6-15 たぷん。
「彼らノマドは……」
思い出すように犬歯を見せながら、口を左右に引き絞り、
「太古の昔から、世界中を旅してまわり、世界中の知識を収集している。だから生半可な王立図書館や帝国資料館なんかより、よっぽど博学だ。しかも器用な連中で、器楽にダンス、曲芸馬術、織物工芸、数学錬金、なんでもできる」
「それから、黄金の箱を、宝物にしてらっしゃいますのよー」
立て続けにワイングラスを空にしながら、マリーナは花のような微笑を浮かべた。
3本目のコルクが、小気味よい音をして引き抜かれるが、彼女自ら液体を注ぐしなやかな指は、楽しげで、休む時を知らない。
「遠く遠く旅を続け、新しい土地に着く度、蓋を開く――。すると箱の中の小鳥が風の息吹を吐き出し、太陽が目を覚まして、新しい季節が地面へ運ばれる。そうして――小鳥は命をつなぐ」
マリーナは幸せそうに目を閉じ、
「……ソロモン王時代からの、伝承ですわぁー」
「ロマンがあるねぇ」
「ええ」
二人は同時に溜息をつく。
「……じゃあ……ノマドの、ティーナちゃんも……黄金の箱を?」
「さぁー。それは、分からないなぁ」
眠れる獅子は、薄くまぶたを開く。
タレ目がちの彼の瞳が、気だるそうに光っているのは、煖炉の赤い炎のせいだ。額にかかったクセっ毛の髪をそのままに、
「ノマドは基本的に、一箇所に長く留まることはしない。風と共にやってきて、すぐにどこかへ去っていく」
「箱の中の……小鳥のために?」
思い出すように犬歯を見せながら、口を左右に引き絞り、
「太古の昔から、世界中を旅してまわり、世界中の知識を収集している。だから生半可な王立図書館や帝国資料館なんかより、よっぽど博学だ。しかも器用な連中で、器楽にダンス、曲芸馬術、織物工芸、数学錬金、なんでもできる」
「それから、黄金の箱を、宝物にしてらっしゃいますのよー」
立て続けにワイングラスを空にしながら、マリーナは花のような微笑を浮かべた。
3本目のコルクが、小気味よい音をして引き抜かれるが、彼女自ら液体を注ぐしなやかな指は、楽しげで、休む時を知らない。
「遠く遠く旅を続け、新しい土地に着く度、蓋を開く――。すると箱の中の小鳥が風の息吹を吐き出し、太陽が目を覚まして、新しい季節が地面へ運ばれる。そうして――小鳥は命をつなぐ」
マリーナは幸せそうに目を閉じ、
「……ソロモン王時代からの、伝承ですわぁー」
「ロマンがあるねぇ」
「ええ」
二人は同時に溜息をつく。
「……じゃあ……ノマドの、ティーナちゃんも……黄金の箱を?」
「さぁー。それは、分からないなぁ」
眠れる獅子は、薄くまぶたを開く。
タレ目がちの彼の瞳が、気だるそうに光っているのは、煖炉の赤い炎のせいだ。額にかかったクセっ毛の髪をそのままに、
「ノマドは基本的に、一箇所に長く留まることはしない。風と共にやってきて、すぐにどこかへ去っていく」
「箱の中の……小鳥のために?」
6-14 たぷん。
なかなかお友達になれないティーナちゃん。
そのティーナちゃんと仲良しになれる、チャンスだったかもしれないのに。
そうマリーナに告げると、
「かなめさまは、李八ヶの研究にご執心なのさー」
大佐が、拳銃を磨きながら言う。
安楽椅子に背をあずけ、磨き残しがないかランプの光に確認しながら、
「だからお誘いしても、なかなかディナーにゃ来ちゃくれないだろう。東洋の仙術と陰陽術の合いの子、李八ヶの技……あの技の数式的な構造を解明することで、頭の中がいっぱいだ。合いの子は、西洋の異能革命なんかそっちのけで、過激な進化を遂げたからなあ……詳しく解明できたなら、これからの研究に役立つんだろ。あの子は研究者で、開発者だからな。新しい技の」
「けんきゅうしゃ……」
「うら若い乙女なのに、相当なキレ者だ、ってウワサだぜ」
「のまど……って言ってたけど……あれは……?」
「んーっ」
大佐は渋い顔をして、銃口でぼりぼりと、こめかみをかいた。危ない危ない。
