日本の政治経済状況(16-5)円高2題
2月11日建国の日、東京は良く晴れ上がり庶民にとっては良い休日になった。しかし、そんなのんびりとした日に海外からまたぞろ円高の情報が入ってきた。昨日115円がらみであった為替レートが日本が夜のうちに112円台まで円高になってしまったのである。午後1時09分のドル円は112.65円である。トヨタ自動車は1円為替が動くと約400億円の損益が上下するという。この2週間でトヨタの為替差損は約4000億円ということになる。その他輸出関連企業や海外に投資勘定を持つ国、銀行、生損保、年金、などの減損は計り知れないし、投資家は景気先行不安ということから株式・諸金融商品を売り逃げるに間違いない。こんな時政府は相変わらず「海外は悪いが日本のファンダメンタルはしっかりしているのでしばらく様子をみれば・・・」とでもいうのであろうか。石原新大臣の手腕・発言に注目したい。
(円高第1話)
ところで、グローバル大企業の円高による影響はグローバルであるだけに仕方ないとして、私が顧問をしている小企業(というより零細に近い従業員15名ほどの不動産調査・仲介で為替など全く関係ない企業である)の話である。
昨年11月初旬その会社の社長からある相談を受けた。以下社長と私との会話を披露する。
社長「いつもお世話になっている商工中金さんからドル預金の勧めがあるのですが、」
私「どんな内容なの」
社長「10万ドルを来年(2016年)2月29日まで約3月でいいから協力してくれというのです。なんでもドル預金獲得月間
とかで、うちに来る担当さんも成績を上げたいと言っているのです」
私「10万ドルというと今の為替122円50銭で計算すると総額1225万円になるよね。来年と言うと年末資金繰りは大丈夫か。」
社長「いや、総額は1230万円となります。為替手数料の50銭が入りますから。資金繰りはなんとか」
私「お世話になっている商工中金といえどもやめた方がいいですよ。もし社長が断れ切れないというなら、商工中金に確認すべき3点を詰めるべきです。為替差損は誰が持つのか。事前解約ができるのか。為替先物ヘッジが出来るのか」
社長「商工中金の担当者に電話してみます」
社長が電話を終わって商工中金との話を私に報告した。
社長「為替差損は私が持つのだそうです。事前解約はダメです。為替の先物予約もできない。と言っています」
私「それでは来年2月29日に123円より円高になっていれば損が出るし、途中で円安になっても解約や先物予約で損失を防ぐこともできない。相当不利な条件ですよ。絶対やめた方がいいですよ。」
社長「そうですね。でも商工中金の担当者は日銀がさらに手を打って円安になると言っているから大丈夫じゃないかと私は思っていますが」
私「商工中金の担当者はそう言うだけで損を負担してくれるわけではないでしょう。ま、商工中金との関係は社長が総合的に判断することだが相当危ない案件だね。」
商工中金と言えば政府系で中小企業向け融資を主に行う銀行である。政府・日銀が円高阻止のために商工中金を通じてやらせているドル買い(円売り)が裏にあると見てとった。年明けには例年多額のドルが企業や、が国債を持つ国などに配当や利子として送金され円高に振れやすい時期である。円高に振れやすいのは毎年のことであって日銀や金融関係者ならだれでも知っているドルの流入である。したがって年を越したドル預金を推奨させているなと読んだ。このような小さな企業にでもドル預金をやらせているのであれば、全国津津浦浦で商工中金のみならず地銀・信金などがお上の命令で銀行に立場が弱い(中には円高・円安が理解できない経営者もいる)中小企業にドル預金を強制して損失には責任を持たないという行為が行われているとみる。
11月中旬、1週間後の社長との会話。
社長「結局10万ドル預金しました。為替は手数料込みで123.20円でした。つまり1232万円を預けました。満期は来年2月29日です。商工中金はあまり心配はいらないと言っていました。当社のような小企業は3大銀行と取引が出来るわけがないし商工中金さんからの話は断りきれないです。そういうこともあり結局ドル預金お受けしました」
年が明けて、為替が徐々に円高傾向になり117円台になった1月末のある日
社長「商工中金の担当者から電話があって、円高になってきたからどうします。2月末から3ケ月延長できますが。どうしますか。と言ってきましたので、もう60万円以上損が出ていたので、ムカツとしていて、今は何も考えられないから後で電話すると返事をしました。」
私「ひどいね。謝りもしないのだね。こうなったら商工中金から1億円をマイナス1%の金利(手数料を受け取る)で借りてそのまま現金で置いておくよりほかに手がないね」
本日現在為替は112円台に突入し、この10万ドルの預金はごく少額(100ドル以下の)利息を受けるとはしても100万円以上の為替差損がでるリスクにさらされている。2月29日に123円以上円安に戻る可能性は殆どゼロでむしろ更なる円高で差損が拡大するリスクの方が大きい。アベノミクスの末端にある話である。
