ICW No Holds Barred Volume 9 1/9/2021
ニール・ダイヤモンド・カッター対サトゥ・ジン
巨漢ジンと小柄なニールの典型的な体格差を打ち出したカード。そこに各種凶器を加えてテンポ良く。ジンも思い切りが良く、良いファイトを見せていたが、特にニールの上手さが光り続ける内容。チェーンのロープを歩いた後のDDTや飛び技も多く使い、他と差別化を図れるのも強い。ニールは是非日本でトップレスラーと戦って欲しい。それ位の安定感を持つレベルの選手となった。中々良い試合。
評価:***1/2

AKIRA対アティカス・クーガー
因縁深まる両者だけあり殴り合いからスタート。若手同士らしい素早い攻防と画鋲、ガセットプレートや剣山攻撃といったエグめの攻撃、そして要所は派手な投げや凶器攻撃で締める。アキラが乗りに乗った試合運びを見せたのが印象的で、観客を煽りながら、攻めでは荒々しさと鋭さを織り交ぜ、受けでは被虐表現と攻守に渡り貢献とこの試合のアキラは特に光っていた。対するクーガーはのらりくらりとしながらもハードワークを続ける形。彼も着々と成長しているのが窺える。只何とかチープショット祭りで勝ちを拾ったクーガーだが、この試合に関しては、アキラの鋭さが優っていた印象。かつてドレイクやTJ、ダニーらがやっていた様な、ハードバンプ+凶器なしの攻防とのミックスが上手く噛み合っていた一戦。簡単にクリーン決着しないのも良かった。アキラとクーガー、エドワードの躍進に弾き出される様にアレックス・オーシャンが壁にぶち当たっているのが気がかりではある。
好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

リッキー・シェイン・ペイジ対シュラック
RSPはTシャツ着用なしのノン・デスマッチモードで、置いていた蛍光灯も片付けさせ、シュラックが相手でも椅子を使うのみで、デスマッチには一切付き合わない。短期的にはつまらなくても、自身の今のキャラクターと今後のストーリーを見据えた動きなので、問題はなし。皆RSPが現世代最高のデスマッチレスラーだと認めているから。
椅子やドアは食らうものの、結局蛍光灯は食らわない、アンチデスマッチを貫きフィニッシュ。徹底したヒール道。日本なら大炎上だろうが、ヒールはやっぱりこれくらいヘイトを集めてこそ後のリターンが大きい。この試合は消化不良だが、後で回収すれば何の問題もない。

評価:**1/2

ジョン・ウェイン・マードック対シェイン・マーサー
マーサーの強力なドミネイトが光る内容。怪力ぶりはやはり唯一無二。課題である単発癖があるところは、マードックが受け重視にした構築でカバー。蛍光灯、ガラスボード等を常に使いつつ、焚き火しているドラム缶攻撃や火が燃え盛るトーチ攻撃を見舞い、高台から蛍光灯ボードトラップへの高所落下で度肝を抜く。対マーサー用の構築デスマッチバージョンとしては完璧である。やるだけやって少し唐突感があるフィニッシュシーンではあるものの、全体を通してみれば、新年の幕開けに相応しい見事なデスマッチ。昨年のKOTDMでの同カードを完全に上回って見せた。IWTV Wrestler of the Year 2020ここにあり。マーサーもそのマードックのサポートも受け、キャリアベストの働きを見せてくれました。好勝負。
評価:****

2021年も勢いに乗るICWは幸先の良いスタート。
大会通して見応え満点でした。

全体評価:8.5+
 

NWA Shockwave Episode 4 12/23/2020
NWA女子王座戦
サンダー・ロサ(c)対セリーナ・ディープ

 