「ノマドっていうのは、世界中を旅して回る、生き字引のような奴らだなあー」
澪は首をかし げる。えええと。意味がよく分かりません。
そのティーナちゃんと仲良しになれる、チャンスだったかもしれないのに。
そうマリーナに告げると、
「かなめさまは、李八ヶの研究にご執心なのさー」
大佐が、拳銃を磨きながら言う。
安楽椅子に背をあずけ、磨き残しがないかランプの光に確認しながら、
「だからお誘いしても、なかなかディナーにゃ来ちゃくれないだろう。東洋の仙術と陰陽術の合いの子、李八ヶの技……あの技の数式的な構造を解明することで、頭の中がいっぱいだ。合いの子は、西洋の異能革命なんかそっちのけで、過激な進化を遂げたからなあ……詳しく解明できたなら、これからの研究に役立つんだろ。あの子は研究者で、開発者だからな。新しい技の」
「けんきゅうしゃ……」
「うら若い乙女なのに、相当なキレ者だ、ってウワサだぜ」
「のまど……って言ってたけど……あれは……?」
「んーっ」
大佐は渋い顔をして、銃口でぼりぼりと、こめかみをかいた。危ない危ない。
「ノマドっていうのは、世界中を旅して回る、生き字引のような奴らだなあー」
澪は首をかし げる。えええと。意味がよく分かりません。
6-13 たぷん。
「あ……は、はい!」
とっさに箸を置き、かくかく、首を強く縦に振る。
「すっごく、優しくしてもらいました」
「あらぁ。よかったわあ」
細い目をいっそう細くして、マリーナは自分のことのように喜ぶ。
そして緊張している澪のために、あたためておいた皿を煖炉棚から持ってこさせると、自ら、スープを取り分けた。
ロウソクを灯した豪奢な食堂。
春キャベツとベーコンの、コンソメスープ。
白い湯気と、異国の香辛料の香りが、テーブルいっぱいに広がる。
(……わあ)
澪は上気したまま、注がれる、琥珀色の液体を見守っていた。
この学校は澪にとって、なにもかもが、夢のような舞台なのだ。
そしてなにより、澪が一番強く感動したのは、たくさんの子供たちが、同じ制服を着て、同じ場所に集まっている――ということだった。
澪の郷里には、澪の他に子供がいなかった。
遊んでくれる人はいつも、ずっと年上の人たちだった。
それはそれでとてもかわいがってもらえたし、穏やかで、幸せな日々ではあったのだけれど、ここに登校した初日から、さっそくクロやアーヴのような、ステキなお友達ができた。
(やっぱり……)
浅く椅子に腰をかけたまま、澪はもう一度考える。
(ティーナちゃんも、夕食にご招待できたらよかったなあ……)
今、最も、悔やまれるのはそのことだ。
とっさに箸を置き、かくかく、首を強く縦に振る。
「すっごく、優しくしてもらいました」
「あらぁ。よかったわあ」
細い目をいっそう細くして、マリーナは自分のことのように喜ぶ。
そして緊張している澪のために、あたためておいた皿を煖炉棚から持ってこさせると、自ら、スープを取り分けた。
ロウソクを灯した豪奢な食堂。
春キャベツとベーコンの、コンソメスープ。
白い湯気と、異国の香辛料の香りが、テーブルいっぱいに広がる。
(……わあ)
澪は上気したまま、注がれる、琥珀色の液体を見守っていた。
この学校は澪にとって、なにもかもが、夢のような舞台なのだ。
そしてなにより、澪が一番強く感動したのは、たくさんの子供たちが、同じ制服を着て、同じ場所に集まっている――ということだった。
澪の郷里には、澪の他に子供がいなかった。
遊んでくれる人はいつも、ずっと年上の人たちだった。
それはそれでとてもかわいがってもらえたし、穏やかで、幸せな日々ではあったのだけれど、ここに登校した初日から、さっそくクロやアーヴのような、ステキなお友達ができた。
(やっぱり……)
浅く椅子に腰をかけたまま、澪はもう一度考える。
(ティーナちゃんも、夕食にご招待できたらよかったなあ……)
今、最も、悔やまれるのはそのことだ。