陸軍スパナは大阪鍛工

 

陸軍のスパナを見つけていたものの、どこ製なのか特定できずにいました。

海軍向けは既に京都機械の発動機整備用スパナが5機種で見つかっているのに、陸軍向けは製造会社が分からず、残念に思っていました。

それが、既に入手していた陸軍スパナが、"大阪鍛工"製と分かったのです。

なんと、大阪鍛工は、陸軍航空本部の指定工場でした。

京都機械が海軍航空本部の指定工場だったのと同じで、その陸軍版です。

スパナの正体は、陸軍向け三菱重工發動機の整備要具でした。(五式戦闘機向け等)

これで海軍と陸軍共に工具の製造会社が分かり、日本軍の工具探しは一息付けたと思っています。

 

I have found that Osaka Tanko had made the repair tools for Japanese Army as the designated factory of the Army Aviation Headquarter.

Attached photo is the open end wrench made by them for the engine by Mitsubishi Heavy Industry. (JM:Mitsubishi Jyuko)

Now that I know the manufacturers of the tools for both the Navy and the Army, I think the search for the Japanese military tools has been put to rest.

 

 

1.製造元探しの顛末

見つかっていたのは14mmの片口スパナ。

とてもかっちりとした出来で、パッと見には1960年~80年製に見えます。

刻印は3種類、印とJM品番とT&Oらしきマーク。

  

 

1)どこ向け?

この印から陸軍向けと分かります。

ちなみに、海軍は桜印。

 

2)何用?

品番はJM-4174。

このJM品番は、陸軍のハ101(火星相当)/九七式重爆撃機と、海軍の瑞星製/九四式水上偵察機の整備要領書に登場しています。

火星と瑞星は共に三菱重工製の發動機です。

したがい、"JM"は三菱重工の略なのだと思います。

素直に"MJ"ではないことは気になりますが。

↑海軍の瑞製/九四式水上偵察機向け

 

ただし、ハ101(火星相当)が昭和17年4月の正式採用に対し、同じ三菱重工の陸軍向けハ26(瑞星相当)は昭和15年9月の正式採用ですが、このハ26(瑞製相当)發動機説明書にはJM品番は登場せず、"工"と"ヤ"に2桁数字になっています。

("工"は工場整備工具、"ヤ"は野外整備工具)

このことより、JM品番は昭和16年や17年以降に使われたものと推測しています。

※ハ101(火星)とハ26(瑞星)の詳細は、当ブログ内のこちら、➈と➉。

 

ハ101(火星相当)にはJM-4170、71、73、76~80が設定されています。

残念ながら、ひとつ若い番号のJM-4173を含め近隣の番号はあるものの、JM-4174そのものはありません。

このことより、ハ101(火星相当)/九七式重爆撃機ではなく、その後の三菱重工發動機であるハ112(金星相当)/五式戦闘機に使用されていた可能性も考えられます。

したがい、ハ101(火星相当)以降の三菱重工發動機に設定されたスパナと理解すれば良いと考えています。(九七式重爆撃機や五式戦闘機、飛龍、百式司令部偵察機)

 

↓ハ101(火星相当)の發動機説明書より

 

なお、同じ三菱重工の発動機ながら海軍の火星用工具は関西スピンドル製になっています。("関西スピンドル"と明記された工具箱が見つかっています)

同じ三菱重工の発動機なので、工具メーカーも同じだろうと考えてしまいますが、そこは陸軍と海軍がなかなか連携できていなかったことを考えると、工具メーカーが異なっていても不思議ではありません。

なんと言っても、同じドイツ製エンジン(液冷V12/海軍アツタと陸軍飛燕向け)のライセンス生産権を取得するのに陸軍と海軍は別々に契約しているのですから。

 

3)製造元?

