化学物質過敏症 柳沢 幸雄7 | 化学物質過敏症 runのブログ

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さらに、快適な暮らしのためにあるフローリングのワックスやトイレの芳香・消臭剤など、汚染物質を放散する製品は、快適さを取るか健康を取るか考えて、できることなら使用しないようにすることが望ましい。
反応する化学物質から遠ざかること不幸にして化学物質過敏症になってしまったらどうすればいいのだろう。
一言で言えば、過敏に反応する化学物質から遠ざかることである。ある化学物質過敏症患者(主婦)は新築の住宅で発症して、3年後に専門医の
診断を受けて化学物質過敏症と診断された。

新築の家には住めなくなり、築15年の古い貸家に転居した。

そして、食品添加物を含まない食事を摂り、汗をかいて体内に蓄積された化学物質を体外に排出する努力をして快方に向かいつつある。
現在、国内で化学物質過敏症の医療に取り組んでいる病院は数えるほどしかない。

したがって、診察を受けるにも遠くまで行かなければならないケースが多い。

この主婦も遠隔地の大学病院まで行って、診察を受けたのである。
また、この主婦のご主人は問題の新築住宅の隣に自分の手で住宅を建て、一家は現在そこに住んでいる。

もちろん、建築材料は柱一本からすべて自分の目で確かめている。私たちが調査した限りでは、取材にも応じないで、被害者意識に凝り固まったように見える患者も多いが、被害者意識が強すぎると、この事例のような自助努力をしないので、問題を解決するどころか症状は悪化する方向に向かってしまう。時間はかかるが、努力すれば健康回復への道は開けるのである。
二律背反問題にどのように対応するか
シックハウス症候群を引き起こした悪者は、いったい誰なのだろうか。誰かの悪意によって家や学校の空気が汚染されたのであろうか。

答えは、否である。シックハウスの問題は、誰かの悪意によって引き起こされたのではない。

悪意どころか、ある意味では善意の集積が、シックハウス問題を引き起こしたのである。

ここで言う善意とは、環境問題に真剣に対応しようという善意である。
1992年、ブラジルのリオデジャネイロで地球サミットが開かれた。地球規模の環境問題、特に気候変動問題に対して、人類はどのように対応すべきかが議論された。つまり化石燃料の大量消費によって排出された二酸化炭素などの温室効果ガスが空気中に蓄積し、地球が温暖化して気候が変動してしまう危険性を懸念して、開かれた国際会議である。
気候変動は人類全体にとって等閑視できない重要な環境問題である。気候が急激に変化することを防ぐために、空気中への温室効果ガスの排出量を減らすいろいろな対策を講じることが、現在を生きる我々の未来世代に対する責任である。

世界各国でいろいろな対策が講じられつつあるが、日本はもっとも真剣に対策に取り組んでいる国の一つである。
日本では近年民生用エネルギー消費量、例えば自動車燃料や冷暖房用のエネルギー消費の増加が著しい。

そのため、冷暖房エネルギーの消費量削減を目指して建物の高気密化が精力的に進められた。建物の高気密化によって建物内外の空気の交換量が減り、冷やされたあるいは暖められた空気が建物の外に出て行くことが少なくなるので、冷暖房のエネルギー消費量が削減できる。
一方、このような高気密住宅では、建物の中で発生した有害物質が、換気量の低下に伴って建物の中に滞留してしまうので、換気回数に反比例して汚染物質濃度が上昇する。換気回数とは1時間に建物容積の何倍の外気が流入したかを表す指標であるが、隙間風でカーテンが揺れるような昔の住宅だと換気回数は2回以上である。

省エネ対策のための技術革新によって、0.1回や0.2回程度の高気密住宅が普及してきた。室内の汚染物質濃度は換気回数に反比例して上昇するので、換気回数2回と0.2回を比べると、汚染物質濃度は10倍になってしまう。10倍の濃度の汚染物質を住宅の中で吸い続ければ、体調不良を起こす危険性が高くなるのは当然である

このように地球環境問題への真剣な取り組みが、シックハウス症候群、化学物質過敏症などの室内環境問題を引き起こした大きな原因であると言うことができる。安全で健康的な社会を維持するために、善意に基づいて真剣に進められている対策が、ある場合には危険で非健康的な他の問題を引き起こしてしまう可能性があることを、十分認識する必要がある。

このような二律背反あるいは多律排反事象は多数ある。マラリア対策として使われているDDT(農薬の一種)などはその典型的な例であろう。
また火災による被害を減少させるためにプラスチックなどに添加されている難燃剤が、臭素系ダイオキシンの発生を助長したり、室内空気環境の汚染減として懸念されたり、身近にも数多くの例を挙げることができる。
我々は善意に基づいてある対策を立案する時、その波及効果あるいは副作用も十分に検討して行かなければならない。


柳沢 幸雄 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授