シックハウス症候群診療マニュアル25 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

Ⅲ診断書の対応
1)はじめに
本研究班におけるシックハウス症候群(sick house syndrome:SHS)は従来の巾広い定義に比してかなり絞り込んだ定義となっており、診断基準(1)の③参照)に合致しない場合は除くことになっている。
したがって、この診断基準を厳格に守れば診断書を書くのは容易である。得られた事実をそのままに書くことにより、「シックハウス症候群」、「シックハウス症候群(疑い)」、「その他(心身症、うつ病、自律神経失調症、パニック症候群など)」と診断名が自動的に出てくる。しかしながら現実はそれで済むほど簡単ではない。もし簡単であれば医師の誰もが診断書を普通に書いているはずであり、専門病院に送ることはないはずである。
以下に、筆者が経験したケースを参考として列挙する。
2)診断書の対応のケース
1.幼稚園や学校に通っている小児の場合
診断書を求めてくるのは幼稚園や学校へ、種々の生活の個別の対応を求めるときや、集団から児が排他され(そうになっ)た時である。狭義のSHSであれば、建物が新しくなった、改築した、ワックスを塗った、新しい室内遊具や家具を持ち込んだ、などが症状発現時にあることがほとんどであるから、それに対する善処を含めて書けばよい。しかし、後に述べる2~5のケースと同様、必ずしも保育園、幼稚園、学校では無症状の他の児のことも考えると容易には対応できないことも多々ある。

2.会社や事業所に勤めている成人の場合
症状が強いため業務軽減、病休、休職、職場変更などの際に診断書を要求される。典型的SHSでは労災認定も可能となる。しかし、典型的でない場合には「疑い」だけではなかなか会社は対応してはくれない。診断書を書く方も「業務軽減が望ましい」とか「職場を変更することも考慮されたい」という婉曲的な書き方となる。

3.症状の原因が新築家屋やリフォームにあり、損害賠償や転居などを要求するための診断書を求められた場合
これも典型的なSHSであれば診断書に明確に書けばあとは示談や裁判で決着してもらうことになる。しかし典型的でない場合は、診断書だけでは有症状者
が複数でないと相手方はなかなか対応しないことが多い。
4.近隣の住宅や工場、作業所からの化学物質等の飛散でSHS様の症状が出ていると考えて来院し診断書を求められた場合
これには最終的に発生源での物質測定が必要となるために、診断書上は「疑い」としか書けないことが多い。勿論、集団で患者が発生した場合には別で、監督官庁に届けることになる。

5.その他のケース
室内に新しい家具、敷物等を持ち込んでSHSの症状が出た場合は、それを特定できれば診断書は書ける。

3)まとめ
典型的なSHSや高濃度のVOCsが検出された場合を除くと診断書の記載は難しいことが多い。それは、この疾患が基本的に、誰もが認める診断確定の客観的指標を現在の医学では有していないという弱点があるからである。診断書作成においては、診断基準に則った診断と適切な鑑別診断を行うことが必要である。


② 行政的対応
国民が、睡眠、食事、団欒などで疲労を回復し、健康保持を行う場である住宅で、室内環境要因による健康障害が発生することは、予防すべきことであり、シックハウス症候群の発生は社会の重要な問題として取り上げられた。国土交通省と厚生労働省が中心となり、対策が平成9年頃から策定されており、改善の兆しが見られることは幸いである

厚生労働省が室内空気中に存在する13種類の化学物質濃度指針値を平成9年から14年に策定し、ホルムアルデヒドを使用する職域における指針値を提示した。また厚生科学研究費補助金によるシックハウス症候群に関する研究も現在に至るまで行われている。

さらに平成20年にシックハウス症候群のため室内環境改善をする間に公営住宅利用を可能にするガイドラインを発した。国土交通省は、建材から発生するフェノブカルブとホルムアルデヒドの規制、室内換気装置の設置を行うため、建築基準法等を改正した。下記にその概要を述べる。
Ⅰ.室内環境対策

(1) 室内空気中化学物質濃度の指針値等について
平成9年から室内空気中化学物質濃度の指針値が公表されてきたが、室内空気汚染に係るガイドラインとして、平成14年に新たにアセトアルデヒド及びフェノブカルブの室内濃度指針値に係る検討結果がとりまとめられ、合計13物質の指針値と総揮発性有機化合物量(TVOC)に対する暫定値が提示された(1)。

