リウマチ因子,抗核抗体
Scl-70抗体(抗トポイソメーラゼI抗体) … 肺線維症合併びまん型強皮症で検出されることが多い。
抗セントロメア抗体 … 限局型(limited type)強皮症での検出が多い。
抗RNAポリメラーゼIII抗体 … びまん性(diffuse type)の強皮症に特異性が高い。強皮症腎での検出例が多い。
皮膚生検
心エコー … 肺高血圧症の評価にも用いる。
腹部エコー … 腎臓の形態評価にも用いる。
血流ドップラー、ドップラー・エコー … 血行の評価に用いる。
胸部レントゲン写真、胸部CT … 肺高血圧症、間質性肺炎、日和見感染の検査に用いる。
治療 [編集]
疾患の経過を改善させるという明確な根拠のある薬剤は存在しない。これは自然経過でもある程度症状が改善するという特徴を持った疾患であるため、実際の薬効がどの程度であったかを客観的に判断することが困難だという理由によるところが大きい。d-ペニシラミンやシクロスポリンが投与されるが、これも有効であることは示されていない。唯一、疾患の経過を変化させる根拠のある治療は腎クリーゼの予防としてのACE阻害薬である。
対症療法としては、皮膚への保湿剤、レイノーへのプロスタグランジン製剤やカルシウム拮抗薬、胸焼けに対するプロトンポンプ阻害薬、肺高血圧に対するエポプロステノールやボセンタンが用いられる。
外部リンク [編集]
強皮症研究会議 -SSc- | 強皮症をよりよく知るために
難病情報センター|強皮症 特定疾患情報