そえだ信「君に、最大公約数のテンプレを」最終話「歩き始めてみた」俺たちの旅はこれから 感動の余韻 | クラシック音楽と読書の日記 クリスタルウインド

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そえだ信「君に、最大公約数のテンプレを」、4月8日「143 歩き始めてみた」が公開されています。

 

公爵夫人と面会した三人。サスキアが伯母である公爵夫人にこの日会ったことを一通り説明した後、

「そういう事態で、今は王城で大騒ぎのはずですが。伯父上は間もなくお戻りになると思います。詳しくは伯父上とまずお話ししたいのです」

「そう……」

 

『そんなやりとりをしているうち、使用人が入ってきた。

「失礼いたします。旦那様がお戻りです」

「すぐ、こちらに来ていただいて」

「畏まりました」』

『慌ただしく入ってきた公爵は、王城での正装のままだ。

 部屋に入って王女の姿を認め、床に膝をつく。』

『「王女殿下、ようこそいらっしゃいました」

 挨拶を述べて、公爵は胸に手を当て頭を下げている。』

「わたしは教育を受けていないので、こうしたときの儀礼を知らない。話をしたいので、そのようにして」

 

向かい合って座った侯爵と三人。サスキアがまたこれまでのことを公爵に説明します。

 

「はあ。わたしたちの方を報告しますと、あの後もこちらの魔法使い殿の協力で、衛兵たちの武器を奪い、武器庫の中のものも回収しています。またあの王城がしばらく消えた間に、国王執務室の備品や資金を回収しました。それらのものすべて、この屋敷の裏庭に並べてあります」

「何だと?」

「それらをどう扱うかは、伯父上にお任せします」

「武器、備品、資金――だと?」

「この一年間、伯父上を始め貴族の方々がどうしていたかは存じ上げませんが。もし国軍の強制で大人しくさせられていたのだとしても、現在はその武器の大半が城になく、衛兵のかなりの数が負傷しているということになります」

「何と……」

「現国王にそれらすべてを返却して今の体制を継続するか、伯父上が成り代わって王位を得るか、お決めください」

 

いや、王になるのは私ではない、と公爵。

『公爵の視線が。当然、正面の王女に向けられる。

 その本人は、さっきからまったく表情を動かしていないはずだ。

「王女殿下、伏してお願いいたします。どうか我々の上に立って、王位を継いでくださいますよう――」』

 

その言葉に当の王女は無表情に素っ気なく答えます。

「第四王女は、武器庫の爆発で死んだ」

「は――?」

「継承順第一位は、いない」

 

王族の責任、と口にした公爵に一瞬だけ表情を変えたニール。

「わたしはこの世に生を受けてから一度も、公爵殿からも他の誰からも、王族扱いされたことも、生き延びるための助けをされたことも、覚えはない。怪我をして死にかけたときも、放っておかれただけだ」

「あれは、当時私は承知してなく――申し訳――」

「わたしが生き延びるために身を張ってくれたのは、この二人だけだ」

「…………」

「わたしと無関係なこの国は、任せる」

「…………」

「話は、以上だ」

 

『ニールが立ち上がると、両側の二人もそれに合わせることになる。

 呆然と、公爵は瞬きを忘れてそれを目で追っている。

 サスキアが、軽くそちらに頭を下げた。

「申し訳ありません、伯父上。この七年間、伯父上が何か動いてくださっていれば、その限りではなかったのですが。わたしは王女殿下の護衛でありますれば、そのご意向に従わせていただきます。護衛とはそうしたものと、父からも先輩からも教えを受けております」』

 

『部屋の外に立つ護衛と執事にもあえて礼などを略して、出口に向かった。

 そこへ応接室から慌ただしく出てきた公爵が、「お待ちください」と声をかけてきた。

 サスキアと並んでいたニールが、無言で振り返る。

「王都を出るのでしたら、当家の馬車をお使いください。今現在、国王の命を受けた国軍の兵が街中を捜索しています。王都の中を歩くと、面倒なことになりましょう」』

 

三人は、昨年サスキアとニールが国を出たのと同じ「東の門」で馬車を降り山越えの旅をスタートしました。

 

『あの山を越えたらゲルツァー王国だね、とニールは従姉の顔を見上げた。

「一年前とはまったく違って、向こうが明るく見えるみたい」

「本当だな。あのときはお先真っ暗の思いだったが、今回は楽しみが待っている感覚だ」

「俺たちの旅はこれからだ、という感じかな」

「何だハック、それ」

「いや何となく、思いついただけだ」

「はは、いいねそれ」』

 

ニールは弾んだ足取りで笑顔を見せていました。

「これからだものね、何もかも」

「ああ、そういうことだ」

 

 

 

 

2022年1月10日から2年あまりにわたって『小説家になろう』と『カクヨム』で連載された『君に、最大公約数のテンプレを ――『鑑定』と『収納』だけで異世界を生き抜く!――』はこの回で完結を迎えることとなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そんなある満月の夜、ルートルフとウォルフはオオカミのザムの背に乗せられて、隣のディミタル男爵領へ連れていかれる。森の中に着いたふたりが見たのは、柵に捕われたザムの仲間たちだった! 領地困窮の大きな原因となった害獣大繁殖のカラクリを知ったふたりは、オオカミ解放作戦を開始するが……。
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頭脳派0歳児の活躍とかわいらしさに目が離せない、本格異世界ファンタジー。

 

 

 

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