南域結界☆ ジェルソミーナ -209ページ目

6-21 たぷん。

(あの、おにいさんのこと、考えちゃだめ……)
 うっかりすると湯煙の中、いつまでも考えてしまう。
 あの青年を眺めたのは、数分たらずのことだったのに――
(それから……ティーナちゃん!)
 気持ちを吹っ切るためにすがりついたのは、あろうことか、180度真逆の方向性をもった美少女のことだった。攻撃的で、破壊神。
 溢れんばかりの怒りでもって、澪をしつこく攻めてくる女の子。
(番頭さんは褒めてくれたんだけどな……「よく挑発に乗りませんでしたね」って。「全力を出させて、実力を試すんですよ」「異能を解析する研究者で、異能と機械と融合させる魔導技師、それがあの人の本当の顔」「それがあの人のやり方なんです」って。でも……)
「……ティーナちゃん」
 小さく呟く。
(挑発でもいいや……お友達になりたかったな……)
 大佐は、「ノマドは友達を作らない。だから友達になるのは難しい」と言ったけれど。
 明日は、仲良くなれるかな?

6-20 たぷん。

 今日は、学校登校の、初日。
 最初に出会ったのは番頭さん。
 それから、ティーナちゃん。クロちゃん。アーヴくん――
 そうそう。
 アーヴくんは、学校の地下を案内してくれたんだっけ。そこには大きな鳥カゴがあって、それから――そう。あの部屋の向こう……
(……あれ、誰だったんだろう……)
 棺の中の主。
 なにかを深く、思いつめたような――
 雰囲気のある、キレイなおにーさんだったな……。
 ぼんやり思い出しただけだったのに、澪の胸が、キュン、と痛くなった。
 心なしか、ガラス戸に映った自分の顔が赤い。
(うー……)
 なんとなく恥ずかしくなって、澪はお湯の中に顔をうずめる。
 ごぼごぼごぼ。
(マリーナ理事長や大佐なら、あの人のこと、知ってたかもしれないのに……)
 はじめて覚えた不思議な感覚をごまかすように、他のことを考えてみる。
(あ……でも。だめだめ!)
 澪はお湯の中で首を振る。
 アーヴくんと、地下のことは言わないって約束しているんだから。

6-19 たぷん。

 
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 たぷん……
 ローズマリーのお湯の香り。
 湯煙が、浴室を満たしている。
 天井は鉄骨と、ガラスのドーム。
 そこかしこにツタが生い茂り、石膏の女神像が、ランプの燭台を頭上へ高く掲げている。
 まるで植物園の温室――
 その中心に作られた、小さなプールほどある円形のバスタブに、澪はいた。
 マリーナの好みらしく、バスタブは広く、深い。
(今日は……たくさんのことがあったなあ……)
 ……たぷん。
 お湯が、揺れる。
 その音に、澪はうっすらと、意識を戻した。
 長い髪は全て頭上へ、結い上げている。
 白い頸筋も、桜色に染まっている。
 絹のような肌を伝う、水滴。
 もう、夜も遅い。
 寄宿舎の門限は過ぎているし、荷物を入れるにもみんなに挨拶をするにも遅すぎるから、今夜は理事長の住む別棟に、泊めてもらうことになったのだ。