(円高第2話)
今日ガソリンを購入した。先週97円(レギュラー1リッター)であったのが102円である。ガソリンスタンドのお兄さんに「原油はまた27ドル台に下がって円は117円台から112円台までなっているのに何で5円も上がるの。」と聞いてみた「なんかー、上の方から言ってきたって店長が言ってました。」「上って誰、政府とか?」「なんか上です。僕じゃ分からないけど相当上らしい」
相当上なら、物価上昇を願う政府日銀か?と疑いたくなる変なガソリン価格上昇だ。ツイッターの投稿に「変だな。ガソリン上がってるー。なんで?もうしばらくクルマ、乗るのやめよう」というのがありました。しかしまた下がるだろう。何といっても供給過剰なのだからと思いながら帰ってきた。 (了)
日本の政治経済の現状(16-5)日銀によるマイナス金利導入 そのー2
2月9日、東京金融市場では激しい株売りドル売り円買いに見舞われた。日経平均は918円86銭安の16,085.46円に急落しリーマンショック以来の下落率であった。為替は一時1ドル=114円前半まで3円以上の円高が進み、午後3時現在114円70銭台で推移している。
一方長期金利(10年)は国債に資金が集中し史上初のマイナス金利 0.035%を示現した。
日銀がマイナス金利導入で狙った円安、株高と真逆の市場反応である。
1) 何故円高になったのか。いくつかの理由がある。
―ドル金利が予想に反して急落して、ドル円金利差拡大とはならなかった。ドル長期金利は2.2%台から1.6%台に下落。
―各国中銀の金利安=自国通貨安戦略の中で120円以上の円安は不当に安すぎるとの認識が市場にある。
―これまで120円以上の円安を維持して安倍政権を経済面で支援してきた米国側は新安保法が成立した今、さらに支援する必要がないと判断したこと。円高により株が下がっても次の参院選で野党があまりにも弱く自民党が勝つと米国側が判断している。
―今年に入って米国製造業の業績悪化が目立ち始め、その原因は過度なドル高にありとの米国産業界からの圧力。例えば共和党大統領候補トランプ氏は「日本のトヨタなどに米自動車産業は負けている。何とかすべき。」と主張していて選挙民の賛同する声も多い。
2) 何故株が急落しているのか。
―金利がマイナスになり利ざやが稼げなくなる大銀行や中小地銀の株が急落し日経平均の足を引っ張っている。
―グローバルな製造業が予期せぬ円高で16/3月期の業績が悪化している、あるいは業績予想の下方修正が出始めている。
野村証券の調査部によれば上場企業の今期の為替想定レートは118-119円であり、このまま推移すれば、16年3月期の業績はかなりな下方修正となる。さらに来期の業績も下がり、前期並みの配当が維持できるかとの懸念がある。
―海外要因。中国経済はしばらく低成長。好調であった米国経済停滞懸念。欧州の金融業を中心とした業績悪化。
―折角日銀、年金が株を買い上げても空売りなどで勝負する国内外のファンドの動きも株価下落の原因の一つである。
3) 各国中銀マイナス金利の現状。
日本より先にマイナス金利導入を実施している欧州ではマイナス金利はマンネリ化していて、日銀のマイナス金利導入は驚くほどの政策ではない。なお各国中銀の狙いは日銀と同様物価の安定的2%上昇である。
デンマーク -0.65% 2012年7月実施
EU -0.3% 2014年6月
スウェーデン -1.1% 2014年7月
スイス -0.75% 2014年12月
日本 -0.1% 2016年1月参戦
ECBドラギ総裁は「更なるマイナス金利導入を考えなければならない状況が迫っている。3月には実施の可能性がる。」と発言している。
黒田総裁も「今回の措置が十分でなければ更なるマイナス金利などの金融緩和策を考えなくてはならない」と言っている。
中銀間の金利下げ=自国為替安という「不毛な競争」に日本は陥ってしまったといえる。
4) 特記すべきことがある。
この株価下落でGPIFの運用益はアベノミクス実行以来の増加分のほとんどを失い差引ゼロかマイナスに転落している可能性がある。
さらに外国株に投資した分の目減りは日本株投資分より損失が増えたと思われる。世界の株価も急落しており、為替差損額も多大になっているはずである。GPIFは運用の結果を国民に速やか明らかにするべきであり、かつ内外株式投資を即刻中止すべきである。
5) 政府・日銀が今やるべきこと
日銀は物価2%上昇のためにマイナスまで金利を下げたり、ETFを買って株高を演出しようとすべきではない。ましてや、政府が600兆円GDP達成のためにGPIFの資金を株式市場につぎ込むのは全く見当違いである。物価上昇とその先に期待できる経済成長は庶民の消費意欲をいかに上げるかにかかっている。それにはまず成長を企図するより先に富を富裕層から一般消費者に配分することである。国民の90%は株が上がっても収入が増えるわけではなく、消費を増やすという気にもならないのである。強力な安倍政権なら経団連に賃金をもっと上げさせたり正規社員を増やさせたり、税制変更(今の税制改革は逆の方向に行っているので変更とする)、など容易にできるはずである。金融政策だけで経済成長が達成出来ないことはこの3年の経験で検証されたといえよう。
