日本の政治経済の現状(16-17)8月15日
71年前の1945年8月15日は日本が第2次大戦に負けた日である。というより、アメリカに負けた日である。日本にとって歴史的大事件であったというよりほかはない日であった。一方で戦後日本経済史にあって1971年の8月15日は敗戦記念日と同様大変重大な意味を持つ日となったのである。時の米国大統領ニクソンは所謂「ニクソンショック」と呼ばれた経済政策を発表したのがこの日である。その内容は日本などに押しまくられ低調を極めていた米国経済を内外政策の転換で立て直そうとしたものであった。その骨子は、
―ドルと金との兌換停止
―10%の輸入課徴金賦課
―減税、緊縮財政の導入
などであった。
日本製の鉄鋼製品、自動車、電化製品、繊維製品などが安値で日本から輸入されアメリカ市場を席巻しアメリカの産業界に多大な打撃を与えつつあった。そこでニクソン大統領は通常の関税の上に10%の輸入課徴金を課して日本からの輸出攻勢を弱めようとしたのである。
当日、商社の鉄鋼部にいた私は、1年余りの米国研修を終えて帰国したばかりで2年ぶりのお盆休みをとっていたが早朝から「ニクソン大統領の新経済政策が発表されたので日本の経済は破壊的な影響を受けることになる」とのニュースが飛び交い、お盆休みを返上して出社し結局その日は夜遅くまでニクソンショックに対する対応策に追われたのを昨日のように思い出す。貿易戦争の2大武器である「関税」をまずは動かしてきたのである。アメリカにとってもう一つの頭痛の種は「1ドル=360円」という固定制為替レートであった。アメリカは終戦後日本を占領しドル・円レートを一方的に決めてきた。終戦後の為替レートははじめから360円ではなかった。
何回かの変遷があったが、360円時代は22年以上続き朝鮮戦争特需などを経て日本が対米輸出を圧倒的に伸ばしたのはこの360円のお蔭であったが片やアメリカが日本の復興のためと決めた360円がアメリカにとっては日米貿易上極めてアンフェアーな為替レートとなってしまったのである。ニクソンの輸入課徴金10%は次の「為替レート変更」政策への序章であったのである。同じ年の暮れ(1971年12月)米側は有無を言わせず日本側に1ドル=308円への固定レート変更を飲ませ2年後には「フロート相場」にまで展開していったのである。その後1990年7月には79.50円迄円高が進んだのは周知の通りである。参考までに戦後のドル・円レートの変遷を見ておく。
1945年9月― 1ドル=15円
1947年7月― 同 50円
1948年7月― 同 270円
1949年1月― 同 360円 一番長く続いた固定レートである)
1971年12月― 同 308円
1973年2月以降 固定制から変動相場制に移行し現在に至る。
1985年9月月16日 プラザ会議でさらなる円高に
アメリカは円の変動相場制を日本を主とした世界の貿易相手国に飲ませる一方輸入課徴金は停止したが、ドル安(円高)政策は相変わらず推し進め1985年9月16日のニューヨークプラザホテルでの主要国為替会議で更なるドル安(円高)政策を日本などに押し付けた。当時230円あたりの為替レートが2-3カ月で一気に170円あたりまで円高になり日本の輸出産業が多大な損失を被ったのは記憶に新しい事件であった。これら諸々のアメリカの為替政策は正に「ニクソンショック」が端緒であったといえよう。戦争とは違うがドル安という武器を使った為替戦争においてアメリカは日本を正に「失われた20年」に追いやったのである。米国大統領トランプ氏になろうがヒラリー・クリントン氏になろうが、アメリカの貿易・為替政策は変わらない。二人ともTPPにも反対である。
「失われた20年」を取り戻すべく導入された異次元の金融緩和策いわゆる「アベノミクス」は最初こそ株高や、アメリカ側が容認した円安による企業業績の回復が見られたが、もうすでに色あせて、「道半ば」(安倍首相)どころか日銀が目指す物価は上がらず、経済成長も殆どなくすでに3年半を経過してしまった。
本年4-6月の東証一部企業の決算では円安で儲かった昨年同期比と比べ20%の減益であった。4-6月の為替レートは108円であったのに対し、7-9月は平均レート102円あたりで推移しそうである。企業のさらなる業績悪化が懸念される。そうした中、7月29日に日銀はETFの買い入れ金額を年額3.3兆円から6兆円にまで引き上げると発表した。中銀が株を買い続けるというのはもともとの役割から大幅に逸脱することであるが年間6兆円の株を買う中銀とは気が狂った銀行としか言いようがない。政府は「金融緩和による経済成長政策は道半ば」と言い国民は選挙で支持したとなっているがどうか。