WWEを入れても業界屈指の本格派ロサと、WWEの裏方をリリースされ、レスラー業に復帰したベテランセリーナによる、セリーナの古巣Shimmerを彷彿とさせるシリアスでアスリート性満点のタフマッチ。無駄のない試合展開にレスリング、そして研ぎ澄まされた鋭い動き。この試合の事を「洗練されている」と評すべきだろう。序盤からクオリティが戦った中で、終盤にかけてセリーナが脚攻めをスタート。セリーナに代表的な関節技がない中でのその選択はリスキーだったけれども、ロザのダメージ表現と脚を庇いながらの反撃が絶妙なので、脚攻めの効果を増幅させたのは見事。フィニッシュ自体がクイックだったので、もう一押し欲しかった所はあるものの、本格派同士の大熱戦となった。2021年サンダー・ロサの活躍は見逃し厳禁。世界中の女子レスラーでもトップ3に入る位の成長曲線を描いている。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

MLW Kings of Colosseum 2021 1/6/2021
MLW世界ミドル級王座戦
マイロン・リード(c)(w/ジョーダン・オリヴァー)対リオ・ラッシュ

 

マイロンもヒールではなくなっているので、シンプルに腕の競い合い。黒人ハイフライヤー同士とあって派手な攻防がメインとなりそうだが、中盤をWWE帰りのリオが堅実に支配する事によって、派手さは無いけれども、その堅実さで王座戦の格を作っていたのは印象的。終盤はアクロバティックなムーブも多く飛び出し楽しめたが、中々良い試合レベルを超えて好勝負に行くには、特別な仕掛けもしくは試合の負荷を上げる等の工夫は欲しかった。結果的にリオの貫禄勝ちの様な試合となった。中々良い試合。
評価:***1/2
 

東京女子プロレス 

「東京女子プロレス'21」 

後楽園ホール大会 1/4/2021

NEO美威獅鬼軍(沙希様&メイ・サン=ミッシェル)対乃蒼ヒカリ&汐凛セナ
NEO美威獅鬼軍の存在感は、上手さや強さを超越したもの。メイ・サンが加入した今、存在だけでチケットが売れてお客を呼べる。美の巨人はまさにMoney Maker。メイ・サンの加入により、更に一挙手一投足が興味深くなり、連携技も増え、試合の内容も向上。キャラクターと存在だけでも凄かったNEO美威獅鬼軍が、内容まで手にすれば鬼に金棒。恐ろしい程の空間支配力であった。ヒカシオもプロレスの世界を超えた友人関係というだけあり、連携は上々。小気味良いファイトを見せていて、ミッドカードレベルまでならこれでも十分だが、この上に行くなら何か特別な武器が欲しい所。相手がNEO美威獅鬼軍という全てを飲み込む存在ならば尚更。また、それは乃蒼ヒカリ個人にも言えることで、先を行く形になっている渡辺未詩とは、スキル的に大きな差はなくとも、パワームーブという大きな武器があるから、プッシュを受けている所もある。華も安定感もあるだけに、明確に「これ」という武器は欲しい所。それがハードコアやデスマッチなら大歓迎ではあるが、それだと団体のカラー的に相手がいないと思うので、通常形式でも活かせる武器も欲しい所。個人的にはハードコアにも通ずるラフファイトやダークさを出せば、キュートさが持ち味の選手が多い団体なので、他と差別化を図れそうかと考える。平均的良試合。いずれにしても可能性しか感じない。
評価:***1/4

山下実優対伊藤麻希
2年前のメインで王座戦を戦った両者。この試合でも山下は一歩引いて様子見のスタンスだったが、真価を問われる伊藤が成長を見せる。技が増えたのは事実である。だがその使う技のチョイス、精度が見事。出来る事を最大の力で行う。簡単そうで簡単ではない行動ではあるが、意識的に取捨選択出来ているのは良い。フィジカル面も強度が上がっていて、ショルダーブロック一つとっても緩さがない。そして何よりもコミカルに逃げなくても勝負出来る様になった事。元々スター性もキャラクターも抜群だったが、そのキャラクターが故に、コミカルな展開を求められる事も多かったけれども、この試合では完璧にシリアスで勝負して、山下を確実に追い込んでいた。もし伊藤の攻めが緩かったのなら、適当に山下が締めて終わっていたが、意表を突いた丸め込みや関節技であわやという所まで行っており、危ないと感じた山下がすぐさま本気モードで蹴り飛ばして制圧しKOという結末にも説得力が生まれる。これはアンダーカード〜ミッドカードで試合数を積ませて、レスラーとしての成長を促した団体側とそれに応えた本人の勝利である。話題性はピカイチで、メインイベンターになり得る存在では元々あっただけに、遂に名に実が追いついた形。序盤から山下が潰しに行ってはおらず、まだまだこのカードの伸びしろはあると感じたので、この評価ではあるが、将来ビッグマッチのメインイベントとして出してもおかしくない内容。伊藤に関しては近いうちにプリプリ王座を任しても問題ないだろう。想像以上の激戦。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

