クレイン・テクノロジー|技術をもっと、分かりやすく。|畑谷成郎 -10ページ目

第16回「冷やすともっと甘くなる」-温度による果糖の分子構造変化

今年の夏、皆さんはスイカをお食べになりましたか?そのスイカは甘かったですか?そしてよく冷えていましたか?

果物には冷やすと甘くなるものがあることをご存知でしょうか?

冷やした方が甘くなるかどうかは、果物に含まれる糖分の構成に依存します。「果物」の糖分というと「果糖」と短絡的に考えがちですが、「果」が付くからといって、果物の糖分は果糖だけではありません。ショ糖(蔗糖)やブドウ糖も含まれています。

果糖、ショ糖、ブドウ糖は、甘さの温度依存性に違いがあります。ショ糖とブドウ糖の甘さは温度に大きく依存することはなくほぼ一定ですが、果糖だけは温度によって甘さが大きく変化します[1]。

また甘さの強さも異なります。ショ糖の甘さを100とすると、ブドウ糖は温度によらず約60です。これに対して果糖は約80から約140まで温度によって甘さが大きく変化し、温度が低いときに甘さが強く感じられるようになります。

果糖はどうして温度によって甘さが変わるのでしょうか?これは果糖の分子構造が温度によって変化するためです。果糖には分子構造の違いからα型の果糖とβ型の果糖があります。人間はβ型の果糖に対してα型の果糖の約3倍の甘さを感じます[2,3]。

果糖の温度を下げていくと、α型の果糖がβ型の果糖に置き換わっていきます。温度を下げることで、果糖全体に占めるβ型の果糖の比率が増えることが、果糖の温度を下げると甘さが強くなる理由なのです。

果物を冷やすと甘くなるかどうかについていえば、冷やすと甘くなる果物は、果物に含まれる糖分のうち果糖の比率が高めのものです。例えば、ナシ、リンゴ、ブドウ、ビワ等が該当します。逆に、冷やしても甘さがあまり変わらない果物は、果糖の比率が低めのものです。例えば、モモ、カキ、ミカン、バナナ、パイナップル等が該当します[4]。皆さんのご経験と一致しているでしょうか?

さて、スイカですが果糖の比率が高めで前者に属するそうです。つまり、スイカは冷やした方が甘くなる果物ということになりますね。

目の前の果物が冷やして甘くなるかどうかについては、あまり深く考える必要はありません。果糖が少ない果物の糖分の多くを構成するショ糖やブドウ糖は温度によって甘さが変わらないだけ。分からないときは「ダメで元々」の気分でとにかく冷やしてみるとよいでしょう。

ただし冷やしすぎはよくありません。甘さに対する舌の感度は温度が低くなると鈍くなるそうです。冷やすといっても10度前後が適温とのこと。これからが季節のナシやリンゴは果糖の比率が高めの果物ですね。今年は意識して少し冷やして食べてみてはいかがでしょうか?

<関連リンク等>
[1]ニッスイ「温度や時間で変化する甘味」図表3
http://www.nissui.co.jp/academy/taste/01/images/chart_03.gif
http://www.nissui.co.jp/academy/taste/01/02.html
[2]農畜産業振興機構「砂糖類情報、砂糖のあれこれ」
http://sugar.lin.go.jp/tisiki/ti_0109.htm
[3]hexose: 炭素を6つもつ単糖
http://www.metabolome.jp/doc/lectures/biochem/sugar/hexose
[4]果物の種類と果糖の比率
http://www.meikavf.co.jp/heart/heart3-b-mametishiki3.htm
http://www.hyogo-c.ed.jp/~htgkyushoku/kensadayori/57.pdf
○ 関連キーワード:フルクトース、スクロース、グルコース、異性化糖