11 漆黒の門番
「それで、『ペガサス』の呪いによって雪崩に巻き込まれ、石像に監禁された僕は、どうなるんですか?」
テントの隅。
ずっと黙っていた、最年少の少年が、おずおず手を挙げ、彼に質問した。
「うん? もちろん、助けてやるよ。ま、『外伝』で、だけどな」
「そんな……っ。僕は中尉をこんなに助けてきたのに、中尉はなぜ、すぐ、助けてくれないんですか! 「本編」で助けて下さいよ! 「外伝」は嫌です、今すぐ!」
「仕方ねーだろ、俺は忙しいんだ。……分かったよっ、睨むなよ。……くそっ。我侭な奴らだなーっ」
茶色いランプの明かりの中で、部下たちの表情が、暗く曇っていく。
ジュンクリフは、ノートの末尾を一枚、破り捨てた。
『
……それから「なんだかんだ」で、部下たちを助け出した男は、今や英雄となり、彼らの都、輝かしい帝都・ロードへ、帰って来た。(もちろん傍らには、彼の美しい婚約者、フィーネがいる。)
崖から見下ろす青い町、ロードの都は、新しい英雄の帰還を、心待ちに待っている。
彼はポケットから、あの形見の『ペンダント』を取り出すと、太陽にかざし、呟いた。
「お前と、一緒に戻れなかった事だけが、残念だ……」
そして部下の死を悼(いた)み、崖から川面へ、ペンダントを投げ捨てた。
さらば、美しい思い出……。
』
「ちょ、ちょっと! 故郷に連れて帰ってくれるんじゃなかったんですか、中尉っ! 「緑の丘」はどうなったんですかっ!」
「うるさい奴らだなあっ、そんなもんいちいち、覚えてんじゃねーよっ! 終わった話だろー。だいたい死んでるお前らが、今になって、文句言うんじゃねーっ!」
「それは中尉が……」
この瞬間、全ての部下が、この男に命を預けるのはイヤだと思ったに違いない。
「――それで最後が、中尉のおっしゃっていた『大パレード』なんですよねっ。僕達の出番は……?」
よせよ、もう聞きたくねえよ、と呟く仲間の囁きを振り切って、少年はもう一度、ためらいがちに聞いてみた。
「ああ、出番? もうない」
「ええーっ」
「えー? ……分かった。じゃあパレードで、英雄的扱いを受ける俺を、周りで褒めそやし、鐘や太鼓を打ち鳴らして、歩く役!」
「いやですよ、そんなのー」
砂利を踏みしめる音が、テントの外から、聞こえてきた。
ジュンクリフは、神業としか思えない動きで、ノートを隠し、自分の寝床に潜り込む。が、
「ジュンクリフ中尉!」
間に合わない。
入り口からランプが、無雑作に突っ込まれ、続いて特殊部隊・ネーブル補佐官の首が、
「いつまで起きているつもりですか、中尉! 明日は『魔龍』の棲む山に、登るっていうのに!」
嘘寝する中尉を、しっかりと、睨んだ。
「上官の許しも受けずに、我々、勝手に探索の旅に飛び出して来ちゃったんですからねっ。責任取って、ちゃんと働いて下さいよっ、分かりましたね、中尉っ!」
「……くそ。先が長いぜ」
「はい、それでは就寝!」
「よーし、寝るぞー!」
消灯。
>INDEX
テントの隅。
ずっと黙っていた、最年少の少年が、おずおず手を挙げ、彼に質問した。
「うん? もちろん、助けてやるよ。ま、『外伝』で、だけどな」
「そんな……っ。僕は中尉をこんなに助けてきたのに、中尉はなぜ、すぐ、助けてくれないんですか! 「本編」で助けて下さいよ! 「外伝」は嫌です、今すぐ!」
「仕方ねーだろ、俺は忙しいんだ。……分かったよっ、睨むなよ。……くそっ。我侭な奴らだなーっ」
茶色いランプの明かりの中で、部下たちの表情が、暗く曇っていく。
ジュンクリフは、ノートの末尾を一枚、破り捨てた。