プリンセス・オブ・プリンセス王座戦
坂崎ユカ(c)対辰巳リカ

この試合、辰巳は持てる力を全て注ぎ込んでいて、マイナスなポイントはない。緩さの要因となりうるヒップアタックも厳しく放っていて、格差を埋める脚攻めも執拗に行い、ドラゴンスクリュー連発からの足4の字は分かっていても説得力十分。
だがやはり絶対王者坂崎の充実度が余りにも凄過ぎた。序盤ティヘラがすっぽ抜けてから、脚攻めに向かわせた後、鉄柵を使った脚攻めを喰らった時の見事なダメージ表現。ミスをフォローした上で伏線まで張る。そして簡単に脚攻めに行かせるのが定石ではあるが、簡単に攻めさせず反撃し、グラウンドで落とす。飛び技を多く使わなくても、効果的に関節技、投げや打撃を活用しつつ支配。関節技もヘッドロックで粘る基本的なものから、三角や腕十字を狙いに行く等それなりの練習をしていないと出来ないものまで見せてくれるので、本当に隙がない。それらの厳しい攻めと表情で緊迫感を演出。辰巳の猛反撃を煽るものの、自身の強さはキープ。最後まで高い壁であり続けた。惜しい所としては、坂崎の高い完成度に、まだ辰巳の実力が追いついていなかった所はある点、他の得意技を飛ばして、魔法少女にわとり野郎を狙い、かわされて脚攻めに入られたフィニッシュ。この流れが性急過ぎた点。まだ手駒は残している中で、もう2〜3ターン攻防があっても良かった感じはしたが、それでも内容の詰まった見事な試合には違いない。この坂崎政権の後はかなり大変だと思うが、立場が人を育てる事も大いにあるので、辰巳の今後には期待したい。そして今の坂崎は、物凄い完成度を誇っているので、コロナが明けた後、AEW参戦の比率を少し増やして欲しい所。志田光戦、サンダー・ロサ戦はマストで組んで欲しい。AEW女子でもNWA女子でもベルトは獲れる存在。

好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

全体評価:8.5
 

WWE NXT #437 - New Year's Evil 1/6/2021
 

 

キャリオン・クロス(w/スカーレット)対ダミアン・プリースト
昇格が噂されるプリーストと怪我から帰ってきたクロスとの一戦。打撃も使えるビッグマンであるところを示しつつ、ハイパーアーマー設定のクロスに対して、プリーストがこれでもかと攻め立てる。必殺技のレコニング以外は全て使ったのではないかという程、蹴りも投げも飛び技も大盤振る舞い。クロスの強さを示す一方で、プリーストの最後のアピールタイムとも言えるこの試合で盛大に叩き込んだ形である。静のクロスと動のプリースト。大柄同士の迫力はありながらも、その対比は面白い。最後はクロスが制圧する形のフィニッシュではあるものの、キース対ダイジャコヴィッチに通ずるものがあるぶっ飛び加減が楽しめる一戦となっていて、尚且つこの二人よりもキャラクターも立っている二人なので、メジャーっぽさがより感じられる内容でもある。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