日銀が追いかけている物価2%上昇は、国民の所得格差是正によって達成できるのである。
アメリカの大統領予備選挙で民主党のバーニー・サンダース氏が所得格差是正や公立大学の学費無料化を主張して前評判の高かったヒラリー・クリントンに肉薄している。アメリカで「社会主義者」と刻印を張られた候補者がこれほど人気を得た例はない。格差が拡大している背景があるが日本でも格差を是正して低所得者の消費意欲を掻き立てる政策出動が結局は正しい道と思う。(了)
日本の政治経済の現状(16-4)日銀のマイナス金利導入
1月29日金曜日、日銀は「民間銀行からの預金の一定額以上に対する預金金利を0.1%からマイナス0.1%に引き下げる」との金融政策を発表した。日銀の狙いは日銀に滞留している資金を市場に逆流させ銀行融資の拡大や証券市場において短期的には年初以来下落していた株価のテコ入れと円高傾向の是正であり、長期的には物価の安定的な2%上昇であった。発表以来ちょうど一週間経ったがとりあえず株式相場、為替はどうなったか。
(日経平均終値) (前日比) (為替レート)
1月28日 17,041.45 円 118.80 円
1月29日 17,518.30 467.85円 121.30
2月 1日 17,865.23 346.93 120.90
2月 2日 17,750.68 ―114.55 119.90
2月 3日 17,191,25 ―559.43 117.88
2月 4日 17,044.99 -146.26 117.80
(備考)
為替レートはその日の午後5時現在のレート
1月29日の場中では18000円を超え600円超上がった。
2月4日の場中では250円さがり17000円を割り込んだ。
外資は1月29日のみ買越しでその他売越し(財務省による)
株式市場:結局は行って来いの相場であった。
日銀がマイナス金利を発表した1月29日と2月1日両日で株価が約810円(5%弱)も上がり、為替は約2円50銭円安に動いたのである。政府・日銀はとりあえずその成果に胸をなでおろしたというより、「どうだ、見てくれ」とばかりの思いではなかったか。しかし、マイナス金利導入は日本国内では驚きをもって迎えたが、海外ではすでにスイス、EUなどがマイナス金利を実施しており、結果として株価が上昇したり、物価が上昇しているという確証はないのである。
むしろ、この日銀のマイナス金利導入にほくそ笑んだのは内外の投機家たちである。昨年、何度か見たように株価を押上がると先物空売りや現物利益確定売りで儲けてきたのと同じ手口で投機家たちが一斉に最初は買い、800円あがったところで猛烈な売りを仕掛けた結果、結局は5日間前(マイナス金利導入日前)の値まで戻ってしまったのである。投機家たちにとってこんな美味しい短期で儲かるイベントはなかったのである。
為替相場:ほんの瞬間円安になったがむしろ円高に動いた。
日銀の狙いは金利を下げることにより、日米の金利差を拡大して円安に誘導することであったが、米国経済の先行き不安が出始めドルの長期金利が低下し日本の長期金利が0.15-0.20%下がったにもかかわらずドル・円金利差は拡大せず、一度121円迄下がったのに元の117円台まで戻ってしまったのである。
日本株を円安で買い円高で売る外資にとって格好の相場となってしまった。
今後はどうすべきか:
株式市場は同じことを繰り返すだけである。年金は国内外の株への投資配分を元に戻し、世界的に下降気味の株価が底値を打つまで追加の買いはやめるべきである。日銀がマイナス金利を導入しても年金資金を投入してもグローバル化した金融市場や原油市場を牛耳ることは不可能であることを政府・日銀は思い知るべきである。今週から上場企業の決算が発表されているが、鉄鋼、電機、機械などの企業の業績下振れが相次いでいて15年4QのGDPはマイナスとの予想が出ている。2月15日のGDPの数字によっては日経平均がさらに下押す可能性が高い。
マイナス金利は一度導入するとなかなか抜け出せない麻薬のようなもので、スイス等は0.1%から始めて現在は0.5%となっている。各国の金利安=自国通貨安競争をどこかで止ないと泥沼に入り込む恐れがある。黒田総裁は「今後必要となれば更なるマイナス金利導入もありうる」と講演で述べていたが本当に大丈夫か。物価2%上昇のカギは「成長より先に所得の配分を変える」ではないか。
政府は日銀の金融政策にばかり頼らず「負の循環」を断ち切る政策を急遽実施すべきである。例えばアメリカ大統領選の民主党バーニーサンダース氏が主張している「公立大学の授業料無料化」など日本で検討すべき課題であろう。日本であれば国公立大学、高等専門学校などを無料にしたらどうか。未来の成長のカギを握る若者たちが安心して教育を受けられる国にするのである。 (了)