『
……それから「なんだかんだ」で、部下たちを助け出した男は、今や英雄となり、彼らの都、輝かしい帝都・ロードへ、帰って来た。(もちろん傍らには、彼の美しい婚約者、フィーネがいる。)
崖から見下ろす青い町、ロードの都は、新しい英雄の帰還を、心待ちに待っている。
彼はポケットから、あの形見の『ペンダント』を取り出すと、太陽にかざし、呟いた。
「お前と、一緒に戻れなかった事だけが、残念だ……」
そして部下の死を悼(いた)み、崖から川面へ、ペンダントを投げ捨てた。
さらば、美しい思い出……。
』
「ちょ、ちょっと! 故郷に連れて帰ってくれるんじゃなかったんですか、中尉っ! 「緑の丘」はどうなったんですかっ!」
「うるさい奴らだなあっ、そんなもんいちいち、覚えてんじゃねーよっ! 終わった話だろー。だいたい死んでるお前らが、今になって、文句言うんじゃねーっ!」
「それは中尉が……」
この瞬間、全ての部下が、この男に命を預けるのはイヤだと思ったに違いない。
「――それで最後が、中尉のおっしゃっていた『大パレード』なんですよねっ。僕達の出番は……?」
よせよ、もう聞きたくねえよ、と呟く仲間の囁きを振り切って、少年はもう一度、ためらいがちに聞いてみた。
「ああ、出番? もうない」
「ええーっ」
「えー? ……分かった。じゃあパレードで、英雄的扱いを受ける俺を、周りで褒めそやし、鐘や太鼓を打ち鳴らして、歩く役!」
「いやですよ、そんなのー」
砂利を踏みしめる音が、テントの外から、聞こえてきた。
ジュンクリフは、神業としか思えない動きで、ノートを隠し、自分の寝床に潜り込む。が、
「ジュンクリフ中尉!」
間に合わない。
入り口からランプが、無雑作に突っ込まれ、続いて特殊部隊・ネーブル補佐官の首が、
「いつまで起きているつもりですか、中尉! 明日は『魔龍』の棲む山に、登るっていうのに!」
嘘寝する中尉を、しっかりと、睨んだ。
「上官の許しも受けずに、我々、勝手に探索の旅に飛び出して来ちゃったんですからねっ。責任取って、ちゃんと働いて下さいよっ、分かりましたね、中尉っ!」
「……くそ。先が長いぜ」
「はい、それでは就寝!」
「よーし、寝るぞー!」
消灯。
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10 漆黒の門番
凛々しい彼の腕に、駆け寄り、抱き寄せられた。
「フィーネ……無事だったか……」
「ジュンクリフさま……私、ずっとお待ちしておりましたの。でも怖くて……怖くて……」
たくましい胸に頬を寄せ、彼女は泣きじゃくる。
男は、艶やかな髪を優しくなぜて、
「大丈夫だよ。僕が来たから……」
「ジュンクリフさま……」
――』
「あほですな」
「あほ、って言うなーっ!」
「痛いっ!」
脚本の束で、ジュンクリフは、軍曹の頭を叩いた。
はずみに、空き缶の一つが、テントの隅にまで転がる。
「なにもぶたなくたって」
「あほはお前だ。人の恋路を、邪魔しやがって……っ」
睨みつけ、書き上げたばかりの「冒険物語」を、ようやく平らなノートに戻した。
毛布で寝ていた部下の一人が、横になったまま、頬杖をつき、
「で。ジュンクリフ中尉。何か大切なこと、忘れちゃいませんかー? 我々が助けに行くのは、お・ひ・め・さ・ま。エオリオ姫なんですよー。こんなにラブラブにしちゃって、何処に出すんですか」
ジュンクリフは、ノートを剣のようにして、ランプに集まる蛾を追い払っていたが、