ラスト・ウーマン・スタンディングマッチ
リア・リプリー対ラクエル・ゴンザレス

元親友同士の抗争決着戦。実際に過去にはInstagramでも2ショット写真が上がっていた程の関係性である。噂通りなら昇格が間近に迫っているリアの、ラクエルに対する置き土産と考えれば、特別な試合と位置付けるべきで、ウォーゲームスもそのセットアップの一環だったとも言える。
試合は、大柄同士の豪快な攻防に加えて各種凶器を有効的に活用する形。演劇ベースにしてしまうとこの二人の力量やキャラクターを考えると難しさが出てしまうが、アクションベースは崩さずに、そこに様々な付加要素を足していくので、彼女達の持ち味が最大限伝わる内容となっている。この試合の特に良い点は2つある。まずは移動を上手く使えている点。これはクリエイティブの妙でもあるが、リング→リングサイド→花道→バックステージ→入場口と細かくシーンを変えていくので、粗も隠せて、WWEらしさも生み出せる。ダウンシーンを多く作らずに、パワフルさのみを引き立たせていた構築は見事であった。
もう一つは、凶器やセット使用による豪華さ。各種凶器を有効活用していて、ラクエルが手錠を引きちぎったシーン、リアが、介入したダコタ・カイに反撃しロッカーに閉じ込めたシーン等、キャッチーでエンタメ性に溢れながらも、豪快さにも溢れ、彼女達の持ち味を損なっていないバランス感が見事。クライマックスも椅子や鉄階段をちらつかせながらも、最後はステージ陥没スポットで豪快に幕引き。本当にフェアウェルになるかはまだわからないものの、NXTに、ラクエルに、そして自分へも最高の置き土産となった。ラクエルはもちろん、貢献度の度合いでいえば、リアに関しても現時点でのキャリア・ベストマッチと言えるだろう。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

NXT王座戦
フィン・ベイラー(c)対カイル・オライリー

大枠はハードヒッティング+間接技の激しく熱い削り合いなのは変わらず。そこにベイラーが負傷した顎を、逆にベイラーが攻めるというテーマを導入。導入方法がコブラツイストを耐えたオライリー。ロープブレイクの為にロープに噛みついた所に、ベイラーが蹴りを入れて顎を負傷するというもの。序盤も序盤で、別にヒップトスで切り返す事も出来た中で、噛みつきロープブレイクは、正直無理があったものの、ベイラーがそこをすぐさまチンロック→クロスフェイス、抵抗するオライリーを投げで制圧し、間接技で絞ると言う行動を最高の鋭さで行った事により、浮わついた空気感はかき消された。このベイラーのフォローが見事だった。ベイラーが攻め立てるシーンが多かったものの、それはオライリーが間接技で一発逆転を狙える選手だから可能であり、実際に一発逆転狙いの切り返しを執拗に狙っていたので、ベイラー有利の展開もスッと入ってくる。顎を攻めて、オライリーもダメージ表現を頑張った割に、フェイスロック要素の強いグラウンドコブラがフィニッシュだったのは呆気なさがあり、この試合のスタイル上、性急さが強すぎて、少しでも溜めや余韻を大事にしたかったけれども、時間の制約があり、少し難しめなコンセプトという中でも、熱さや鋭さは最大限に残した上で、狙い通りにやり抜いた好勝負であった。
評価:****

全体評価:9
 

新日本プロレス Wrestle Kingdom 15 In Tokyo Dome 2日目 1/5/2021
 

『KOPW 2021』決定戦-フェイタル・4ウェイマッチ
矢野通対チェーズ・オーエンズ対バッドラック・ファレ対BUSHI

箸休めは中盤にやってこそ箸休め。この試合をオープニングにするなら、ダークマッチのスターダムの試合を入れるべき。何に配慮して遠慮しているかはわからないが、こういう時こそ強引にやらないと意味がない。他の女子の団体に差をつけて、選手たちには本戦に出られる喜びとやりがいを与え、世界には新日本も女子の試合をやりますというアピール。それによりオンデマンドに加入させて、スターダムに新日本ファンを流れさせる。ロッシー氏は、業界きっての優秀なビジネスマンならば、選手を強奪出来るパワーをここにも使うべきでしょう。上り調子の今こそ攻めるべき。試合に関しては特にコメントはないものの、チェーズはゆってぃみたいな風貌で、ジョバーにしか見えない。腕もある「クラウン・ジュエル」ならもう少し何とかしたい所。
評価:*1/2

