シックハウス症候群診療マニュアル26 | 化学物質過敏症 runのブログ

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一時的転居対策
シックハウス症候群については以上に述べたように、政府の様々な対策が講じられてきているが、依然として居室に由来する様々な健康障害を患っている人がみられる。

住居における化学物質を原因とするシックハウス症候群患者の中には、自宅に住むことが困難となっている者が存在することなどが指摘され、そうした患者にとって安心して住むことのできる住宅の確保が喫緊の課題となっている。

そこで平成20年3月厚生労働省と国土交通省が共同して、「シックハウス症候群患者の公営住宅確保に係る医学的な知見に関するガイドライン」を出して対応を全国の地方自治体(以下、事業主体という。)に呼び掛けることになった(17) 。
公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対し、安定した居住の場を提供することを目的としたものであり、本来は健康状態の悪化等を理由とする一時的・緊急的な避難、療養のための施設ではない。

また、公営住宅への入居に際しての優先の判断は公営住宅を管理する地方公共団体に委ねられているが、現状の公営住宅は募集倍率が高く空きが少ないことに加え、高齢者や障害者といった優先して入居させるべき者もいる。

しかしながら、住居における化学物質を原因とするシックハウス症候群患者が現在の居住地から転居することにより、健康上有効な場合があることを考慮し、また公営住宅の適正かつ合理的な管理に支障のない範囲内で、自宅の改築等の一定期間における一時的な居住の場を確保すべきではないかとの意見・要望もあるので、その一方策として、公営住宅の目的外使用等の活用を図ることが考えられる。

その際、具体的な方法を検討するにあたっては、単に住宅の管理上の課題を整理するのみでなく、真に住宅の確保を必要としている患者を確認するため、医学的見地からも知見を整理する必要がある。

本ガイドラインはこうした認識の下、住居における化学物質を原因とするシックハウス症候群患者が健康障害の原因となっている住居に対する対策を行ったり、別の住居を探したりする期間の一時的な住居等として公営住宅を目的外使用させる場合等における医学的見地からの判断材料や留意点を整理し、公営住宅を活用する際の指針として参考となるべき事項について厚生労働省、国土交通省及び一部の事業主体からの意見を踏まえ取りまとめたものである。

本ガイドラインの対象患者は、住居における化学物質を原因として健康障害が発症した者であり、クリーンルーム(環境中に微量に存在する物質を除去した超清潔空間の中で、これらの物質を定量的に患者に負荷することにより様々な検査を行うための施設)又は専門外来を設置している医療機関のシックハウス症候群について知見を有する医師により作成された診断書の記載内容が、以下の要件を満たす者とする。

(1)「病名」には、シックハウス症候群であることが記載されていること。
※化学物質暴露による急性中毒(有機リン中毒など)やアナフィラキシー・ショック、接触性皮膚炎などのアレルギー疾患など、既存の疾病概念で把握できるものについては、対象外とする。
※いわゆる化学物質過敏症については、医学界で概念が整理されていないこと、原因が住居に限定されないことなどから、今回の目的である公営住宅への転居による効果が期待できないことから、対象外とする。
※直ちに専門的な治療が必要であるような重症患者であれば、医療施設で対応されるべきものであり、転居による環境の改善のみでは症状が改善される見込みがないと推察される者については、対象外とする。
※シックハウス症候群の診断にあたっては、厚生労働科学研究費補助金地域健康危機管理研究事業「シックハウス症候群の診断・治療及び具体的対応方策に関する研究(主任研究者相澤好治北里大学医学部教授)」及び「シックハウス症候群の診断・治療及び具体的方策に関する研究(主任研究者秋山一男国立病院機構相模原病院副院長)」により、提案されている診断基準案を参考にする。
(化学物質によるシックハウス症候群の診断基準案(2007.12 相澤・秋山班))
1. 発症のきっかけが、転居、建物※の新築・増改築・改修、新しい日用品の使
用等である。
2. 特定の部屋、建物内で症状が出現する。
3. 問題になった場所から離れると、症状が全くなくなるか軽くなる。
4. 室内空気汚染が認められれば、強い根拠となる。
(※ 建物とは、個人の住居の他に職場や学校等を含む)
(2)「発症にいたる状況」には、発症の原因が明確に記載されていること
例)「新築建物に入居した後、化学物質暴露により健康障害が発生。但し、住宅を離れると症状が治まる。」等。
※症状誘発の関連因子を特定するためには、慎重かつ適切な臨床診断に基づく総合的な検討が必要である。
※対象患者である「住居における化学物質を原因とする健康障害を発症した者」
とは、建材、壁紙等から発散される化学物質を原因とする健康障害を指すものであり、家具、床仕上げ材の上に敷かれた絨毯等から発散される化学物質を原因とするものについては、発生源(家具、絨毯等)を容易に取り除くことができるため、対象外とする。
※その住居における化学物質が健康障害の原因であることが必須条件であり、近隣の農薬散布や近隣の建設工事により健康障害が発生した場合は対象外とする。
(3)「本人に関する検査」「住居に関する検査」の記載について
※「本人に関する調査」には、実施した検査項目のうち、診断の裏づけとなるものについて記載する。
※「住居に関する調査」の検査項目として、対象患者の居室内について、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びスチレンを測定することを必須とし、その測定値を記載する。その他の物質については、必要がある場合に測定し、その測定値を記載する。測定値の評価については、「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」で公表された室内濃度指針値を参考とする。
(4)「転居の必要性」には、以下の事項が記載されていること。
①現在の住宅に継続して居住することが健康上不適切であることが記載されていること。例)現在の住居のホルムアルデヒド濃度が高く、それが原因と考えられる健康障害が発生していること。
※シックハウス症候群と指摘されている患者の中には、住居にある換気装置を不適切に運転操作しているケースなど、住まい方に問題がある事案が多いと指摘されている。そのため、まず医師は必要に応じて地域の衛生主管部局や保健所等(以下「地域衛生主管部局等」という。)と連携し、患者の住まい方を確認し、改善方法等を患者に提案すること。
※短期的かつ効果的な住まい方の改善方法が無く、継続して居住することが健康上不適切である場合にあって、初めて「転居の必要性」について記述できることに留意すること。
②現在の居住地から転居することが健康上有効であることが記載されていること。例)「現在居住している住宅を離れると、健康障害が改善すること。」等
(5)「特記事項」の記載について(要件なし)。
※必要があれば、転居にあたっての留意点(転居先の要件など)について、記載する