runより:さて、非常に長い論文の始まりです。長すぎる為と表示できない図はカットしてあります。又難しすぎる事も省きました。ご了承ください。
化学物質による室内空気汚染の実態とその健康影響
瀬 戸 博*,斎 藤 育 江*
1.はじめに
現代の生活においては,人工的に合成された多種類の化学物質が様々な場で使用されている.化学物質の使用は人類に大きな利便性をもたらしたが,一方で,制御技術が十分でないため,生活環境がこれら化学物質によって汚染さ
れるようになった.
その結果,短期間のうちに起きたこのような環境変化に敏感に反応する人々,すなわちシック
ウス症候群(欧米ではシックビルディング症候群SickBuilding Syndrome, SBSと呼ぶのが一般的である)や化学物質過敏症と呼ばれる患者の増加が問題になってきた.
わが国では住宅や学校で発症することが多いため,シックビルディングよりもシックハウスやシックスクールという用語の方が頻繁に使用されている.
シックハウス症候群はSBSと異なって定義がないまま便宜的に使用されている
が,住宅でおきたSBSという意味の和製英語である.いずれも厳密な学術的,医学的用語ではない.
シックハウス症状を誘発する主な原因は,建物の気密性が向上し,建材等から放散するホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)等の室内濃度が健康を害するレベルにまで上昇するためである.シックハウス症候群の他,化学物質過敏症,さらにはアレルギー患者の増加についても環境中の化学物質の増加が要因の一つと考えられている1-3).
しかし,これらの疾患が極めて微量の化学物質に起因あるいは関連することや病態把握が困難なために医学的議論が十分になされず,行政の対策や業界対応も遅れているのが実情である.
東京都ではこれまで「健康・快適居住環境の確保対策事業」(1995-1998),「住宅やビルにおける室内化学物質調査」(1995-2001)に取り組んできた.
また,2002年度は「子どもガイドライン」策定のための「学校や幼稚園施設等の室内化学物質調査」を実施している.
本稿では,著者らの調査結果を含めて,化学物質による室内空気汚染の実態と微量化学物質による健康影響について最近の知見をまとめた.