NEVER無差別級選手権試合
鷹木信悟(c)対ジェフ・コブ

ハードヒットが軸となる肉弾戦だが、コブは各種投げや身体能力を活かした大技、鷹木は飛び技や打撃も交え、様々なアクセントを随所に散りばめる。只、軸は崩さずにとにかく激しさを突き通す強さもある。色々なマットを渡り歩いてきたからこそ、ストレートは豪速球、変化球も緩い球とまではいかなくても、カットボールやスプリット等芯を外すもの鋭く落ちるものというような、要は何種類もの変化を付ける事が出来るのがこの2人の強みである。The Empire入りしたコブは、正直ヒールが似合わないハワイアンではありながらも、シリアスな表情を崩さず、マシーンとして在り続けたのは、試行錯誤の後が見えて良かった。これがメインでもおかしくないくらいの大激戦。そして鷹木は早くIWGP戦線に行かせるべきである。好勝負。
評価:****

SANADA対EVIL(w/ディック東郷)
この試合も悪い意味でいつもと同じ。裏切った元タッグパートナーに対して恨みを晴らす試合のはずだが、SANADAは爽やかファイトに終始。SANADAも「復讐してやる」なんて言葉が似合わないRVDの様なタイプ。遺恨精算がとことん似合わない。出来ないものは仕方がない。求める方が悪かったとしか言いようがないので、このテーマでこのカードを組んだ方に責任がある。EVILも東郷を使いながら何とか調整はするものの、強引にでも好転させる支配力はない。EVIL自体はラフな展開もヒールプレイも上手く使える選手なだけに、割を食ったなという印象。長々とやった割には、スペシャル感はなく、東郷のテーブル受け位だった。只、SANADAを批判して、前日のオカダ対オスプレイを持ち上げるのはおかしな話。裏切りを経た遺恨清算戦というテーマに対して、普通のシングルとほぼ変わらないという同じ構造上の欠陥を露呈したからである。それが良くも悪くも新日本スタイルだと言ってしまえばそれまでだが、幅を狭めるのは、結果的に損をするのは団体側なので、もう少し工夫は必要だと考える。結局SANADAは、マイクはなし、テーマなしの試合で伸び伸びとやらせるのが1番である事がわかる内容。平均的良試合。
評価:***1/4

IWGP Jr.ヘビー級王座戦
石森太二(c)対高橋ヒロム

演舞的な攻防から場外を使った攻防そして石森の支配では、昨日ファンタズモが痛め付けた手と腕を狙う形。ここまではかなりのクオリティではあったが、中盤以降は少し停滞。長い長い支配ターンの割に、終盤で回収し切れなかったのが要因。長く熱い割に、エルボー合戦等気合が先行して、質が追いついてこなかった。セミなので、ヘビーの様な試合をしたいという思いが強過ぎて、ジュニアの良さを削り過ぎてしまった。試合時間もベストよりはやはり長く、間延びするシーンも。石森が関節技で押したのは良いものの、それだけが浮いてしまう。この時間ならばとことん物量押しで危険技も雪崩式も飛び技も切り返しと何でもやってしまう位ではないと苦しい。ヒロムは痛みの表現を強めにして、これまでとは異なるエッセンスを入れようとしていたそのチャレンジは評価したいが、石森は良くも悪くもスーパーアスリートである為、デスペラード位の関係性がないとこの手法で昇華するのは難しかった。ドームという最高の舞台でありながらも、声援が送れない状況の中でのセミ抜擢ではあるが、思惑通りには運ばなかった内容。
好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4


