前回は、French Armisticeなる見出しを如何に訳すかとの問を発し、ヒントとして、
①文章調に訳すこと、
②この見出しが包摂する部分には、
. . . it was the speed of the armoured advances into France that after the ninth rendered the French military situation utterly impossible and which made the French request for an armistice only a matter of time.
The French plenipotentiaries at Réthondes signed the armistice terms on the twenty-second, the ceasefire coming into effect shortly after midnight on 25 June.
という文章があることを指摘しておいた。
設問の性質上、正解を一つに限定する必要はなく、飽くまで参考例としてだが、小生は元の訳では、
(イ)「フランスの休戦協定受諾」
としておいた。
ところが、これを監訳者は初校の段階で、
(ロ)「休戦を乞うフランス」
と直していた。
いずれが適当であろうか?
新聞の見出しを考えてみると良いが、(イ)のような体言止め、そして(ロ)のような「乞う」といった終止形いずれでも、既に完了した動作・行動を示すのが原則であり、この点では日本語でも英語でも同じである。(英語の場合は動詞の現在形)
つまり、(イ)では「フランスが休戦協定を受諾した」という段階まで、(ロ)では「フランスが休戦を乞うた」時点までが完了したことになる。実際には、どちらであったか?ここで抜粋部分の出番であるが、和訳すれば以下のようになる:
(a) . . . it was the speed of the armoured advances into France that after the ninth rendered the French military situation utterly impossible and which made the French request for an armistice only a matter of time.(六月九日以降に独機甲部隊が見せた迅速な進撃ぶり故に、フランス側にとって戦勢がどうにもならないものとなり、休戦を請うのが時間の問題となっていった)
(b) The French plenipotentiaries at Réthondes signed the armistice terms on the twenty-second, the ceasefire coming into effect shortly after midnight on 25 June.
(フランスの全権代表は二十二日にルトンドで停戦協定に署名し、協定は六月二十五日深夜過ぎに発効した。)
即ち、French Armisticeで括られる部分では、(a)「フランスが休戦協定を乞うた」ことのみならず、(b0「フランスが休戦協定を受諾した」ことまでもが語られているのである。
となれば、小生の元の訳である「フランスの休戦協定受諾」の方が内容をより良く反映していたのは明らかである。
監訳者は、何故このような修正をしたのであろうか?
考えられることは、監訳者が(a)だけを読んで残りの部分を読まないという「閑訳」をしたことであろうか?
なお、上記の訳は小生の当初の訳のママで、「請う」は「乞う」とすべきものを小生が間違えたものであり、この点は認める。
恐らく、監訳者は小生の訳のこの部分だけは読み、この誤字に気が付いたのであろう。そして、これを修正することのみに意識を集中して、小生の見出しを修正したのではあるまいか?
これが「木を見て森を見ざる」といった類の修正であることは間違いない。厳に戒めたい。