南域結界☆ ジェルソミーナ -5ページ目

1 人間の証明

   四章 人間の証明



 ――都市は、狂喜乱舞していた。
 この日の事を、『ロード帝都新聞』が、書いている。
「それはまるで、イリニアとの大戦に、もう勝利してしまったかのような」
 騒ぎだったと。

 昼夜関係なく花火が打ち上げられ、休む暇なく、楽隊が行進をしている。
 二つのパレードが城へ向けて進む度に、窓々から、街角から、船の上から、紙吹雪が舞い、人々がパストラルの旗を振って、歓声を上げている。そして間髪置かず、万歳三唱が繰り広げられる。

「第一先頭、ゲート・ミルビー通過しました」
 灰色の制服の、若い伝令担当が、警護隊長に伝える。
 この物見塔へ向かって、遠く、ミルビーの物見塔から、赤い手旗の合図が送られたのだ。
 双眼鏡で四方を監視しながら……伝令はまた、声を上げる。
「ビクシー通りの芸人達も、ようやく引き上げた模様です。第一先頭、五番ゲートに突入します。現在、進路に異常はありません」

 パレードの通過する大通り、グランガスタ皇帝通りは、五番目の門から大きくカーブして、この六番目の門、ゲート・ユンジャンに通じる。
 主要パレードの到来を察知して、すでに物見塔の下では、市民達が騒ぎ始めている。
「いいか、気を抜くな。いよいよ主賓様のお出ましだ。怪しい者がいないか、しっかり見張れー!」

 太い腕を振り上げて、警護隊長は部下達に、声をかけた。
 待ちかねていた市民達が、一斉に背伸びをし、頭の上で両手を打ち鳴らす。
 通りの脇にはロープが張られ、市民が乗り越えないように、兵士が等間隔に配備されていたが、その兵士達がとっさにロープを押しとどめる。

「パストラル帝国ばんざーいっ!」
 誰かの万歳三唱を機に、町中の人間が、万歳を唱える。
 屋根の上から、色とりどりの風船が打ち上げられ、テープが一斉に放たれた。
 教会の屋根によじ登って、青年達が、横断幕を振りかざす。

「エオリオ様、ばんざーいっ! ゲスタラード帝ばんざーいっ!」
 帝国旗を掲げた騎馬の将校が、急なカーブから、姿を現わした。
 大パレードの先頭を行くその後を、歩兵の楽隊、槍を持つ勇壮な騎馬将兵が続き、女官達の乗る貝殻で作られた馬車が数十、花の撒かれた通りを抜けていく。

 そして人々はいよいよ、その行進の、主役達を、目にすることができた。
「おかえりなさい、エオリオさまーっ!」
「おかえりなさい、勇者さまーっ!」

 誘拐されていた皇女エオリオは、屋根のない花馬車から、にこやかに、帝国民達へ手を振ってみせている。
 その斜め後ろへ、これも手を振り、つき従っているのは、華やかな武装をした将校、ジュンクリフ・メドバーである。
「ジュンクリフさまーっ、こっちを向いてーっ!」


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※アラスカからただいまです♪(´▽`)ノオーロラ、見えました。激写しました。-42度の世界は激寒で、日本がめちゃ温かく感じます^^

10 天使、わらう

 過去に何度も、キーツに殺されかかっているジェルソミーナは、呼吸を整えて、逃げまわることに決めた。
「結界師っ!」
 たちまち、後ろから、怒声が聞こえる。
(ひえええーん)
 小さな「悪霊」相手なら、どうにかなるに違いないと、改めて、魔法の印を切る。

「わたしの言う事が聞けないのか!」
「キーツ様っ!」
「なぜっ!」
「そんなあ……」
「じっとしていろと……!」
 群れを斬り払い、急所にとどめを刺した瞬間――。ふと、キーツは、口を閉ざした。

「キーツ様……?」
 結界玉に封じられ、小さな悪霊が、一匹ずつだが、壊され、消えていく。
 キーツは、背を向けたまま、動きを止めた。
「結界師」
 はい、とジェルソミーナは返事をした。
「お前には、わたしの姿が見えるのか?」

