前回の答である。設問については前回投稿を参照されたい。
Involvement in the Middle Eastという見出しの訳について、ヒントとして出した以下の見出しの流れを提示しておいたが、それに小生の当初の訳を付す:
The Mediterranean Theatre(地中海戦域の動向)
↓
Mediterranean Theatre, 1940-1942(地中海の戦い:1940~42年)
↓
Axis Problems(枢軸側の弱味)
↓
Involvement in the Middle East(?)
↓
Preparations for El Alamein(エルアラメイン総反抗前夜)
若干意訳のし過ぎがあったかもしれないが、この流れを辿ってみれば、監訳者が(?)に付した「中東情勢」という訳が、如何に話の内容を反映していないものかが分かるであろう。
次に、見出しが包摂する箇所の一部抜粋を「Involvementの主体が何かを考えよ」との更なるヒントと共に出しておいたが、以下のような訳となる:
This fourth phase of operations in mid-1942 saw the low point of British fortunes in the Second World War. After two years’ fighting in this theatre . . . (一九四二年中頃にあたる第四期は、英国にとっては第二次世界大戦中最悪の時期であった。この方面で二年間にわたって戦い続け、・・・)
The extent of Axis strategic failure even in this period of overall success was even greater than indicated on the Alamein battlefield in July because at this time of crisis for the 8th Army two factors worked to British advantage. First, . . . (エル・アラメインの戦場では枢軸側が全般的に押し気味で、英第八軍が危機的状況に直面していたこの七月の段階でさえも、戦略面では、枢軸側の戦場での戦果を打ち消して余りあるぐらい英国を利することとなる二つの事態が進行していたのである。第一は、・・・)Second, the Americans undertook two actions to help their allies at this time of defeat. . . . (第二に、この方面で連合国側の頽勢が目立っていた時期に、米国が二つの支援措置に踏み切ったこと。)On the nineteenth the U.S. army activated its Middle East headquarters in Cairo, and two days later American bombers attacked Benghazi for the first time.(十九日に米陸軍はカイロに中東派遣軍司令部を設置し、その二日後には米軍爆撃機によるベンガジへの初空襲が行われる。)
これを読めば、Involvement in the Middle Eastの主体が「米国」であることは明白であろう。1942年の夏から秋にかけての地中海・北アフリカ戦線では、ロンメルのアフリカ軍団がエジプトに侵入したりして枢軸側が優勢であったように見受けられるが、連合軍側が着々と反攻の準備を進めており、取り分け重要だったのは米軍がこの戦域に参入[involve]してきたことだったという論旨である。
こういった点を斟酌して小生は、この見出しを「米国の中東戦域への参入」と訳しておいた。内容から見ても、前述の見出しの流れから見ても、読者はすんなりと読めるのではなかろうか?
では、何故、監訳者は「中東情勢」といった訳を付したのであろうか?恐らく、内容を深く読まずに、見出しだけを横着して訳そうと試み、その際にinvolvementの訳に困って、無難な訳にしようとしたのであろう。
なお、飽くまで小生の推測ではあるが、原著者はこの見出しをU.S. Involvement in the Middle Eastとするつもりだったのが、それを付し忘れ、それが編集段階でも見過ごされたのではなかろうか?
このように推測するのは、この原著には、この類の誤りが多々見かけられるからである。同様な事例については、今後幾つか触れる機会があるであろう。