「あっ、そっか。悪い悪い。えーっとじゃあ……。仕様がないなあ、姫様、ここで登場……っと!」
『
魔龍と残虐非道な魔法使いによって誘拐されていた、皇女・エオリオは、二人の様子を暖かいまなざしで見守っていたが、やがて互いの手を取り、
「ジュンクリフ、あなたの活躍には助けられてばかりです。お礼に、フィーネとの婚約を認めてあげましょう。さあガービン、二人の手を取って……」
』
「ちょっ、ちょっと待って下さい。なんでそこで、ガービン元帥が出て来るんですか! 元帥はロードにいるはずでは!」
眠っていたはずの部下が、跳ね起きた。
「元帥がー、皇女のことが気になってだなあ、後から追いかけて来られたんだよ。で、今になって追い付いたわけだ」
満足そうにうなずく中尉に、部下達は途端、沈黙した。
「それはいくらなんでも、無理があるのでは――」
勇気を奮って発言したのは、真っ先にカタツムリと共に、砂糖漬けにされて死ぬ役割の、男だった。
「だいたい、牢獄の『扉』に続く道は、あの「炎の吊り橋一本」だけだったんですよね? その吊り橋は『魔龍』と一緒に落ちちゃったのに、どうやって元帥がここに……」
「いや……っていうことは、全員、牢獄から帰る道がないって事じゃないですか。どうやって洞窟から、地上に帰るんですか、中尉っ」
「うるさいなあ、そんな事はどーにかなるもんなんだよーっ」
「どーにか、って……」
不満そうに部下達は、互いを見回す。
>INDEX
「フィーネ……無事だったか……」
「ジュンクリフさま……私、ずっとお待ちしておりましたの。でも怖くて……怖くて……」
たくましい胸に頬を寄せ、彼女は泣きじゃくる。
男は、艶やかな髪を優しくなぜて、
「大丈夫だよ。僕が来たから……」
「ジュンクリフさま……」
――』
「あほですな」
「あほ、って言うなーっ!」
「痛いっ!」
脚本の束で、ジュンクリフは、軍曹の頭を叩いた。
はずみに、空き缶の一つが、テントの隅にまで転がる。
「なにもぶたなくたって」
「あほはお前だ。人の恋路を、邪魔しやがって……っ」
睨みつけ、書き上げたばかりの「冒険物語」を、ようやく平らなノートに戻した。
毛布で寝ていた部下の一人が、横になったまま、頬杖をつき、
「で。ジュンクリフ中尉。何か大切なこと、忘れちゃいませんかー? 我々が助けに行くのは、お・ひ・め・さ・ま。エオリオ姫なんですよー。こんなにラブラブにしちゃって、何処に出すんですか」
ジュンクリフは、ノートを剣のようにして、ランプに集まる蛾を追い払っていたが、
「あっ、そっか。悪い悪い。えーっとじゃあ……。仕様がないなあ、姫様、ここで登場……っと!」
『
魔龍と残虐非道な魔法使いによって誘拐されていた、皇女・エオリオは、二人の様子を暖かいまなざしで見守っていたが、やがて互いの手を取り、
「ジュンクリフ、あなたの活躍には助けられてばかりです。お礼に、フィーネとの婚約を認めてあげましょう。さあガービン、二人の手を取って……」
』
「ちょっ、ちょっと待って下さい。なんでそこで、ガービン元帥が出て来るんですか! 元帥はロードにいるはずでは!」
眠っていたはずの部下が、跳ね起きた。
「元帥がー、皇女のことが気になってだなあ、後から追いかけて来られたんだよ。で、今になって追い付いたわけだ」
満足そうにうなずく中尉に、部下達は途端、沈黙した。
「それはいくらなんでも、無理があるのでは――」
勇気を奮って発言したのは、真っ先にカタツムリと共に、砂糖漬けにされて死ぬ役割の、男だった。
