ジオNIKKEIより
DIHSは薬疹にHHV-6の再活性化が加わった疾患であることがわかった
次に、DIHSとHHV-6の関連について説明いたします。
HHV-6は、βヘルペスウイルス亜科に属し、突発性発疹、いわゆる知恵熱ですが、その原因ウイルスで、本邦ではほぼ全員が2歳までに感染し、感染したウイルスは、単球、マクロファージ、唾液腺などに潜伏感染するわけです。
そこで、DIHSにみられたHHV-6の再活性化が単なる偶然か否か、ということを確認するために、3週間以上、症状が持続した重症型の症例60例について、抗HHV-6 IgG抗体価の変動を検討したところ、全例において、発症後2週間以内は抗HHV-6 IgG抗体価の上昇はみられないが、5週間目以降は抗HHV-6 IgG抗体価の著明な上昇(4段階以上)が認められ、さらに、約80%は4週間目以降には抗HHV-6 IgG抗体価が上昇していることが明らかになりました。
これはDIHSにおいては、発症後2~3週間目という極めて限定された時期に、HHV-6の再活性化が起きることを示しております。
さらに、DIHSの原因薬剤で発症し臨床的に軽症型の薬疹でDIHSとは明らかに異なる症例について抗HHV-6 IgG抗体価の変動を検討したところ、有意の変動は認められませんでした。また、このHHV-6の再活性化がStevens-Johnson症候群およびToxic epidermal necrolysisの重症薬疹でも見られるどうか検討したところ、抗HHV-6 IgG抗体価の特異な変動は見られませんでした。
さらに、DIHSの臨床症状を詳細に検討してみますと、3週間以上症状が長く続く場合は2峰性、すなわち、二つのピークがあることわかりました。
そこで、この二つ目のピークの出現がHHV-6の再活性化と関連するのではないかと考え、抗HHV-6 IgG抗体価の上昇した62例と上昇しなかった38例とを比較したところ、抗HHV-6 IgG抗体価の上昇したグループで、臨床症状の再燃、遷延化、重症化がみられました。
つまり、DIHSは最初薬疹として症状が出現し、これにHHV-6の再活性化による症状が加わった疾患であったわけです。
このことに気付かないと、原因薬剤を中止しても、再発を繰り返す、変わった薬疹と考えてしまうわけです。現在、考えられている発症メカニズムの仮説としては、原因薬剤の中間代謝産物が薬剤アレルギーを誘発し、特殊なT細胞が活性化され、これがHHV-6の再活性化を起こすのではないかと考えられています。
では、二つ目のピークの臨床症状はHHV-6による直接的な影響なのでしょうか。
これは、現時点では確定的なことは言えませんが、再活性化したHHV-6に対する免疫アレルギー反応ではないかと考えています。
次に、活性化するのはHHV-6だけなのでしょうか。
我々が45例のDIHSの症例を検討したところ、約30%の症例でサイトメガロウイルスの再活性化が認められました。
サイトメガロウイルスの再活性化は、HHV-6の再活性化に先行して起きることはなく、HHV-6の再活性化とほぼ同時、あるいは遅れてみられるのが特徴的で、サイトメガロウイルスの再活性化に伴って、軽度の発熱から皮膚潰瘍、心筋炎などの重篤な症状まで色々な症状がみられ、DIHSの重症化にサイトメガロウイルスの再活性化が関与することが示唆されています。なお、HHV-7およびEBウイルスの再活性化も一部の症例で見られますが、臨床症状の発現に関与しないと考えられています。
さらに、DIHSで注目すべきものとして、合併症があります。代表的なものは、脳炎で、DIHSに引き続いて、脳炎症状が出現し、髄液からHHV-6がPCRで同定されています。また、劇症1型糖尿病、あるいは心筋炎の合併も報告されており、これらの疾患を見た時には、薬剤の服用歴に十分注意する必要があります。
また、最近、薬剤のみでなく、化学薬品であるトリクロロエチレンで、DIHSと同様の症状が出現し、HHV-6の再活性化を伴うことが報告され、DIHSの発症機序を明らかにする有力な手がかりになるのではないかと期待されています。
以上のごとく、DIHS研究は薬剤アレルギーとウイルス感染症の複合した病態という新たな疾患概念を提唱するとともに、Stevens-Johnson症候群、toxic epidermal necrolysisでは埋めることのできなかった重症薬疹の領域を明らかにし、重症薬疹の概念の確立に貢献したと言えるでしょう。
runより:薬疹は化学物質過敏症患者の症状の1つで薬物アレルギー、
薬物過敏症へと悪化します。恐ろしい作用です。