室内空気中に存在する化学物質は全て多かれ少なかれヒトに何らかの影響を及ぼす可能性があるため、公衆衛生の観点から化学物質の不必要な暴露を低減させるため、個別物質について対策の基準となる客観的な評価を行った。

ここで示された指針値は、現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したものであり、その設定の趣旨はこの値までは良いとするのではなく、指針値以下がより望ましいということである。なお指針値は、今後集積される新たな知見や、それらに基づく国際的な評価作業の進捗に伴い、将来必要があれば変更され得るものである。

指針値の適用範囲については、特殊な発生源がない限り全ての室内空間が対象となる。

指針値設定はその物質が「いかなる条件においてもヒトに有害な影響を与える」ことを意味するのではない。客観的な評価に基づく室内濃度指針値を定めることは、化学物質が健康影響の危惧を起こすことがないように安全かつ適正に使用され、化学物質が本来もっている有益性が最大限生かされることに大きく貢献すると思われる。

(2)ビル衛生管理法の改正
厚生労働省により「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(通称:ビル衛生管理法)関連省政令の改正が、平成15年4月1日に施行され、室内空気中濃度を測定し、規制への適合を図らなければならないものとして、ホルムアルデヒドの濃度基準が追加された。

これにより、ホルムアルデヒドの濃度は1m3につき0.1㎎(0.08ppm)以下であることが求められる。その測定時期は新築、大規模の修繕、大規模の模様替えを行った後、最初に訪れる6月初めから9月末まで(気温が高くホルムアルデヒドが放散しやすい)の期間とし、その測定方法についても規定された。

ビル衛生管理法は、興行場、百貨店、店舗、事務所、学校等の用に供される建築物で、相当程度の規模(特定用途に供される部分の延べ面積が3000㎡以上)を有するものを「特定建築物」と定義し、規制の対象としている。空気環境の調整に関する基準には、浮遊粉じんの量、一酸化炭素および二酸化炭素の含有率、温度、相対湿度、気流が掲げられていた。

(3)建築基準法の改正
国土交通省は、建築基準法第28条の2(居室内における化学物質の発散に対する衛生上の措置)、建築基準法施行令(令)第20条の5号 - 9号を改正し、平成15年(2003年)7月1日に施行した。

すなわちシックハウス対策の規制を受ける化学物質としてクロルピリホス及びホルムアルデヒドが該当し、居室を有する建築物にはクロルピリホスを添加した建築材料の使用が禁止された(令第20条の6)。

ホルムアルデヒドに関する規制としては、内装の仕上げの制限があり、居室の種類及び換気回数に応じて、内装の仕上げに使用するホルムアルデヒド発散建築材料は面積制限を受ける(令第20条の7)。

内装の仕上げ等にホルムアルデヒド発散建築材料を使用しない場合であっても、家具等からもホルムアルデヒドが発散されるため、居室を有する全ての建築物に機械換気設備の設置が原則義務付けられた(令第20条の8)。

天井裏等は、下地材をホルムアルデヒドの発散の少ない建築材料とするか、機械換気設備を天井裏等も換気できる構造とする必要がある(平成15年国土交通省告示第274号第1第三号)。

建築基準法に基づくシックハウス対策に係る規制は、平成15年7月1日以降に着工された建築物に適用され、同年6月以前に着工されたものには適用されない。本規制の対象となる建築材料は、平成14年国土交通省告示第1113号、第1114号及び第1115号で限定列挙した建築材料(告示対象建築材料)のみで、これらを内装の仕上げ等に用いる場合は、日本工業規格(JIS)の認証、日本農林規格(JAS)の認定又は建築基準法第68条の26の規定に基づく構造方法等の認定を受けることにより、その種別(等級)を明らかにする必要がある。

告示対象建築材料を使用した造り付けの家具、キッチン・キャビネット等の製品も本規制の対象となる。

告示対象建築材料で、F☆☆☆☆等級のものは「規制対象外建築材料」なので、居室の内装の仕上げや天井裏等に、本規制を受けることなく用いることができる。