「だいたい、牢獄の『扉』に続く道は、あの「炎の吊り橋一本」だけだったんですよね? その吊り橋は『魔龍』と一緒に落ちちゃったのに、どうやって元帥がここに……」
「いや……っていうことは、全員、牢獄から帰る道がないって事じゃないですか。どうやって洞窟から、地上に帰るんですか、中尉っ」
「うるさいなあ、そんな事はどーにかなるもんなんだよーっ」
「どーにか、って……」
不満そうに部下達は、互いを見回す。
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9 漆黒の門番
>
それは、生ける者をすべて溶かす――
灼熱と黒炎の、「吊り橋」であった。
鋼鉄の手すりは、真っ赤に焼け爛れ、踏み板は、炎の海。
天井の岩肌は熱に溶け落ちて、休む暇なく、高熱のしずくを頭上へしたたり落としている。
――彼はたじろぎ、思わず、足元を覗き込んだ。
そこでは溶岩の海が渦を巻き、炎を噴き上げ、次の獲物を今や遅しと待ち構えている。
背後から、死にもの狂いで、『悪の魔龍』が迫ってきていた。
魔龍は、自分を瀕死の状態にまで追い込んだ、彼ら人間を呪い、この屈辱を晴らさんと最後の力を振り絞って、彼の背中を追い駆けてきているのだ。
洞窟の壁に、無数の裂け目が疾(はし)りだす。
(……躊躇している暇はない)
小さく見えるあの扉の向こうに、捕らえれた『姫君』が待っている。
だが、そこへ通じる唯一の道は、この灼熱の吊り橋しかないのだ。
彼は、息を大きく吸い、首にかけたペンダントを強く、胸に押し当てた。
それは、この苦しい戦いの最中、命を落とした愛すべき部下の形見だった。
……あの時、彼は部下の手を取り、誓ったのだ。
「この形見は必ず、君の故郷に届けよう。あの「緑の小さな丘」の頂きで、君は安らかに眠るのだ」
と――。
(――死んでいった友の死を、無駄にしたくはない――)
彼にはもう、地位も、名誉も、報酬も。どうでもよくなっていた。
ただ彼を頼みにし、死んでいった部下達が、どれほど無念だったろうと……それだけが辛くてならなかった。
彼は、『灼熱の橋』に、一歩足を、踏み出そうとした。
その瞬間、無防備な背中を爪が襲った。
男は、剣を抜き放ち、危うい態勢でそれをかわし、龍の喉へ切り込んだ。
息を殺して、いつの間にか、魔龍が背後へ、にじり寄っていたのである。
魔龍は長い首を一振りし、人間の攻撃を寄せ付けない。
黒い鱗に、電流が走る。
力を込めた首筋に、オーラが噴出し、やおら、熱い炎が、男に向かって吐き出される。
男は咄嗟に、吊り橋に足を踏み入れた。
炎が容赦なく、足を焦がす。
彼は、対岸へ走ろうとした――が、魔龍がそうはさせない。
怒り狂った魔龍は、橋ごと彼を、溶岩の海へ落とそうとしたのだ。
脳裡をかすめる部下達の顔。
夢を語り合った、星空の森。
……彼は無我夢中で、あの「精霊の老人」から教わった言葉を叫んだ。
刹那、緑色の風が、空中に巻き起こり。
一つの渦は男を。もう一つの渦は今まさに、爪を橋へ掛けようとする『魔龍』を、飲み込んだ。
魔龍は、翼を開こうとする。
しかし、風はそれを抑え込む。
そして渦は、魔龍を橋ごと、溶岩の海へ引きずり落とした。
男は、渦に巻かれながら、悶え苦しむ龍の目が――赤く、憎しみに染まり、やがてゆっくりと、炎の底に沈んでいくのを見た。
彼はもう一言、呪文を唱えた。ここに留まっていてはいけない。
早く、囚われ人を助けなければ。
彼は、対岸に降り立ち、『扉』を、渾身の力で押し開いた。
扉はその瞬間を待っていたかのように、音もなく、左右に開く。
