2017年 8月19日、
マンガビブリオバトルというのに出場しました。
どういうものかというと、5人の出場者が、
お気に入りのマンガをプレゼンテーションして、
観客の投票で優勝者を決めるというもので、
持ち時間は各自プレゼン5分、
質疑応答3分という割り当てになっていました。
僕は望月ミネタロウの「ちいさこべえ」をプレゼンしました。
以下はそのプレゼンの台本と
その合間に提示した図版です。
『私がご紹介させていただきますのは、
望月ミネタロウの「ちいさこべえ」という作品です。
すでにお気づきの方もいらっしゃるかとは思いますが、
この作品は山本周五郎の
「ちいさこべ」という小説が原作となっています。
山本周五郎といえば、大衆小説の大御所の一人です。
昭和32年に書かれた「ちいさこべ」も、
過去に何度も映画化やドラマ化されています。
その「ちいさこべ」を
「ちいさこべえ」というタイトルでマンガ化したのは、
望月ミネタロウというマンガ家です。
望月ミネタロウは1985年に
「バタアシ金魚」という作品でデビューしています。
オシャレな画風が若者に人気で、
「バタアシ金魚」は映画化され、
続編の「お茶の間」はテレビドラマ化されています。
1993年には「座敷女」という、
都市伝説をモチーフにしたホラーマンガを発表しています。
このマンガは後々まで語り継がれるトラウマ作品となっています。
図版①

そして1994年から1999年にかけて、
大地震をテーマにした「ドラゴンヘッド」という作品を連載し、
この作品で講談社漫画賞と
手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞しています。
そんな望月ミネタロウが
2012年から2015年にかけて連載したのが「ちいさこべえ」です。
この「ちいさこべえ」が
いままでの望月ミネタロウ作品と一番大きく違う点、
そしてこれがこの作品の成功の理由でもあるのですが、
それは、原作の小説があるという点です。
しかも山本周五郎というベテラン作家の作品を原作としているため、
物語の構成がしっかりとしていて、
それに望月ミネタロウの、
イラストのような端正な絵が加わることによって、
より完成度の高いマンガになっているのです。
山本周五郎の「ちいさこべ」の舞台は、
この表紙からもわかるように江戸時代の東京の下町です。
図版②

望月ミネタロウの「ちいさこべえ」では
時代設定を現代に変えていますが、
それ以外の設定、
主人公の職業が大工であることなどは原作のままです。
これまでどちらかというと
現代的で洋風な感じが強かった
望月ミネタロウのマンガの世界観が、
職人の世界を描くことで
これまでとは違う独特の雰囲気になっています。
人物設定においては
望月ミネタロウならではの
オシャレな感覚が発揮されています。
図版③

これは1巻の表紙、主人公の茂次とりつです。
背景の板塀とりつが持っている職人風の前掛けが
かろうじて和風の感じを出していますが、
それ以外は現代の若者のファッションをしています。
図版④

そしてこの茂次の風貌、
このスタイルは2001年に制作された、
ウェス・アンダーソン監督の
「ザ・ロイヤルテネンバウムズ」という映画の
登場人物がモデルになっています。
この映画も当時話題になったオシャレ映画です。
この人物造形などが望月ミネタロウのセンスの良さのひとつです。
望月ミネタロウは元はグラフィックデザイナーで、
この作品にもグラフィック的に優れた描写が随所で見られますが、
その中から特に、私がおすすめしたいのが、
りつの作る料理の描写です。
図版⑤

例えばこのカットのように、日常のごく普通の食事などを、
こまごまとしたディテールを細密に描くことによって、
日常の生活の大切さ、そこにこめられた家族への愛などを、
言葉を使わずに、絵のみで自然に伝わるように表現しています。
このような料理のカットが何回も出てきます。
こういう何気ない映像の積み重ねを通して、
人の心の機微を表現していくという手法は、
かつて小津安二郎や成瀬己喜男の映画などで
行われていたやり方です。
これは日本の映画の歴史のうえで、
サイレント映画の時代から
何百本という映画を量産することによって、
徐々に形成されていった伝統の技法です。
その伝統の職人技のような技法を
マンガにおいて再現している望月ミネタロウは、
日本のマンガ界において
稀有の存在であると言えると思います。
この作品はフランスのマンガ祭でもいくつかの賞をとっています。』
以上が僕のプレゼンテーションの内容です。
家でリハーサルしてみて、
約4分30秒くらいの尺だったのですが、
本番ではちょっと早口になってしまい、
4分20秒くらいで終わってしまい、
少し時間を持て余しました。
結果は優勝でした。
他の方がプレゼンテーションしたのは、
「累(かさね)」
「マスターキートン」
「コブラ」
「兄友」
の4作品でした。