3)新築・改築における注意点
13種のVOCに関しては、厚労省の指針値が出されているが、指針値以下で症状を発現する場合もあり、また、13物質以外の化学物質に反応する可能性も考えなければならない。
建築業者とよく相談し、限りなく化学物質を減少させる努力をする。基礎工事や建材の防腐・防虫・防カビ処理および建材の接着剤や塗料が問題となる。
特に、シロアリ駆除剤の使用は禁忌である。コンクリートを用いて床下の防湿工事を行う。畳は防虫加工をしないか、フローリングとして接着剤の使用を極力避ける。
最近は、住居のリフォーム後、発症する患者が多い。壁紙を張り替えて、数年前に使用した接着剤が再度揮発したことが原因と考えられる症例、隣の住宅のリフォームにより発症した症例など、責任の所在について対応が微妙なケースもある。
また、リフォーム業者には小規模業者が多い点も問題解決を難しくしている。
4) 職場への対応
職場の新築や改築を契機に発症している場合は、労災が適応されるべきであ
るが、認められるケースは希である。
職場環境の改善や配置替えについて職場の上司や幹部に掛け合うことになるが、疾患への理解が乏しく、困難を感ずることも少なくない。
転職や退職をせざるを得ない場合もある。
5)その他、配慮すべき点
診療における対応の基本は、患者の訴えをよく聞き、共感と理解を示すことであり、全ての臨床医の持つべき基本的な資質といえる。
しかし、原因化学物質や症状が発現する条件が必ずしも特定されないための不安から、過呼吸を呈したり、パニック障害に陷る患者もある。
このような症状が前面に出るため、全てが心因性のものと誤解されやすいが、患者の発症からの経過を冷静に振り返れば、SHSであることを疑う余地はない。
このような場合は、症状との因果関係が、理論的に明かな原因に注目して、対策を考える。このような努力をすることによって、少しずつ病状が好転して行く場合が多い。
患者へのアンケート調査によれば、社会や家族の無理解が一番の問題であり、特に家族の無理解が最も切実な問題となっている。以上のような状況をよく理解し、適切なアドバイスをするように心がけたい。