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日本の政治経済の現状(16-10)日銀追加金融緩和見送り

 428()午前、日銀が異次元の金融緩和に踏み入れて4年目に入った第一回目の日銀の金融政策決定会合が開かれていた。機関投資家、個人投資家、金融アナリストなど直接金融市場に関係する人たちばかりでなく,各省庁、各産業界もこの日の決定内容の発表を固唾をのんで待っていた。大方の金融関係者は、日銀が「何らかの追加金融緩和」を決定するであろうと予測していた。


異次元の金融緩和実施からすでに丸3年が経過したが、目指す「物価上昇率2%」は全く達成せず、消費はマイナスが続き、実質賃金はゼロを中心に低空飛行、為替は107円に一時下落し、経済成長は到底2%に及ばず、ましてや政府が吹聴していた「トリクルダウン説」はいつの間にか消滅という状況に至っている現状においては、特に株式市場の上昇を願っていた国内市場関係者は間違いなく日銀が「追加金融緩和」を打ち出すに違いないと判断していた。その憶測から日経平均は前場で300円近く上昇し、円は107円から112円近くまで戻ってきていたのだ。しかし、正午過ぎの日銀会合の結果は彼らの思惑を見事に裏切り「追加緩和はなく現状維持」が市場に伝えられた。市場は大混乱し、日経平均は午前の300円高から終値624円安まで、午後場2時間半の中で900円以上の下落を見た。一方為替は111円台から107円前半まで下落し、その後ロンドン、NYとこの傾向が引き継がれ、30日の終値は106円35銭まで、円高が進行したのである。


黒田総裁はその日午後3時半からの記者会見で「所得と支出の好循環は保たれていて、物価上昇率2%は必ず2017年中には達成させる」との強気な発言をしていたが、物価2%の達成時期の先送り修正は今回で4回目である。3度目の正直というが4回目となると流石に信頼度が薄くなる。日本の国内事情だけで日銀の追加金融緩和ありと判断して為替や株のロングに走っていた投資家(ほとんどが国内投資家)は日銀の追加金融なしとの発表から大慌てでロングポジシヨン解消に動いたが、「すでに遅し」で可なりの損失を被ったに違いない。一方海外の投資家は朝から株ショートポジシヨンであった。市場取引開始前で外資系の日経平均先物の大量の売り越しポジシヨンが報告されていた。またぞろこの日の天下分け目といってもよい日銀金融政策決定会合のイベントでも外資系投資家に軍配が上がってしまったのである。


外資系の判断は、


1)日銀が追加の金融緩和をしても円安にならない。なぜなら米国側が厳しく日本の為替介入をチェックしてくるから。従って日銀は更なる金融緩和を現時点ではしないであろう。


2)追加金融緩和がなければ円はさらに上昇し、自分たちが買持ちしている日本株のドルベースの価値が上がるので一旦売り時。




それでは日銀は何故追加金融緩和をしなかったのか。その理由は、


1)株を上げていかにも景気が良いと見せたい安倍政権・自民党側から参議院選挙直前に追加金融緩和の要請があると考えておく必要がある。もし今回実施すれば、選挙前にまたやるという理由が立ちにくい。 

2)追加緩和といってもほとんど手はない。マイナス金利を拡大するのか。株式購入量を増やすのか。増やして上げれば利益確定に走る外資に売られまた下がる繰り返しに終始する株式相場を十分経験学習した。今のところ国債・ETF買い入れ増額以外適当な緩和手段が考えられない。マイナス金利拡大やETF買の増量で今度失敗したら後がなくなる。従って日銀は動きが取れない。



4月29日米国政府は日本を為替監視下のリストに初めて入れたと発表した。これで日本が為替市場に直接介入するなどの動きが厳しく制限される。米国側が「為替のイニシアテイブ」をとったことになる。日米貿易戦争において日本側が優位に立つと米国側必ず「円高」を押し付けてきた。例外は2013年4月に日銀が異次元の金融緩和を開始して2015年8月までの2年弱の間だけである。米国側が改正日米安保条約の締結を迫り、日本側が超円安政策を要望した日米の思惑が合致した時期である。安保条約は米国側要求通り成立したが、昨年後半から米国側企業からのドル高による日米貿易の不均衡に対し批判が起こり米国は日本側が欲する円安政策を助け続けるわけにはいかない国内事情がある。また大統領候補選においてトランプ氏のように安全保障において日米間の負担が不公平であるという声も米国民に支持されているという状況もある。レームダック状態にあるオバマ政権はもはや日本側に肩を持つ力を失っている。