そして彼は、眩しい光の輪を、前方に見た。
「フィーネ……」
これほど、美しい娘を見たことがあっただろうか。
娘は彼の姿に気付き、やがて、両眼に涙をにじませ、
「ジュンクリフさま……っ!」
>INDEX
それは、生ける者をすべて溶かす――
灼熱と黒炎の、「吊り橋」であった。
鋼鉄の手すりは、真っ赤に焼け爛れ、踏み板は、炎の海。
天井の岩肌は熱に溶け落ちて、休む暇なく、高熱のしずくを頭上へしたたり落としている。
――彼はたじろぎ、思わず、足元を覗き込んだ。
そこでは溶岩の海が渦を巻き、炎を噴き上げ、次の獲物を今や遅しと待ち構えている。
背後から、死にもの狂いで、『悪の魔龍』が迫ってきていた。
魔龍は、自分を瀕死の状態にまで追い込んだ、彼ら人間を呪い、この屈辱を晴らさんと最後の力を振り絞って、彼の背中を追い駆けてきているのだ。
洞窟の壁に、無数の裂け目が疾(はし)りだす。
(……躊躇している暇はない)
小さく見えるあの扉の向こうに、捕らえれた『姫君』が待っている。
だが、そこへ通じる唯一の道は、この灼熱の吊り橋しかないのだ。
彼は、息を大きく吸い、首にかけたペンダントを強く、胸に押し当てた。
それは、この苦しい戦いの最中、命を落とした愛すべき部下の形見だった。
……あの時、彼は部下の手を取り、誓ったのだ。
「この形見は必ず、君の故郷に届けよう。あの「緑の小さな丘」の頂きで、君は安らかに眠るのだ」
と――。
(――死んでいった友の死を、無駄にしたくはない――)
彼にはもう、地位も、名誉も、報酬も。どうでもよくなっていた。
ただ彼を頼みにし、死んでいった部下達が、どれほど無念だったろうと……それだけが辛くてならなかった。
彼は、『灼熱の橋』に、一歩足を、踏み出そうとした。
その瞬間、無防備な背中を爪が襲った。
男は、剣を抜き放ち、危うい態勢でそれをかわし、龍の喉へ切り込んだ。
息を殺して、いつの間にか、魔龍が背後へ、にじり寄っていたのである。
魔龍は長い首を一振りし、人間の攻撃を寄せ付けない。
黒い鱗に、電流が走る。
力を込めた首筋に、オーラが噴出し、やおら、熱い炎が、男に向かって吐き出される。
男は咄嗟に、吊り橋に足を踏み入れた。
炎が容赦なく、足を焦がす。
彼は、対岸へ走ろうとした――が、魔龍がそうはさせない。
怒り狂った魔龍は、橋ごと彼を、溶岩の海へ落とそうとしたのだ。
脳裡をかすめる部下達の顔。
夢を語り合った、星空の森。
……彼は無我夢中で、あの「精霊の老人」から教わった言葉を叫んだ。
刹那、緑色の風が、空中に巻き起こり。
一つの渦は男を。もう一つの渦は今まさに、爪を橋へ掛けようとする『魔龍』を、飲み込んだ。
魔龍は、翼を開こうとする。
しかし、風はそれを抑え込む。
そして渦は、魔龍を橋ごと、溶岩の海へ引きずり落とした。
男は、渦に巻かれながら、悶え苦しむ龍の目が――赤く、憎しみに染まり、やがてゆっくりと、炎の底に沈んでいくのを見た。
彼はもう一言、呪文を唱えた。ここに留まっていてはいけない。
早く、囚われ人を助けなければ。
彼は、対岸に降り立ち、『扉』を、渾身の力で押し開いた。
扉はその瞬間を待っていたかのように、音もなく、左右に開く。
そして彼は、眩しい光の輪を、前方に見た。
「フィーネ……」
これほど、美しい娘を見たことがあっただろうか。
娘は彼の姿に気付き、やがて、両眼に涙をにじませ、
「ジュンクリフさま……っ!」
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