環境問題とシックハウス問題
それでは、シックハウスの原因物質について見てみよう。
拡大するシックハウスの問題に対応するため、厚生労働省は2002年に室内の原因物質の濃度に関するガイドラインを発表した。(表1)
表1 個別の揮発性有機化合物(VOC)の指針値
揮発性有機化合物室内濃度指針
ホルムアルデヒド100μg/㎡(0.08 ppm)
トルエン260μg/㎡(0.07 ppm)
キシレン870μg/㎡(0.20 ppm)
パラジクロロベンゼン240μg/㎡(0.04 ppm)
前記「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」の中間報告書からおもなものを抜粋したこれは、現在我々が持っている科学的知見から、生涯吸い続けても健康上問題ないと専門家が判断した汚染物質の濃度に対するガイドラインである。
手記を書いた少年の家では、環境科学研究所が測定したホルムアルデヒドの濃度は1ppmから1.17ppmとこの指針値の十数倍だった。
ホルムアルデヒドは、合板、パーティクルボード、壁紙用接着剤等に用いられる尿素系、メラミン系、フェノール系の合成樹脂や接着剤から発生する。
トルエン、キシレンは接着剤や塗料の溶剤及び希釈剤から発生する。また、パラジクロロベンゼンは衣類の防虫剤、トイレの芳香・消臭剤などから発生する。
建材としての合板や壁紙、あるいは防虫剤や芳香・消臭剤などはかなり以前から住宅内に存在しており、これらから発生する化学物質が室内空気を汚染していたのであるが、換気装置や建物の隙間からの自然換気によって希釈され、その濃度は現在問題になっているほどには高くならなかった。
それが快適な室内環境を作るために、また、住宅の省エネという地球環境対策のために高気密化され、換気量も少なくした。その結果、室内空気の汚染物質濃度を高めることになってしまったのである。
快適な暮らしの追求、地球環境対策が逆に室内空気汚染をもたらしたわけである。
シックハウスにしないために
シックハウス症候群や化学物質過敏症にならないためには、室内空気を汚染しないようにする必要がある。
そのためにはホルムアルデヒドやトルエンなどの汚染物質を放散する建築材料や内装材料を吟味しなければならない。
これらの材料は、化学物質の放散量について基準が定められており、例えば合板の日本工業規格(JIS)では、表2のようになっている。
表2 日本工業規格(JIS)
表示区分ホルムアルデヒド放散量
E0 0.5mg/L以下
E1 1.5mg/L以下
E2 5.0mg/L以下
ある化学物質過敏症患者は新築の住宅に入居して発症したが、この住宅ではフローリングにE2(ホルムアルデヒド放散量5.0mg/L以下)の合板が使用されていた。
このように規格は、壁紙や接着剤、あるいは塗料についても設けられているから、住宅の新築や改築の際には汚染物質の放散量が一番少ないものを選ぶようにして、換気にも十分配慮すれば、空気汚染を前述の指針値以下に抑えることができるであろう。
さらに入居前には室内空気の汚染度を測定して指針値以下であることを確認するようにすれば、安心して新・改築の家に住むことができよう。