■聞き手を理解する
必要な時には科学が不完全であると認めなが
ら、公衆がどのような情報を求めているかを識
別することや、そのような要求に真正面から向
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き合うことが重要である。科学的に確実性があ
るような問題に限ってコミュニケーションを行
うことは、公衆、ときには政策者に対して、情
報に対する彼らの要求が満たされないという感
情をもたらす。また利害関係者の動機を理解す
ることにより、メッセージをうまく調和させる
ことができる。たとえば、近隣に送電線が建設
される可能性に直面した居住者は、予期しない
資産価値の下落や、景観への影響や環境被害に
ついて懸念するかもしれない。一方、送電線の
近傍の住居購買予定者は、主として健康につい
て心配するかもしれない。
技術的な情報を普及させるための
幾つかの経験則
■伝達したい主要なメッセージを決定し、
それらを類別すること。つまり自分の情
報伝達の目標を定義すること。
■聞き手の情報ニーズを良く理解するこ
と。
■概念は簡単な言葉を用いて説明し、必要
に応じて、専門家がプレス・リリース中
で用いた技術用語を解説すること。例:
科学的な根拠に基づいて潜在的発がん物
質を異なったカテゴリーへ移動するIARC
(国際がん研究機関)分類 (「発がん性が
ある」、「おそらく、発がん性がある」及
び 「発がん性があるかもしれない」)。
■過剰に単純化することは避けること。そ
うすると、十分に情報を持ってはいない
のではないか、或いは真実を隠している
のではないか、と見られるかも知れない。
■話を単純化している事を認め、文書で補
足資料を提供すること。
効果的なリスク・コミュニケーション
戦略を確立するためのポイント
■以下の質問に答えるための調査を行うこ
と。
□情報源はなにか?
□重要な学術誌、雑誌はなにか?
□関連するウェブサイトはなにか?
□そこから学ぶことができると思われる
別の同じような問題はあるか?
□一般人に対して誰が科学的研究を説明
することができるか?
□公式、非公式の両方の討論においてコ
ミュニケーションを上達させるために、あ
なた自身を役立てられるものにすること。
もし、全利害関係者の間で情報入手のバラ
ンスがとれていない場合、私的な会合に
よって信用を破壊することになるかもしれ
ない。
□不確実性を認め、なぜそれが存在する
のかを述べ、また既にわかっている状況の
中にそれを置いてみること。
□リスク・コミュニケーション能力が、政
策決定組織において、始めからプロジェク
ト管理にわたるすべてのレベルにおいて重
要であると認識すること。
□不要な衝突を避けること。しかし、個人
的決定、または政策決定、たとえば「個人
が送電線の近くに家を買うか買わないかを
決める」といったような決定は本来2 分法
であるということを理解すること。
□十分に話し合っても、同意に至らない
ことがあるかもしれないということを認識
すること。
□ほとんどの社会において、たとえ長い
時間かかったとしても、政府でも企業でも
なくコミュニティが、受け入れることがで
きるリスクが何であるかを最終的に決める
ということを忘れないこと。
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専門家の評価
(リスク評価)
■リスクを定量化するための科学的アプロー
チ
■確率的概念の使用(平均、分布、…を用い
る)
■より明らかなチャネル(科学的研究)を通じ
て伝達された技術情報を信頼する
■科学チームの成果
■客観的な科学的事実に与えられる重要性
■技術の費用対効果に注目する
■情報を有効なものにするよう努める
一般人の評価
(リスク認知)
■リスクを定量化するための直観的アプロー
チ
■地域的な、状況に特異的な情報や逸話証言
の使用
■多様なチャネル(メディア、一般的考察や
印象)からの情報を信頼する
■個々のプロセス
■感情や主観的な認知の重要性
■安全に注目する
■個人の環境や好みを取り扱おうとする
■科学的情報の歪み
科学は有力なツールであり、予言的であるこ
とによってその信頼性を獲得してきた。しかし
ながらその有益性は、科学者の質や信頼性に関
連するデータの質に左右される。いわゆる「専
門家」の知識や誠実さを確認することは重要と
いえる。なぜなら、こうしたいわゆる専門家は、
外見も口調も確信に満ちあふれていながら、
まったく一般的でない見解を抱いている場合が
あり、マスコミはそうした見解を、「バランス
をとるために」といった理由で大きく取り上げ
がちだからである。そうした一般的でない意見
を大きく取り上げることは、まさに世論に偏っ
た影響を及ぼすことになる。公衆にとって最適
な情報源は、現状における知識の要約を定期的
に提供するような独立した専門家のパネル(公
開討議)である。
EMFリスクの正しい評価
現在の科学的証拠では、EMF からの健康リス
クが高いということは示されていないが、公衆
は、EMF を発生する設備について依然として懸
念を持っている。この見解の相違は主として、
専門家と一般公衆におけるリスク問題へのアプ
ローチが異なることに基づいている。専門家は
客観的で明確に定義された基準を用いて、リス
クの科学的証拠を評価(リスク評価)しなければ
ならず、その知見は、社会政策における意思決
定や措置の立案作業に用いられる。一方、一般
公衆は、個人レベルでEMF 技術により被るリス
クを評価する(リスク認知)。アプローチにおけ
る相違は、下記のボックスに詳細を述べる。リ
スクの定量化は、技術的背景を持たないと思わ
れる一般公衆とのコミュニケーションに限って
有用なものである。
利害関係者の間のリスク評価における違い
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定量的な情報を用いる場合、簡単に理解でき
るものと比較するのが最も有用であろう。これ
は、商用の飛行機旅行に関連するリスクを車の
運転のようなよく知られた行動と比較すること
によって説明したり、日常のX 線診断での放射
線曝露のリスクを自然界のバックグラウンド放
射線曝露と比較することによって説明すること
で効果的に使用されてきた。とはいえリスクを
比較する場合、注意が必要である(P.21 のボッ
クス参照)。特に、健康に対するリスクの比較
は、比較可能な枠組みの中で行うことが重要で
あり、それが政策課題や研究の優先順位設定に
関する場合であればなおさらである。
政策の説明
政府が採用する方策の種類は、規制当局が
EMFの健康問題に関連するリスクに対してどの
ようなスタンスをとっているかに関する強い
比較: コミュニケーションのための手段
リスク比較は、意識を向上させるために利用されるべきであり、中立的で教育的であるべき
である。これは、注意深い計画と実行が要求される高度な手段である。比較は、事実をわか
りやすい文脈に置き換えるものであるが、受け入れや信頼を得るために利用しないよう注意
しなければならない。不適切なリスク比較の使用は、コミュニケーションの効果を低減し、
短期間で信用を損なうであろう。
注意: 自発的な曝露(たとえば、喫煙や自動車の運転)と非自発的な曝露を比較してはならな
い。携帯電話基地局のそばに住まなければならない、3 人の子どもを持つ母親にとって、彼
女が受けるリスクは非自発的である。もし彼女のEMF への曝露を、高速道路での時速140km
のドライブの選択と比較すれば、彼女の感情を害するであろう。
■聴衆の社会的、文化的特性を考慮し、彼らが知っているものと関連づけた比較をすること
■信頼が低い状況では、比較を使用しないこと
■比較が、人々の不安や疑問を疎かにするものではないか、確かめること