1945年8月15日日本は主な敵アメリカに負けた。それまでの大本営発表では「戦況は厳しいが決して負けてはいない」と国民に言い続けていた矢先の天皇による「ポツダム宣言受諾」の玉音放送であった。アベノミクスは「道半ば」と言いながらも殆ど結果が出ていない。8月15日にあたって勝てるあてもなく戦争を起こし敗戦した当時の一握りの人たちの決断と円安だけを頼りにするアベノミクスの金融戦略は成功することもなく多額の借金を国民に背負わせる結果だけを残す可能性が大きい政府・日銀の決断は似てはいないか。大本営発表には十分気を付けたほうが良い。
(了)
日本の政治経済の現状(16-15)人口が減少している日本では経済成長2%はありえない。
7月19日IMFはイギリス国民がEUからの離脱を選んだあと世界の経済成長率の見通しを発表した。主要国の成長見通しは
下記の通りである。
(2016年) (2017年)
世界全体 3.1% 3.14%
米国 2.2% 2,5%
英国 1.7% 1.3%
ドイツ 1.6% 1.2%
フランス 1.5% 1.2%
イタリア 0.9% 1.0%
日本 0.3% 0.1%
日本だけがダントツに低いのがわかる。
日本が400兆円を超える日銀による異次元の金融緩和策を2013年4月以来3年以上続けているにも関わらず日本の経済成長が先進国と比べかなり低くみられているのはなぜか。当然ながらGDPの60%以上を占める個人消費が増えないとみられているからである。
個人消費は人口が増え続ければ自然に増えることとなるが日本はここ7年間減少の一途をたどっているし、今後人口が増加に転ずる期待はあまりないのである。移民を増やせばどうかという議論は日本ではなじまないのは周知のとおりである。
7月13日総務省から発表された人口調査によると「日本の人口は2015年27万1834人減り、年単位の減少としては1968年以来最高の減少となった。そのうち自然減は28万6098人であり、総人口も7年連続の減少となった。」そうである。新生児であれ移民であれ増加すれば新しい消費意欲が起こり成長に寄与するが、毎年人口が減り続ければいくら日銀が紙幣を刷って市場にバラまいても政府・日銀が目指す2%成長達成はほとんど不可能といってよい。
世界の人口動態はどうなっているのか。一番新しい資料として、世界銀行(IBRD)が発表している2013年における210か国の人口増加率がある。それによると、人口が減少した国は23カ国で日本はー0.175%で210カ国中194位である。人口が減少している国は旧ソ連邦に属していたバルト3国やギリシャ、ポルトガルなど世界から見れば過疎地といえる地域にある国々である。
先進国の人口増加率は下記の通りである。
世界平均: 1.337%
米国 0.716%
イギリス 0.628%
ドイツ 0.243%
フランス 0.534%
イタリア 0.488%
カナダ 1.156%
スイス 1.053%
中国 0.494%
インド 1.242% インドの人口はあと数年で中国の人口を抜く
であろうと予測されている。
日本 ―0.175%
先進国の中では日本だけがマイナスである。
日本国内では、東京都や周辺の3県を除いて、地方の過疎化現象が顕著となっているが、世界の中で日本をみれば人口の減少という過疎化が進んでいるのである。そのような現状のなかで、7月13日政府は経済財政諮問会議を開き、今年度の成長率を1月に見込んだ1.7%から0.9%に下方修正した。それでもIMFの見通しとは0.6%も乖離しているのである。かなり無理な数字ではないか。年後半にはさらに下方修正しなければならないであろう。
異次元の金融緩和はアメリカのようにたとえ移民が増加したのであれ、人口が増加している国では有効であるが、日本のように7年連続人口が減少しており将来も減少し続けると予想されている国ではいくら中央銀行が札を刷ってばらまいても経済成長は期待できないのである。安倍政権がやろうが、民進党政権がやろうが人口が増加するという前提条件がない限り金融緩和をしても経済成長は望めないのである。
政府は経済緊急対策として20兆円(真水は3兆円)の補正予算を組むようであるが、すべてを人口が増加するような政策に回さない限り結果は税金の無駄使いとなるであろう。リニアに乗って名古屋まで行く人がそんなにいる筈がない。先日の8大都市の人気度調査では名古屋は群を抜いて人気が低かったのである。北陸新幹線もすでに乗車率が落ちてき期待したほどの経済効果はないようである。
人口が減少している国では、無理な金融緩和で成長を即すより配分に重きを置く政策が何よりも先に行われるべきと思う。東京都選挙では候補者は異口同音に待機児童ゼロとか保育士の待遇改善などを訴えているが、国が率先して予算を配分しなければ不可能であろう。(了)
日本の政治経済の現状(16-14)アベノミクスは道半ば?
