退屈だからスマホをやめた

近所の本屋で嗅いだ新書の匂い

題名だけで浮かべる空想の世界

現金で何冊か購入した

 

空腹だからファストフードをやめた

近くのパン屋で味わった素朴さは

全身に染み入っていくようだった

公園の樹々が楽しげに揺れた

 

何かを提唱したい訳じゃなく

誰かに主義を見せるでもなく

たまには時間を身体で感じてみたいんだ

日が傾き家の灯りに浸れば

音信不通だった今日一日の事を

おそらく家族は心配するだろうが

 

 

 

 

 

産まれたての天使が歩き出した日には

宇宙のどこかで爆発が起きて

幾つかの魂が燃え尽きた

 

天使の背中がうずいた日には

迷える天才の交響曲が奏でられ

幾つかの楽曲が消滅した

 

空を飛び始めた天使は

偉人達のバトンが輪になっているのを知り

神様に彼らと仲間になる方法を教わった

 

弓矢を持ったり

光の洞窟に住んだり

時には悪魔と呼ばれる難敵に立ち向かった

 

そして輪の正体が誰かの優しさだと気付いた時

眠る祖先の前で泣いていた

 

その日から笑う事も覚えた

 

 

 

 

 

家庭に人手不足という概念はないのに

忙しさを人数分の弁当箱に詰め込む

首振る扇風機の前で宇宙人の声を耳にしては

時計を見なさいといつも背中を押す

 

好きな読書は最近

真ん中を百頁捨てたような読み方で

哲学者の名言でも眺めているような

一言だけが脳裏に焼きついた

 

不条理に倣えば 周りの音が変わる

不条理に倣えば 空の色が変わる

不条理に倣えば 月の灯が変わる

不条理に倣えば 心の声が変わる

 

奇しくも世界を救っているこの概念は

私の未来を操っているに違いない

 

 

 

 

 

肌を巻くような湿気が

風鈴の音も暑さに変える

太陽にはしゃぐ人は決まって

雨の日には暇を持て余す

 

雨を待つ人は何を想うのか

新しい傘を広げ

地面を叩く粒の音を聴き

羽を授かる車を見ながら

止むのを待つのではなく

雨に打たれてみるのだという

 

それはまるで

愛から憎しみが

嘘から真実が

生まれる発想と酷似している

 

 

 

 

 

熟れた葡萄を探せずに畑の中を彷徨って

ひと粒かじってみたならばワインを飲んだ気がした

僕の部屋の扉を二度と開けなかったあの娘は

お酒な苦手な僕の前でよくワインの瓶は空けていた

思い出の中の渋い記憶だけに弦巻いて育つ

低木から成る葡萄の果実は

誰にでも手の届く位置にあるから

情けない感情にいつも苛まれてしまう

空腹の子供ではあるまいし

 

葡萄の種類や味と同じくらい

人間の心にも感情と形があるから

ワインを克服しようと努力した僕を責める前に

葡萄は好きだと言えたらよかった

 

 

 

 

 

「私が出かける日はいつも晴れ」晴子と

「僕が出かける日はいつも雨」雨夫の家に

お邪魔することになった時のこと

 

家に帰った雨夫は私を叩いた

どうやら雨で遠足が中止になったらしい

「役立たず」というレッテルを貼られ逆さ吊りになった

すると晴子は雨夫の頭を叩き

「今日くらい雨でいいじゃない、大事なのは日曜日」と云った

二人が喧嘩をしている夜だけ晴れた

 

次の日は朝から急に雨が降った

晴子が泣き出したら雨夫は笑った

「昨日の罰が当たっただけだ」と云う

二人とも私を睨みつけて床に叩きつけた

 

土曜日の夜更け

お婆ちゃんが私の友達を呼んだ

どうやら明日は年に一度の家族旅行らしい

私は彼女に優しく笑いかけたことで

朝まで濡れずに過ごすことができた

 

 

 

 

 

紙袋いっぱいのオレンジを

抱えて下る近所の坂道

西洋の映画を見すぎたせいか

わざと躓いてすべて転がしてみた

 

オレンジの徒競走が始まった

いつも吠えている犬のもとへ

前を歩くおじさんのもとへ

帰宅途中の学生のもとへ

坂を駆け上がる少年のもとへ

突きあたりの道の壁のもとへ

 

拾い上げるとみんな

坂の頂上にいる私のもとへ

申し訳ないのでここで食べようかと伝え

皮を剝いてかじってみる

 

明日からは素直に笑える気がした

夕陽を食べてしまったみたいだ

 

 

 

 

 

 

 

十年振りに見るオホーツクの海は

広くなった心を映し出すようだ

行く先々は時代の波に呑まれ

思い出補正がかかり旅の余白を埋める

お天道様が雨から逃してくれたおかげで

予期せぬ気温に子供の汗が弾け

初めて飲む地酒にいつもの脳が目覚める

 

風が優しく感じられたのは

心の言葉が丸みを帯びてきたから

それは地球の形を意味していて

それは人間に在り方を意味していて

そしていつの日かまた訪れたなら

空への階段を少し上った場所で

同じ事を思い浮かべるのだろう

 

 

 

 

 

生まれ変わった自分を責めたら

凄惨極まりない念に駆られる

本物だけが羽化しない世界だから

美しく舞う蝶々に出会える

 

柳の木の下で落ち合う魂は

よくある幸せの方角には進まず

支配者眠る街の中を

はしゃぎ回っては存在の価値を知る

 

短冊に願い事以外を記し

織姫と彦星を困らせたとしても

太陽が必ず迎えにやって来るから

日常の強さと儚さを思い描く

 

虹が出てる青空の下

枝垂れ柳に短冊揺れる

次第に舞い踊るだろう

蝶々の群れに幻影を重ねて

 

 

 

 

 

百円玉が九枚 左のポケットに

机の上 豚さん貯金箱からの頂き物

漫画を買おうか ゲームをしようか

商店街の中を旅する男

お祭りならきじでも引きたいとこだが

今日は何でもない黄昏時さ

夕食の匂いが風にまとわりついて

百円玉が一枚 肉屋さんのコロッケに変わった

柄にもない食し方で頬張ってみせて

本屋さんで漫画を五百円で買った

そういえば今夜お父さんが早く帰って来るんだった

夏休みみたいだな 喉が渇いてきた

八百屋さんで大きなスイカが半額で千円だ

それにすればよかったと思ったけど

手持ち九百円よりその前に一人じゃ重くて持てないや

夏休みの初日はみんなでスイカを食べようと

帰って残りの三百円を豚さんの口に入れたら

なんだか嬉しそうな顔しやがった