中島みゆきの唄ではないが、将来振り返ってみれば「そんな時代もあったよね」とアベノミクスの2年にも満たないわずかな光芒を見ることになるであろう。今たけなわの15年3月期の大手企業の決算結果は一部内需産業を除いて殆どが業績予想に対して利益減少や大幅な赤字が報告されている。いわんや17年3月期はさらに減益が予想されているのである。 


政府・日銀は人口がコンスタントに減少している日本においては金融政策で経済を成長させて景気浮揚を企図するのではなく、国民総所得の配分のバランスを変えてかって消費の中心的役割を担っていた中間層を再生することに注力してはどうかと思う。雇用が増えたといっても長期に生活が安定する雇用形態と賃金の保証がない限り成長を阻む人口の減少は到底止められないのである。保育所が足りない以前の問題である。



(了)


日本の政治経済の現状(16-10)為替は国際経済戦争の武器

先週(101644日―8日)は為替が「経済戦争の武器となる」ことを短い間で立証したような週であった。

週初の44日は1ドル=112円近辺であったが、安倍首相が「日本は為替介入をしない」とインタビューを受けたWSJ紙の記者に明言したことをきっかけに急速に円高が進み3日後の47日には108円まで急伸、一時NY時間では107.90円を付けた。同時に日経平均が千円以上も下落、慌てた政府は麻生財務大臣が「(急な)円高には断固たる措置をとる」と発言したことで一旦109円まで戻った。しかし、もともとドル安円高基調にあったトレンドは安倍総理の発言で拍車をかけ、麻生大臣の口先介入だけでは円高基調は崩せず、4月8日のNY時間の終値は、また108.03円となって来週の東京市場に還ってくる。日銀短観によれば2016年度(20173月期)における大企業の為替想定レートの平均値は117.43円である。すでに9円以上の差があり、為替がこのままで推移するとすれば、今期の企業業績は前年比大幅減益を避け得ないであろう。

昨年は年初からアベノミクスが狙った通り、前半は円安が124-125円台まで順調に進みその結果株高も示現しアベノミクスの頂点とも言えた。

125円は日米金利差からは説明できない水準であってアベノミクスを支援するため米国政府が日本の為替市場への直接介入を容認した結果の水準である。しかし、8-9月頃から米国側の状況が変わってきた。まずは、米国産業界や農業界からの「過度なドル高」に対する政府への突き上げの声が大きくなった。さらに大統領予備選挙のキャンペーンが秋から始まると、クリントン候補やトランプ候補からこの声を取り上げて、ドル高に対する厳しい発言が繰り返されるようになっている。民主党クリントンは「中国や日本のように元安や円安にするために為替誘導する国がある以上TPPには反対である」。共和党トランプは「中国や日本がアメリカ人の職を奪っている。俺が大統領になったら断固たる措置をとる」と発言しているのだ。

日米の2016年の国際収支が発表された。

日本:166413億円 前年比 約3.6

米国:赤字額 48407800万ドル(@115円で約556700億円) リーマンショック以来の赤字高。

1ドル=125円が示した両国間の所得移動がよくわかる数字である。125円は米国産業にとって相当厳しい為替レベルで一方日本にとってはバブルとも言ってよい。これでは米国内から為替是正のブーイングが出て来たのも無理もない。安保関連法が国会で通過した9月を境に為替は日米金利差にはほとんど関係なく「円高トレンド」になってきていた。日銀黒田総裁が確約していた「2年で2%」の達成は2015年中頃であって、強力な安倍政権であれば規制緩和、行政改革、GDP2%もその間にやってくれるであろうとアメリカ側も期待していたが何も進まなかった。米国側もいつまでも暗黙の了解として円安を容認してはいられなかったのであった。


そんな流れの中での先週の安倍首相と麻生財務大臣の発言であった。安倍首相が「為替介入はない」といった言葉は重い。今後日本が米国や主要国の了解を得ないで為替介入をすれば厳しくたたかれることになる。選挙前でもあるので株高を演出したい安倍政権とすれば為替介入はできないので株をもっと買って相場を押し上げなければならない。すでにその兆候は7日(木)と8日(金)の日経平均に表れている。つまり円高=株高になっている。例の最後10分でプラス転換作戦が7日であり、朝からの大量買いが8日であった。

市場関係者は「日銀のさらなる金融緩和で株高を」と叫んでいるがこれ以上マイナス金利にしようが、金融緩和と両輪にある為替介入がしにくい現状で更なる金融緩和といえば「ETF」買いの枠を例えば5-6兆円に増額することぐらいしか考えられない。しかし公的資金が市場を支配すればするほど市場の流動性がなくなり投資家からすれば魅力のない市場となり特に外資系投資家は引いていくであろう。その兆候はすでに年初から始まっている。今安倍政権がやるべきことは「急がばまわれ」で、愚直に構造改革、規制緩和、技術革新、格差是正などを強力に推し進めることである。アベノミクスは安保関連法成立だけが成果であったといわれかねないのが現状である。

