発生形態には建材・家具等の表面からの放散,
殺虫剤プレート(シート)・防虫剤ビーズからの放散,スプレー剤や燻煙剤からの噴射,喫煙や燃焼器具の排気等がある.このうち,建材・家具等の表面からの放散と殺虫剤プレート(シート)・防虫剤ビーズからの放散は内部及び界面での拡散速度に支配されるため温度依存性がある.
3.室内空気中化学物質濃度の指針値
厚生省(現厚生労働省)は1997年6月に,「快適で健康的な住宅に関する検討会議」の小委員会報告で,ホルムアルデヒドの室内濃度指針値を100 μg/m3(0.08 ppm)と設定している.さらに2000年4月に「シックハウス(室内空気汚染)問題検討会」を立ち上げ,室内空気中の化学物質濃度の指針値策定作業を開始し,2002年10月1日現在で13物質についての指針値と測定法を策定した.表に各物質の室内濃度指針値と策定の根拠となった毒性指標及び健康影響を示した.
各物質に対する感受性には大きな個人差が存在することから,設定された指針値以下であっても,人によっては健康に有害な影響を及ぼす可能性があることを否定できない.従って,「指針値以下だから安全」というのではなく,努めて低いレベルに保つように心がけることが重要である.この指針値は,今後集積される新たな知見や,それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い,将来必要があれば変更されうるものであるとされている.
また,個々の化学物質の規制だけでなく総量規制を目指して総揮発性有機化合物(TVOC,Total VOC)の暫定目標値を400 μg/m3とした.個別の化学物質の指針値が毒性データに基づくのに対して,TVOCの値は1997年及び1998年に厚生省(現厚生労働省)が実施した室内VOC濃度の実態調査結果7)を基にして,調査家屋の半数が達成できると考えられた値である.
すなわち,この値は竣工後居住を開始してある程度時間が経過した住宅における目安であり,汚染程度を表す指標である.
TVOC暫定目標値の決定方法は,欧州委員会共同研究センター環境研究所による「室内空気質とヒトへの影響-報告書No. 19:室内空気質の検討における総μg/m3 ppm
ホルムアルデヒド100 0.08
ヒト吸入暴露における鼻咽頭粘膜への刺激臭気閾値(0.08ppm),眼・鼻・喉への刺激・炎症,流涙,接触性皮膚炎,発ガン性(IARC,2A)
トルエン260 0.07ヒト吸入暴露における神経行動機能及び生殖発生への影響
臭気閾値(0.48ppm),眼・気道に刺激,高濃度長期暴露で頭痛,疲労,脱力感等
キシレン870 0.20妊娠ラット吸入暴露における出生児の中枢神経系発達への影響トルエンと似た症状を呈する
パラジクロロベンゼン240 0.04ビーグル犬経口暴露における肝臓及び腎臓等への影響臭気(15-30ppm),高濃度長期暴露で肝・腎・肺・メトヘモグロビン形成に影響
エチルベンゼン3800 0.88マウス及びラット吸入暴露における肝臓及び腎臓へ影響臭気(10ppm以下),眼・喉への刺激,目眩,意識低下等
スチレン220 0.05ラット吸入暴露における脳や肝臓への影響臭気(60ppm),眼・鼻・喉への刺激,眠気,脱力感等
クロルピリホス1(小児)0.10.07 ppb0.007 ppb母ラット経口暴露における新生児の神経発達への影響及び新生児脳への形態学的影響アセチルコリンエステラーゼ阻害,倦怠感,頭痛,目眩,胸部圧迫感,吐き気,縮瞳等
フタル酸ジブチル220 0.02母ラット経口暴露における新生児の生殖器の構造異常等の影響眼・皮膚・気道に刺激
テトラデカン330 0.04C8-C16混合物のラット経口暴露における肝臓への影響高濃度で麻酔作用,接触性皮膚炎
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル120 0.0076ラット経口暴露における精巣への病理組織学的影響眼・鼻・気道に刺激,接触性皮膚炎
ダイアジノン0.29 0.02 ppbラット吸入暴露における血漿及び赤血球コリンエステラーゼへの影響クロルピリホスと似た症状を呈する
アセトアルデヒド48 0.03ラットの経気道暴露における鼻腔嗅覚上皮への影響眼・鼻・喉に刺激,接触性皮膚炎,高濃度で麻酔作用,意識混濁,気管支炎,肺浮腫等
フェノブカルブ33 0.0038ラットの経口暴露におけるコリンエステラーゼ活性等への影響アセチルコリンエステラーゼ阻害,倦怠感,頭痛,目眩,悪心,吐き気,縮瞳等
総揮発性有機化合物 400注2) 実態調査結果に基づく両単位の換算は25℃の場合による. 注1:厚生労働省「室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き」より
TVOC測定に際し必須VOCがリストアップされており,濃度順の上位10物質の定
量は必須で,本表の1/2以上測定,できれば2/3以上の物質を同定し定量することが望ましいとしている.
しかし,天然の木材に由来するα-ピネンやリモネン等もTVOCに含まれるため人工化学物質の使用を抑えた「自然派住宅」においてもTVOCが高くなるという矛盾がある.