問題なのが、このT&Oらしきマークです。

海軍にはYC(海軍工廠/横須賀)やAC(愛知航空機)を合体させた製造者記号がありますので、このT&Oも製造元を示しているのではないかと考えました。

当初は小野逞三商店(Ono Teizou)/小野製作所を想定しました。

小野逞三商店は戦前から大阪鉄鋼業界で名を馳せていて、その製造会社である小野製作所は戦後もブランドCARLとして活躍していたメーカーです。

T&Oをあしらった会社マークが使われている戦時中の広告も見つけました。

ここで、はたと考えて、T&Oなら大阪鍛工だってそうではないかと思ったのです。

なんと言っても、三菱重工・航空機部門のお膝元である名古屋に工場を持ち、かつスパナを得意とし実力のある工具メーカーなのです。

そう言えば、大阪鍛工は戦前からのメーカーと分かってはいましたが、戦前のことを調べていないと気づき、猛然と情報を探しまくりました。

そうしたら、見つけました。

1942年の広告に『陸軍航空本部・指定工場』と謳われているのです。

マークもTとOの組み合わせです。

この2点(陸軍航空本部・指定工場とT&Oマーク)より、このスパナは大阪鍛工製と特定して良いだろうと思います。

↑1942年『中央工業大観』

同じT&Oマークながら、戦後に使われている  と、陸軍向けの  でちょっと差があります。

これは軍向けと一般市販向け、または戦前と戦後の差と考えれば良いでしょう。

ちなみに、大阪鍛工は型鍛造の専門メーカーとして1939年に創業し、創業時から航空機部品ならびに機械工具の生産を目的としていました。

さらに、戦後に入り、1952年にいち早くスパナでJISを取得するなど1981年まで多くの黒色スパナを生産販売していました。(1981年に製造から撤退して工具商社に衣替え) 

※大阪鍛工の詳細は、当ブログ内のこちらにて。

 

↑『官報』での創業報告、昭和14年/1939年6月30日付け

 

【参考-1】整備工具が大阪鍛工製の可能性がある陸軍機(三菱重工発動機搭載)

ハ101(火星相当)/九七式重爆撃機

 

・ハ112(金星相当)/五式戦闘機

 

・ハ104(金星相当)/飛龍

 

・ハ112-Ⅱ(金星相当)/百式司令部偵察機Ⅲ型

九七式重爆撃機以外の3機種は、残念ながら發動機説明書が見つかっていませんので、整備工具の詳細を確認することが出来ません。

※本ページの飛行機イラストは昭和画報さんのご了解を頂いて掲載しています。

 

【参考-2】發動機手入用メガネ

・陸軍JMスパナと一緒に『發動機手入用』メガネを入手しました。

・特定の機種用では無く、發動機用の汎用工具があったのだろうと推察します。

・裏面に"026816"(品番?)の刻印があります。

・星マークも桜マークも無く、陸軍向けなのか海軍向けかは不明です。

・軍向けでは無く、三菱重工や中島飛行機など組立工場用工具の可能性も考える必要があります。

・メガネ部にオフセットが無く、完全フラットの形状は、とても現代的に見えます。

・新製品として今登場してきても、クロームメッキさえ追加すれば、充分に通用しそうです。

・陸軍JMスパナもそうですが、戦時中といえども80年前の日本の作業工具は素晴らしい出来映えだと思います。

・アメリカの戦時中工具だったPLOMBやSnap-on を見て素晴らしい作りだと思っていたのですが、日本製にも同じ印象を持ちました。

・發動機の"發"の上に小さな丸"H"が刻印されています。

・この丸"H"は、陸軍海軍向け共に良く見かけますが、何のマークでしょうか?

・戦前から工具を作っている"H"と言えば、まず服部廣鐵工所(戦後にJISを取得した服部スパナの前身)が頭に浮かびますが、服部廣鐵工所が軍向けに工具を収めていたという情報は見つかっていません。

 

↓海軍例…KTC展示『九九艦爆の機体整備用』、海軍の桜マークと丸"H"

・"H"ではなく、漢字またはカタカナの"工"の可能性もあります。

・"A"と"C"の合体マークは愛知航空機製を示しています。

 

↓陸軍例…"02862"の右  より陸軍向けと分かり、丸"H"の刻印あり

 

当ブログ内の『陸軍發動機/整備工具』は、こちら

同じく『海軍發動機/整備工具』は、こちら

 

 

この回、終わり