TPPが各参加国で批准され「関税がゼロまたは関税障壁が極めて低くなった」時に為替が関税や関税障壁にとって代わることを考えれば為替は今以上に「貿易戦争=経済戦争の武器」になることを十分に認識しておかないと日本の産業は破壊的な状況に置かれるのは必定である。それを阻止するには外交力を始めとした正に国の総合力が必要となる。大学の文科系人員を減らすという教育方針はいかがなものか。世界に通ずる文化力、交渉力が国の総合力の基にあることを忘れてはならないと思う。英国はOxfordの人員を減らしてはいない。(了)

日本の政治経済の現状(16-9)アベノミクス3年、株式市場は死んだ?

2016年3月31日、東証1部の日経平均は、三日続落の16758.67円で終了した。

この16758円は日銀が日本株ETF買い入れを1兆円から3兆円に増やすと決めたバズーカ2を始めた201411月初めの日経平均と奇しくも丁度同じ水準(16780円)である。一度は上げた株式市場が15ケ月で元の値に戻ってしまったのである。日経平均の日々の値を追ってみると20153月から7月迄の間で2万円を超える相場もあったが、811日を境に日経平均がマイナストレンドに突入したことが明らかになった。同時にドル円も6-7月あたりでは124円台で推移していたのが8月に入り円高方向に動き出し、現在の112円台まで、約12円も円高になってしまった。特に1月末にマイナス金利を日銀が発表したいわゆるバズーカ3の後もこの円高基調は止まらず、それに影響された日経平均は17000円前後でほとんど動かずまるで死んだような市場となっているのである。

死んだような相場付きになった背景は何か。


1. 日銀のバズーカ2の後日銀、年金の買いを囃して買い方に廻っていた外資が昨年8月を境に利益確定売りに動いたこと。為替が円高=株安になると読んだのだ。3月上旬に来日した著名な米投資家ジム ロジャーズによれば「昨年8月で日本株はすべて利益確定のため売却した。その後は日本株には一切手を出していない。ただ円はこの112-113円台でも安いとみて持続的に投資はしている。」とのことである。ロジャーズは円がさらに上昇するとみているので(裏返せば株は下がる)円を買い進めているのである。アメリカ側から見れば112円台の円はまだ過小評価されていると思っているに違いない。

    ロジャーズは日本株から8月に手を引いた理由を当然言わなかったが、ワシントンにかなりの人脈を持つ投資家だけに「アメリカが円安(=株高)で安倍政権を手助けする代わりに安保関連法の成立を安倍政権に迫った」という裏を知っていたからである。アメリカ側としては米産業からの「ドルが強すぎる。何とかしろ」と迫る産業界の強い要求もあり、9月に安保関連法が成立したので、円高になって構わないと判断したのである。日銀がマイナス金利を導入してもなお円高傾向になっているのは為替を武器とした日米間の駆け引きが背景にあるのである。ロジャーズが円高になるとみて日本株から8月に手を引き、円は高くなるとして持続して円買いをしてきた投資行動と平仄が会う。大統領予備選挙戦でサンダースなどにやり玉に挙げられているゴールドマンサックスやチェース銀行、AIGなどはリーマンショックの際につぶされることなく生き残ったのは政府のおかげであり、為替の調整くらいはお手の物でワシントンの思惑通りに動くのである。

2. 1.と関連するが今年に入って以来3月末まで外資系投資家は8週

   連続で「売り越し」で終始している(財務省発表)。また外資系

   の取引高が激減している結果、(東証1部毎日25億株以上時には

   35億以上の日もあったが、)1月以降20億株以上の日は少ない。

   あさの9時過ぎから9時半迄日銀年金が買って100円ほど上がった

   後は判で押したように売りが入り終値は前日と同じかややマイナ

   スという相場がすでに3ケ月も続いているのである。

   外資系投資家が少ない東京市場はまるで死んだような相場がすでに3ケ月も続いているのである。


3. 株式市場が低調なのは、外資系ばかりでなく、国内投資家も企業の業績悪化を懸念していて外資の売りに向かって買い進むという気概もない。112-113円台という為替が続けば赤字の企業も出てきて不思議はない。為替レートを118円あたりで経営計画を立てていた企業が多いのである。日本の機関投資家や個人投資家から日銀の一段の金融緩和を望む声があるが、それも株を押し上げる筈の円安になるかといえば疑問が残るというのも市場がほとんど動かない原因となっている。

   

明日は日銀短観が発表されるがどんな指標が出てくる。かなり悪化するとの予想が多いが果たしてどんなものになるか。新年度に入って外資も安心して買いに入ってくれる株式市場になるか注目したい。 (了)