安倍首相は参議院選挙戦の応援演説でアベノミクスは成功していると強調し「アベノミクスは道半ばであります。」と訴えていたが果たしてそうか?
アベノミクスを山登りに例えれば、その頂上まで登り詰めることがアベノミクスの成功=達成といえよう。目指す頂上には「デフレからの脱却」が聳え立っているのである。その頂上を征服するためにはいくつかの峰々があり、まずはその峰々を乗り越えなければならない。その峰迄安倍政権はどれほどたどり付いたのだろうか。
「道半ば」と言うならば、少なくともその峰々の半分でもすでに越えていなければそうは言えまい。
デフレ脱却という頂上まで登るために政府日銀は「異次元の金融緩和」なる登山道具一式を買いそろえた。つまり日銀が巨額の資金を市場に流入し円安・株高を示現するというツールであった。しかし、この道具は5合目までも登り切らないうちに外資の嵐にさらされボロボロとなり2合目あたり迄押戻されてしまっているのである。昨年8月ドル円125円・日経平均20900円超までは登ったが、現在為替102円台、日経平均15600円近辺でほとんど登山口まで降りてきてしまっているのである。
さて、越えるべき峰は、主なもので少なくとも4峰ある。それで初めて「デフレ脱却」の頂上に至るのである。
・物価上昇率 2% まだ山の麓にいるがいい塩梅に天気が悪いので登山を中止しようかと内心思っているのではないか。
日銀は当初2年間で(2015年までに)達成する方針であったが、現在物価上昇率はほとんどゼロに近い。
7月4日の日銀発表によれば、物価上昇率の予想は、
1年後(2017年)0.7%、
3年後(2018年)1.1%
5年後(2021年)1.1%
1兆8千億円も使うオリンピック開催があっても物価は上がらないと日銀は予想しているのだ。いつになったら物価は2%上昇するのか、もはや日銀が2%目標達成はできないと内心思っているのではないかと憶測しても不思議ではない。
・GDP 600兆円 2020年ころまでに達成。現在の500兆円から600兆円までに増やすというがその60%を占める消費が伸びてない。むしろ総消費はマイナス成長である。この峰は急峻で最後にはガレ場もあり並大抵ではない。
6月30日に発表された日銀短観は前回(3月)の数値と比べプラスとなったものはなかった。
-大規模製造業:DI 前回と同じ
―大規模非製造業: 前回比 -3ポイント
―宿泊・飲食サービス業 前回比 -11ポイント
―小売業 前回比 -7ポイント
ちなみにこの数字は英国の国民投票EU離脱の結果以前の数値である。今後円高が進めば大企業の業績悪化は否めない。
・消費税10%への引き上げ。すでに過去2回実施延長を行っている。民主野田首相と自民安倍総裁の約束は消費税10%への引き上げであったが、安倍政権になって2回延長している。特に、最後の延長の際は「新しい判断で延長すると言ったが良識ある国民はかなりの違和感を持ったに違いない。
この増税は本来、社会保障に充当するはずであったが、他に財源はあるのか。選挙戦ではこの点の論争がない。安倍内閣は消費税増税でも、いまだ登山道入り口で足踏みをしている状態なのである。消費増税の山登りをやめて法人減税をやめ、地方議会を含めた行政改革を断行する峰を新しく設定してはどうか。その峰のほうが国民の賛同を得て登りやすいであろう。
・行財政改革は全く進んでいない。財政改革で分かりやすいのは基礎的財政収支の健全化である。安倍内閣初期のころは 2020年までに黒字化(少なくともゼロ)との公約があったがいつの間にか言わなくなってしまった。消費税増税の延期や最近の円高による法人税収入の減収によってこのプライマリーバランスの峰も遠くなってしまったのか。行政改革に至っては峰に至る登頂ルートでさえ見つかっていないのが現状である。
まだいくつかの小さい峰もあるが上記した4峯を超えなければ最後の頂上には行き着かないのである。そのうち安倍首相は「新しい判断ではデフレ脱却は想定した主峰ではないので、新しい登山道具を装備してからまた登山を開始します」とでも言うのであろうか。今回の選挙はアベノミクスのこれまでの実績が一大争点であるべきと考える。
(了)