IWGPヘビー級&IWGP ICダブル選手権試合
飯伏幸太(c)対ジェイ・ホワイト

ジェイの巧みな技術とインサイドワークが飯伏をシャットアウト。窮地に立たされた飯伏はキラー・モードを解禁し応戦。介入得意技必殺技フルスロットルで作り上げた48分ものスペシャルなロングマッチと言えばかなり聞こえがよく、実際良い試合ではあるものの、この全部乗せのボリュームの割には、もっと伸びていなければいけない内容。外道をすぐさま介入させチープショットを狙った割に、かなり長く飯伏をドミネイトする展開が続く。ジェイの凄さは非常に伝わる展開だが、飯伏にも抵抗させる展開は与えるべきで、飯伏の価値はとことん落とすやり方はスマートではない上、飯伏はそもそもダウンベース、演劇ベースの受けが得意な選手ではないので、小刻みに攻防を行いつつ、ジェイが強く狡く行くのが最適解だったと考える。上手さの割に退屈。これが全てである。
そして48分もやる必要はなく、ただ単に、団体側が国内外に48分という超絶なロングマッチを年間最大の舞台で行った事実を示したいというエゴが強過ぎた。正直20分位の方が、このカードの相性的に、記憶にも記録にも残る試合が出来る。どうしてもロングマッチをしたいなら、半端な介入だけではなく、ハードコア要素や過激化要素を増やすしかなかったが、それもなかったので苦しかった。両者共素晴らしいレスラーなのは言うまでもなく、この試合も良い試合ではあるものの、自らの腕と試合時間という記録と肩書きに溺れ過ぎた内容。ロングマッチを行うのは決して悪くないが、然るべきやり方でやらないと本来発揮されるべき力が失われてしまうのは、マネジメントとして課題が残る。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

総評

物量と試合時間に質と面白さが付いてこなかった2日目。スターダムを本戦に入れるのは、ドームだけではなく、試験的に新日本のビッグマッチでクロスオーバーさせながら、2022年大会で入れ込むのは必要だろう。日本プロレス界の盟主として動く必要はあるだろう。国内向けにはそれで良いのかもしれないが、ずっと通常形式だけやり続けるのには限界が来ている。40分台も当たり前になれば、後は60分以上になる。それならアイアンマン戦や3本勝負を取り入れれば、ハードコア系に頼る必要はなく、マンネリを防げる。
そしてジェリコとモクスリーがいないと、ここまでサプライズと海外への繋がりが感じられないドメスティックな内容になるのかと愕然とする。ジェイ・ホワイトのWWE移籍話が盛り上がっているが、2020年来日出来ない時に、フリー選手中心の小大会でお茶を濁すのではなく、ジェイやGODをAEWやインパクトに派遣して、Bullet Club再結集の場に少しでも立ち会わせておけば、ここまで蚊帳の外感はなかったはず。AEW×インパクトの盛り上がりをツイートするだけで指をくわえて観ている現状は、とても「世界第二位の団体」の雰囲気は感じられない。後になって、憎きヤング・バックス、コーディ、ケニー・オメガ、そしてトニー・カーンやドン・キャリスらに頭を下げて絡ませて欲しいと頼み込む位なら、まだコロナが明けない今なら間に合うかもしれない。このBC復活ストーリーに乗っかる事は大事である。ジョン・モクスリー対KENTAをAEWの舞台で行う事に対して許可を出すのも大事。AEWに全てを持っていかれる事を危惧しているかもしれないが、ジェリコやモクスリーを貸し続けて、リターンを全くしていない現状なのだから、多少お土産を持っていき、AEW×インパクト×新日本の三団体交流にする位ではないと、結局ライブではないウィークリーのTV放送を持ってもROH位のレベルにしかならないので、もし世界に置いていかれたくないなら早急に行動すべき。それでも国内の市場のみを守り、テレ朝とメルツァーと東スポプロレス大賞を気に掛けるだけで良いなら、別にする必要はないが。
北米市場との乖離を強く感じた大会でした。

全体評価:8