 思わず、宰相の顔を、凝視した。
 そしてすぐに。
 その言葉の意味に、思い当たった。

(……『魅了』の、力のことだ)
 ジェルソミーナは視線をそらし、消え入るように、返事をかえした。
「……はい……」
「そうか」
 剣を打ち払う気配がした。
 悪霊が、悲鳴を上げ、一つまた、消えた。

(私の、『リボン』の力だ……)
 ジェルソミーナは印を組み、背を向け、頭上の死霊を一つ破壊した。

 二人でいったい何百の、悪霊を倒したか、分からない。
 キーツはあれから、一言も、何も言わなくなった。
 彼が口を利かないので、ジェルソミーナもなんとなく、黙っている。

 密かに後ろを振り返ると、恐れも、疲れも知らないらしい彼の剣が、延々と……膨張しては増加する、悪霊達を切り裂いていく。
 が、ふと、キーツの剣が止まった。
「あっ!」
 ジェルソミーナはとっさに、地面の上に、身を伏せた。
 おびただしい銃撃音が、雑木林から頭上を、通過する。
 そしてみるみる間に、悪霊達は一掃された。
 悪霊を倒すことができるのだから、普通の銃を使ったのではないのだろう。

 ジェルソミーナは、おそるおそる、火薬臭い辺りを、見渡してみた。
 木の葉を踏みしめ、向かってくる、鎧の武者達がいる。
「……」
 キーツは佇んだまま、彼らに、向かい合う。

 武者達は立ち止まり、兜をぬぐと、騎馬の下に、一斉に片膝をついた。
「ロードより、お迎えに上がりました。閣下」
(親衛隊……)
 ジェルソミーナはそのまま、枯れ葉の上に突っ伏した。


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※作者、アラスカに行ってまいります。オーロラ見てきます(^^ゞ 次の更新は、2/3(金)
 4章がはじまりますよ♪ ジュンくんがーw
 いつも訪問、超☆ありがとうございます!(≧▽≦)

9 天使、わらう

「っ!」
 たちまちに、紫の霞が、体を取り囲んだ。
 恐怖に目を見開いた「悪霊」の顔が、次々に、彼女の額に飛び込んでくる。
 体中に、激痛と、痺れがはしり、途端。
 彼女は、息ができなくなった。
(……やめ……っ!)
「ぐおおおおおおーっ!」
 霞んでいく視界に最後に見えたのは、ゼバクロアが今まさに、彼女の頭上へ二本の半月刀を、振り下ろそうとしている場面だった。

(……っ!)
 ずん、と鈍い音がして、紫の血しぶきが、宙に舞った。

 ゼバクロアの胴体が、真っ二つに分かれ、ゆっくりと……
 宙と、地面を、弾け飛んで行く。

「キーツ……さま……?」
 わずかに振り返る宰相の目が、激しく、怒りに満ちている。
 低い、張り詰めた声が尋ねた。
「この程度のことで、何をやっている」
(本物……?)
 旅装のキーツがそこにいた。
 剣から、紫の血をしたたらせたまま、動きを止めない悪霊達へ、対峙している。

 ジェルソミーナはようやく、草の上から立ち上がりながら、
「キーツさま……どうして」
「お前は引っ込んでいろ」
「そんなこと……。できません、キーツ様ひとりに……」

 意識が遠ざかっている間に、悪霊達はどうやら、増殖していたらしい。
 巨大な塊になっていた数百の悪霊は、今や、もとの切れ端に戻って、何百、何千と、二人の頭上を浮遊している。

「お前には聞きたいことがある」
 渦を巻いて落下してくる悪霊達を、キーツは、一太刀で斬り払った。
 ジェルソミーナはとっさに、両手で、呪文の印を組もうとする。

「余計なことはするな!」
 背中側にいたのに、なぜ分かったのか、ジェルソミーナは手を止める。
「キーツさま……っ」
「余計なことはするな、と言った!」
「そんな事おっしゃっても……。私、大丈夫ですから」
「邪魔をするな! じっとしてろ!」

 頬の先を、剣がかすめ、ジェルソミーナは危うく飛びすさる。
(きゃああ……っ!)
 斜め後ろで死霊が砕け散った。
 確かに、つい先程は、自分の命を助けてくれたが、
(じっとしてたら、余計、命が危ないじゃないのっ!)


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